第13話 美琴と槍

 俺達3人はダンジョンに入り、夜桜パッドと探索者パッドを使ってゲートを通る。

 1層に向けて歩き出した。後ろを振り向けば美琴が興奮した状態でダンジョンを見ている。


 1時間経過すれば1層に到着した。相変わらず人が多い。


「お兄さん、人多いとモンスターが出て来ないんじゃ」


「だから行くのさ。まぁ付いて来い」


 俺は美琴を隠し部屋まで案内する。人が急にいなくなったことで美琴は驚いた。


「こんな部屋あるんだね」


「ここは隠し部屋なんだ。秘密にしてくれよ」


「うん!」


「それじゃあ、ステータス確認しようか」


「はーい」


 美琴は探索者パッドを出してステータスを確認する。俺と明莉もステータスを見た。


【名前】 遠野美琴 Lv1

【ジョブ】未登録

【HP】 25

【MP】 25

【STR】 25

【VIT】 25

【AGI】 25

【INT】 25

【MND】 25


スキル〈1/2〉

【パラソルガード】Lv1


 めっちゃバランス良いな!? しかも初期スキル持ちかよ!? 羨ましい気持ちが沸き立つ。

 明莉も目をぱちぱちさせていた。美琴本人は、なんかつまらなそうな表情をしている。


「ちえぇ。バランス良すぎでしょ。明確な強みが無いじゃん」


 どうやら自分の初期ステータスに絶望しているらしい。だが美琴は真の絶望を知らない。俺なんかなぁ……

 だがバランスが良いのは初期、正確に言えばレベル10までだ。


「そう落ち込む必要はない。レベル10まで上げて、ジョブについたら強みも発揮される。それに、強みが無い訳じゃないぞ」


「それって初期スキルの事? 【パラソルガード】って何?」


「【パラソルガード】は槍専用のスキルだ。前方に魔力のシールドを展開するんだ。傘みたいにな」


「「へえぇ」」


 美琴の初期スキルは【パラソルガード】。槍専用のスキルで、傘のようなシールドを展開する。汎用性は少ないが、防御面で言えば優秀である。

 俺は【アイテムボックス】から槍を取り出した。


「使ってみるか。本物だから危ないぞ」


「うん。こういうのって手に取れば分かるからね」


 なんか天才が良く言うような言葉を口にした。取り合えず渡してみる。


「それじゃあスライム狩ってくる」


 隠し部屋に入っていった。

 隠し部屋の中ではスライムが美琴に威嚇していた。


「大丈夫?」


「多分な。最初だから苦戦する……」


 と思っていた。


「行きます!」


 美琴が槍を構えてスライムに突っ込む。スライムは触手を伸ばすが、美琴は避けた。


「せやあ!」


 美琴は槍でスライムを突いた。引き抜くとスライムは消滅する。これだけ動ければ満足ものだ。しかし――


「違う。せやああ!」


 美琴はまたスライムを突いていく。一発で仕留めても――


「違う」


 美琴が満足することはなかった。なんとなくその気持ちが分かる。

 隣にいた明莉が口を開いた。


「美琴ちゃんずっと違うって言っているけど、何が違うの?」


「自分の戦い方に納得していないんだ。同時に自分に合う戦い方を模索しているといった感じだ」


「スライムを倒すだけじゃ駄目なの?」


「納得するまでは人それぞれだ。遅かれ早かれいずれ気付く」


 そんな話をしている間に美琴はスライムを倒した。その表情は納得していないといった感じである。


「なんか違うんだよね。もっとかっこよく戦いたいなぁ」


 そっちの悩み!? 俺の発言を返せ!?

 でもかっこよく戦いたいのは分かる。ただ俺は槍を扱ったことが無い。相手にして戦ったことはあるからそれを伝えてみるか。


「かっこよくはないが、まずは基礎を学ぶことだな。それと間合いを把握すること。自分の持っている武器の間合いを意識しないと、懐に潜り込まれるぞ」


「お兄さんやけに詳しいね」


「……今の時代、何処かしらに情報はあるからな。偶然目にしたのだ」


 無論、嘘である。俺がゲームを通してこの世界に転移してきたことなんて言う気にはなれない。


「そうなんだ。まぁ本とか動画でも配信されているからね」


 本はともかく配信は大丈夫なのか?


「それはそれとして。私はもっと戦いたい!」


 美琴は向上心が高かった。恐らくスライムじゃ相手にならないと考えたのだろう。

 2層に行くか。ゴブリンなら多少の相手にはなるだろうし、人型には慣れておかないと、最初の比奈みたいな状態になるだろう。


「それなら2層に行くとしよう」


「分かった!」


 俺達は2層に移動する。その際にスキルの出し方を軽く説明した。


「スキルを出す時はイメージしろ。形でも何でも良い。出すと思えば出せる筈だ」


「うん! 分かった!」


 説明を終える頃には隠し部屋に到着していた。隠し部屋にはゴブリンが沢山いる。


「それじゃあ行ってくる!」


「気を付けてね!」


「はい!」


 美琴は隠し部屋の中に入った。ゴブリン達が一斉に美琴の方を向いた。

 美琴は槍を構え、ゴブリンと戦闘を行う。


「凄い。ゴブリン相手に互角に戦ってる」


「互角どころか優勢だぞ。槍の特徴も把握している」


「特徴?」


 明莉が不思議そうに聞いてきた。俺は適当な説明を繰り出す。


「美琴は槍の範囲内で攻撃を行っている。槍の突きは正確に当てている」


「ゴブリンは1発でも当たったら動きが鈍い気がするけど」


「槍の突きが痛いんだよ。火力が高くて、1発当たれば動きに支障が出てくる。数発当てれば致命傷だ」


 美琴はゴブリンを蹂躙していた。刺突は勿論、打撃だってやばい。当たれば脳を揺らされ脳震盪のうしんとうだって起こす。ゴブリンだってただじゃ済まない。

 美琴はゴブリンを突きで倒していく。1発で倒れないなら2発で倒していた。


 後ろにはゴブリン3体が奇襲を仕掛けた。


「美琴ちゃん!」


 明莉は声を上げた。だが、美琴は気付いている。後ろを振り返り槍を構えた。そして――


「【パラソルガード】!」


 青色の魔力の盾が展開する。盾は槍の穂と柄の間から魔力を出していた。それが傘のように広がっている。故に【パラソルガード】だ。

 ゴブリンは攻撃を魔力の盾で攻撃を防がれさぞ驚いているだろう。


 美琴は【パラソルガード】を展開したまま、ゴブリン達を空中に押し返した。空中では回避行動は不可能。それを成せる技量もない。

 美琴は槍でゴブリン達の腹を切り裂いた。落ちたゴブリン達にとどめの刺突を繰り出した。ゴブリンは魔石になる。


「よくやったな美琴」


「うん、ある程度練習になったかな」


「後ろの敵にはどうやって気付いたの?」


「気配と敵意っていうのが伝わってきたんだよ。ビビッとした感じ」


「そうなんだ」


 明莉は分かったようだ。俺も分かっている。

 美琴は感覚派なのだろう。それにしても妹ながら図太い精神の持ち主だった。もう少し怖がると思ったんだけどな。


「怖くなかったか?」


「最初は怖いと思ったけど、敵意を感じたらそれどころじゃなくなった。私達がやっているのはこれでも殺し合いだから」


 大人だな。俺達が命を張って危険なことをしていると自覚しているのだろう。


「それに、なんか不思議な感覚がした。レベルが上がったと思う」


「そうか。俺達もレベルが上がると感覚が走るんだ」


「じゃあ私もレベル上がったんだね」


 美琴のレベルが2に上がった。格上を倒したからレベルが上がったのだろう。それにしても早い気がするのは考え過ぎか? ……まぁ良いか。


「どうする?」


「私はこのままゴブリンを狩り続けたい。動きも理解したいからね」


「なら、午前中はそうしよう。午後からは俺と明莉さんに付き合って貰うからな」


「分かった」


 俺はゴブリン魔石を回収すると隠し部屋を出る。明莉は美琴に「頑張って!」とエールを送っていたのと「私も力になるから」ともしもの時はスキルを使うことを言っていた。多分美琴がゴブリンに苦戦すること無いんじゃないかな。


 それから美琴のゴブリン狩りが始まった。美琴の槍の扱い方が徐々に上手くなっていく。


 お昼辺りに休憩する。昼食は明莉が出してくれた。【アイテムボックス】からバケットを出す。明莉は暇な時に【アイテムボックス】を出す練習をしていた。

 中には大量のおにぎりが入っていた。


「みんなと一緒に食べれると思って大量に作ってきちゃった。食べよう」


「ありがとう明莉さん!」


「ありがとう」


 美琴は歓喜した。俺もその様子を見て微笑む。


「「「いただきます」」」


 俺達はおにぎりを食べる。……みんなで食べる料理も悪くないと思った。家族とはまた違う感覚だ。





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