第11話 関係
俺と明莉はダンジョンから転移した。場所は玄関であった。
「ここは?」
「俺の家だな。1層に転移したかったが、ここの方が安全だから身勝手ながら転移させて貰った」
「私は大丈夫だよ。むしろ気遣ってくれたんだよね」
「そういう認識でも構わない。ここに居座るのもなんだから上がれば――」
俺が中に入るのを促す前に玄関の鍵が開錠した。そのまま扉が開いて現れたのは
「あれ? お兄さんおかえり、ってそちらの女性は!?」
「あっ! 初めまして! 結城明莉です!」
これが明莉と美琴の初会合であった。
俺は取り合えず美琴と明莉を中まで入れる。取り合えずリビングに明莉を座らせると、美琴がお茶を用意してくれた。
「ごゆっくりして下さい」
「ありがとう」
「私は店の方手伝ってくるね」
「分かった」
美琴は制服姿のまま店の手伝いへ向かう。何故かウィンクをしたのだが何か誤解しているな?
さてと、転移したのは良いがここまで来てそのまま帰すのもあれだし、少しだけ話をするか。
「色々話したいことはある。まずは秘密にして欲しいことだ」
「このテレポートリングと、もしかして【アイテムボックス】?」
「その通りだ。他にもトレインレベリング、トレインを利用したレベル上げのことも内緒にして欲しい」
この3つの内知られちゃ不味いのはテレポートリングのことだろう。テレポートリングがあるのと無いのとではダンジョン攻略の効率が段違いだ。もし知らなければダンジョン内で野営、キャンプをすることを強いられるからである。
でもよくよく考えれば知られてもそこまで影響ないと思うんだよな。むしろ俺の知識を知られる方が考えうる最悪ではあるな。
「うん、分かった。内緒にするよ」
「秘密ばかり抱え込ませて悪いな」
「良いよ。……その代わりなんだけどさ」
「うん?」
「私も、和真君と一緒に強くなりたい」
そう来るか。……いや味方は1人でもいる方が良いか。秘密を共有する仲でもある訳だし。強くなりたいのは俺だって同じだからな。
「良いよ。かなりきついし、秘密や常識外れな行動も多いけど、それでも付いて来るか?」
「うん。秘密はちゃんと守るって約束する。……もしもの時は私が止めるから」
「止められるならな」
「これからもよろしくね、和真」
「呼び捨てになっているが」
「……2人きりの時だけだよ。時間が経てば、普通にするかもね」
「勝手にしろ……よろしくな、明莉」
俺も勝手に呼び捨てにさせてもらおう。明莉は呼び捨てを聞いて微笑んだ。自然と口角が上がった。
さてと、ある程度俺達の関係が定まった所で話を続けるとしよう。主にステータスに関してだ。
「さっき、俺達はオークロードを倒したからレベルが上がっている筈だ。一度確認してみよう」
「うん。これってステータス見せた方が良い?」
「それは明莉に任せる。ただステータスに関してある程度力になれる」
「分かったよ」
俺と明莉は夜桜パッドでステータスを確認した。それをお互いに見せ合う。
【名前】 遠野和真 Lv5
【ジョブ】 未登録
【HP】 43
【MP】 45
【STR】 42
【VIT】 40
【AGI】 41
【INT】 37
【MND】 39
スキル〈1/2〉
【スローアップ】
【名前】 結城明莉 Lv6
【ジョブ】 未登録
【HP】 50
【MP】 100
【STR】 35
【VIT】 40
【AGI】 38
【INT】 70
【MND】 60
スキル〈1/2〉
【ホープアップ】Lv1
流石明莉。主人公に恥じない性能をしている。これなら魔法のスキルを使うジョブに付かせるのが定石だ。
俺も悪くはないけど、比べると見劣るな。レベリングも遅いのにここまで差があるとちょびっと涙出そうだ。
「和真はスキル
ふむ、どうやら明莉を見れないのか。どう説明をするか。
「いや、俺はスキルあるぞ。【スローアップ】っていうスキルが」
「えっ? あっ、ほんとだ!? さっきのは見間違いなのかな?」
それはないだろう。前に俺のステータスを見せたがあの不良共は完全に見えていなかった。
つまり俺が
「俺が認知させたから見えたんだと思うぞ」
「そうなんだね。それにしてもスキルレベルが無いなんて」
スキルにもレベルがある。明莉の【ホープアップ】もスキルレベルが存在する。対して俺の【スローアップ】にはスキルレベルが存在しない。だからついつい珍しいものを見た感じなのだろう。
「スキルレベルが存在しないスキルもあるさ」
「そうだね」
俺と明莉はステータスを見せ終えた後、遂にジョブの話になった。
「それにしてもレベル5を超えたらジョブが選べるんだよね! 和真は何にするの?」
「俺はレベル10までジョブにはつかないよ」
「ええぇっ!?」
明莉は驚いて声を上げた。どうやら知らないようだ。
「どうして?」
「未登録のままレベル10まで上げるとスキルスロットが5つ増えるんだ」
「5つも!?」
「そうだぞ。これは秘密だから誰にも言うなよ」
「うん。和真って何でも知っているんだね」
「……ダンジョンのことに関してはな」
レジダンでは覚えられるスキルに限りがある。使えるスキルをスキルスロットと呼んでいる。俺と明莉は現在、2つしかスキルを使うことが出来ない。……のだが例外はあり、スキルスロットに無くても使えるスキルがある。更にその例外がアイテムボックスだ。
「私もレベル10までジョブにつかない方が良い?」
「嗚呼、出来るならそうしてくれ。でも最終的に決めるのは明莉だ。ジョブについても責めはしない」
「分かった。じゃあジョブにはつかないことにする!」
「やけに俺のこと信頼しているんだな」
「……もしかして全部嘘だったり?」
「嘘つく理由が無いがな」
「よ、よかったぁ」と胸を撫で降ろす明莉。やはりお人好し過ぎるとは思う。心配な反面、俺のことを信頼してくれて、少し嬉しい。
俺が強くなるのも、明莉が何処までついて来れるか、どちらも楽しみになってきた。
「それじゃあ、ジョブについて軽く説明するぞ」
「おおぉ!」
俺は最初につくであろうジョブについて語るのだった。
俺は簡単に説明した後、ちゃんと帰そうと思っていた。だが、俺は熱くなるあまりブレーキ―を踏むのを忘れていた。結果、何が起きたかと言えば――
「はい、明莉ちゃんの分。家の息子がお世話になっております」
「いえいえ。私の方こそお世話になっています。今日だってオークロードを倒したんですよ」
「えええぇ!? オークロードを倒した!? 俺だってなんとか苦戦して倒したのに……」
「流石お兄さん。明莉さんも凄いです」
「私は大したことしてないよ」
明莉は帰宅する時間が大幅に遅れて、家族と一緒に夕飯を食べていた。なんでこうなったかは俺が詳しくジョブについて話していたからだ。途中から明莉は話についていけず、聞いていなかった。
完全に俺の失態であった。そして今はオークロードを倒したことで大盛り上がり。父さんの発言には驚いたが、あれを正攻法で倒したのなら大したものだ。
「和真君に妹がいたなんて驚いたよ。美琴ちゃんはお母さん似なんだね」
おっと、それを聞いてくるか。……別に大したことじゃないしと思っていたら、
「お母さんとは血が繋がってますから」
「えっ?」
「お父さんとお兄さんとは血が繋がってないんですよ」
「ごめん……嫌なこと聞いちゃったよね」
「全然。私もお兄さんもそこまで気にしてませんよ。ねっ、お兄さん」
「嗚呼。美琴が俺の妹であることは変わりないしな」
妹ながら精神が図太いな。これには俺も流石としか言い様がない。……俺の発言にはデレデレだが。
本当に気にしていないんだ。俺も美琴も。俺達が兄妹であることに変わりはない。
「それよりも、和真と明莉ちゃんはどんな関係なのかしら?」
「そうだ! お父さんもそれを聞きたかったんだ! もしかして、恋人か!?」
なぁにを言っているだこの両親は。俺と明莉が恋人なんてあり得んだろ。俺と明莉は……おい明莉。なんでそんな慌てているのだ。言葉に出来ていないぞ。心なしか頬も赤い気がする。
多分気の所為だと思うので、俺が関係性を打ち明けよう。
「恋人じゃないよ。明莉とは仲間で、
「っ! 和真、君。……はい。私と和真君は友達です!」
明莉が嬉しそうな表情をした。それほど俺との関係性が嬉しいのだろうか。
俺は嘘を言っていない。本当に友達だと思っている。
そして……父さんと母さんは号泣した。もしかして、これが親馬鹿?
「聞かせて、明莉さん! 貴女と和真との馴れ初めを!」
「はい!」
俺の話を聞いたところで何も……
「私が暴行を受けた時に、助けてくれたんです」
「きゃあああああああああ!!」
お母さんが黄色の悲鳴を上げた。父さんは「よくやった! 流石俺の息子だ!」と褒めてくれた。美琴は微笑んでいるだけ。明莉は素直に答えていく。
俺は黙々と食事をする。これは止められそうにない。
夕食を食べ終えた後、俺は明莉を女子寮まで送り届ける。笑顔で俺の家族について語っていた。取り合えず好印象ではあった。
女子寮に到着した。
「和真、またね」
「またな」
俺と明莉は別れる。今日はとても疲れた。
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