第12話 美琴、探索者になる

 それから俺と明莉はトレインレベリングを繰り返し続ける。1日で出来る限りやり続けた。

 おかげで経験値がかなり稼げている。明莉もすぐにレベルが上がるだろう。魔石もだいぶ溜まってきた。なので、売ろうと考えた。


 現在俺と明莉がいるのは夜桜高校の鑑定部の部室前である。今から入ろうとしていた。

 俺と明莉は袋を持っている。袋の中には今まで狩ってきた魔石達。別の袋にはオークロードの魔石もある。


「じゃあ、入るぞ。……失礼します」


「失礼します」


 俺らは部室に入った。部室には色々な魔石があり、中心にはソファーと机が置いてある。

 鑑定部の部員である男女が出迎えてくれた。


「こんにちは、本日はどのようなご用件で」


「もしかして入部ですか!?」


 期待が込められた視線を受けるが、そうではないので断っておこう。


「いや、入部ではない。実は魔石を売りにきました」


「あら残念? 貴方達1年生? どんな魔石を持ってきたのかしら?」


「ゴブリンとオークが中心で、この袋にはオークロードの魔石があります」


「「オークロード!?」」


 男女が驚いた。オークロードの魔石を持ってきたのがよっぽど珍しいことなのか。だがこれでは5層の部屋にオークロードがスポーンすることを知らないのかもしれない。


「取り合えずこちらに座って下さい。部長を呼んできます」


「はい。もし良かったら見ますか? オークロードの魔石」


「是非!」


 女子生徒が食い付いた。男子生徒は羨ましそうに見ているが、仕事を思い出したように立ち去る。

 少ししたら部長の男性がやってきた。


「貴方達がオークロードの魔石を持ってきた生徒ですね。僕は鑑定部の部長をしている岩見いわみと申します」


 部長の岩見が姿を現した。俺と明莉も軽い自己紹介を行った。


「それでは今回は売りに来たんですよね? 数が数なので時間が掛かります。今いる部員を総動員して鑑定しますのでお待ちしていただけませんか」


 数が数だからな。前日に出せば良かった。取り合えず待とう。


「良いですよ。どれくらい掛かりますか?」


「1時間は掛かりますね」


「分かりました。適当に時間潰してます。こちらの魔石を見ても?」


「良いですよ。それでは」


 岩見は男女を連れて隣の鑑定室に向かったのだろう。

 鑑定が完了するまで俺と明莉は部室をぐるぐると回っていた。

 部室には魔石以外にもアイテムが売られていた。アイテムも売っていいのか。


 1時間後、俺と明莉はすっかり席に座っていた。ダンジョンに関する話や女子寮の話で時間を潰していると、岩見が入ってきた。


「鑑定が終わりました。売却は15万5千円になります」


 良し、10万を超えている。


「分かりました。金額を受け取るにはどうすれば?」


「鑑定室に来て下さい。そこにレジがあります」


「分かりました」


 俺と明莉は岩見と共に鑑定室に入る。こちらも魔石やアイテム。専用の道具があった。

 俺はレジを通して夜桜パッドに電子マネーを受け取る。しっかり15万5千円だった。


 俺と明莉は鑑定部から離れる。


「それにしてもこんな大金どう使うつもりなの?」


 明莉が聞いてくる。言ってなかったな。


「探索者になりたいって、美琴が言うから。やっと叶えられる」


「もしかして、美琴ちゃんの為?」


「そうだな。……この後武器庫寄って良いか?」




 翌日、今日は土曜日。俺と美琴は探索者協会に向かっていた。美琴はこの日を待っていたと言わんばかりに興奮している。

 服装は俺が制服。美琴はジャージに短パンであった。


「美琴、嬉しそうだな」


「だって探索者になれるんだよ! めっちゃワクワクするに決まっているよ!」


 美琴はテレビや動画でも探索者の映像を見るくらいには探索者が大好きである。よくご飯食べている時に話をしていた。

 美琴にとって探索者になるのはまさに夢のような出来事なのだろう。


 探索者協会に着く。その前には


「和真君! 美琴ちゃん!」


「明莉さん!」


 明莉が手を振っている。服装は制服である。基本的にいつもこれだ。

 美琴は駆け足で明莉の元に近付いた。


「明莉さん、待ったか?」


「ううん。そんなに」


「今日は明莉さんも一緒にやるんですね。ありがとうございます」


「そんな敬語じゃなくても良いよ、美琴ちゃん」


「そうですか? それじゃあ……よろしく、明莉さん」


 早速明莉と美琴が仲良しになる。女子は仲良くなるの早いな。


「行くぞ」


「「はーい」」


 息をぴったりだった。


 俺は明莉と美琴を連れて探索者協会に入る。受付やダンジョンの時に使用する建物に入った。

 受付まで到着すると俺は見知った顔と再会した。


「あ、貴女はあの時の」


「君は、2週間ぶりね」


 俺が初めて探索者協会に来て、受付嬢をしていた女性がいた。


「元気にしている? 上手くいっているかしら? それに、女子も連れてくるようになっちゃって」


 どうやら受付嬢は俺が連れてきた明莉と美琴を見て微笑んだ。1人は友達で、もう1人は妹なのだが。

 それでも元気にしているか聞いてくるあたり心配をかけていたかもしれないな。


「俺は元気にやっていますよ。こうして友達が出来るくらいには」


「そう、良かったわ。……それで、本日はどのようなご用件で?」


 俺の近況を聞くと仕事モードに入った。心配は晴れていたら良いな。


「美琴を探索者登録してくれませんか?」


「美琴さんは――」


「はい、私です!」


「分かりました。金額は10万円になります」


「夜桜パッドの電子マネーで払います」


 この時の為に魔石を集めていたのだ。魔石集めはこれからも続くだろう。下に行けば行くほど、魔石の価値は上がっていく。

 俺は夜桜パッドで10万円支払った。


「それでは、探索者登録を行いますね」


 美琴が前に出て受付嬢と共に探索者登録を進めていく。

 俺の時とは違い美琴は夜桜パッドを持っていない。なので最初に個人情報を登録。次に専用の機械を渡した。これを『探索者パッド』と呼ぶ。最後に美琴の指を一番下の真ん中に置いて、探索者パッドが美琴のステータスを登録した。


「これで準備は完了となります。美琴さん、くれぐれも他人に、いえ信頼出来ない人には見せないで下さい」


「分かりました。心に留めておきます」


 受付嬢の真剣な眼差しに応えるように美琴も真剣な表情をして答えた。

 美琴の答えを聞くと受付嬢の表情は緩やかなものになる。


「中学生で探索者。理想とは違う場面がいくつも出てくるでしょう。きっと、貴女が夢見ていたような出来事の裏は残酷よ」


 忠告するように受付嬢は呟いた。それでも美琴は――


「大丈夫です。私こう見えても結構ポジティブなんで。……それに、お兄さんや明莉さんがいるから、大抵のことはなんとかなると思います」


 後半からは笑顔で返答した。


「私の心配は要らなかったみたいね」


「いえ、心配してくれてありがとうございます」


「これで探索者登録は終了です。貴女が探索者として成功することを心より願っています」


 こうして美琴の探索者登録は無事に終わったのだった。





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