第10話 オークロード攻略戦

 俺と明莉は5層の入り口に向かって戻っていた。引き返した際に、入り口まで戻ろうと明莉に提案した。明莉はそれを了承。

 だが俺は足を止めた。場所は5層の入り口手前くらい。そこでとある部屋を発見する。


「ここだ」


「和真君、何を見つけたの? 私にはけど」


 なるほど。明莉は見えないのか。そこには部屋の入り口があるのだが。

 プレイヤーだったから認識出来ている可能性があるな。俺の後を付いて来て貰おう。


「俺の後に続け。すぐに分かる」


「分かったよ」


 俺が部屋に入る。少し進んだ後に振り返ると、身構えながらも入ってきた明莉と目が合った。


「こんな場所があったなんて。和真君が見えていたのも不思議」


「何故見えていたかについては話さない方が良い。俺も全てを理解している訳ではないからな」


「そ、そうなんだ」


「それよりも」


 俺は前を向く。奥には木材の宝箱がある。

 俺は宝箱に近付く。ワクワクするような興奮は無い。それは中身を知っているからである。

 宝箱を開ける。そこには2つの指輪があった。2つとも取ると、明莉に手渡しする。


「こ、これは!?」


 明莉の頬が赤い。何がとは言わないが、誤解していたら不味いし説明するか。……そもそも何故赤くなる?


「これは『テレポートリング』。文字通り、ダンジョン内や外に転移出来るアイテムだ」


「えっ!? それが本当だったらダンジョンの常識が崩壊する!?」


 俺はまだ違う意味で転移してきて数週間しか経たないが、常識がぶち壊されるくらいには大発見なのか。やはりゲームと現実とでは反応が違うか。

 さて、本題を切り出そう。


「明莉さんはこれを付けて1層の隠し部屋に行け」


「どうして?」


「俺はトレインを利用してオークロードを倒す」


 明莉は驚いた。

 俺が明莉にテレポートリングを持たせたのは帰らせる為だった。


「なんで! 和真君がやらなくても他の誰かがやってくれるよ! 協会に行って強い探索者を探せば」


「協力してくれるとは限らない。俺が出せる報酬もない。何より、探索者同士は仲間でない限りお互いに嫌っているかもしれない」


「それは……」


「それにオークロードを引き寄せてしまったのは俺だ。レベルの低いパーティーは死人が出てしまう。最悪全滅だろうな」


 明莉は言葉に詰まるように喋らなくなった。

 これでも俺は責任を感じている。あの部屋にはオークロードがスポーンすることもあるが、低確率で滅多に出ない。なのに出てしまった。放置すれば誰も使うことが出来なくなる。死人も出るだろう。

 俺は、それがたまらなく嫌なんだ。


「俺がトレインで周りのモンスターを倒して、オークロードを倒す。ただ、これは危険だ。明莉さんを巻き込みたくない。転移することを勧める。それじゃあ」


 俺は行こうとする。しかし、その手を明莉が掴んだ。


「私も行く。力になりたいの」


 確かに明莉の【ホープアップ】は欲しい所だ。俺の勝率が上がる。ただ……危険過ぎるんだよな。


「危険過ぎる。明莉さんだって言っただろ。『命を落としたら元も子もない』と。ここで明莉さんが命を張る必要はない」


 俺は親切に断る。それでも……彼女は諦めなかった。

 明莉が俺の前に立つ。彼女の瞳は真っ直ぐだった。


「嫌なんだ! 自分に出来ることをしないことが! を見捨てることが!

 和真君だけじゃない。私も一緒に戦う!!」


「明莉さん」


 ここまで出来るのか。俺は正直驚いている。それに数回組んだだけなのに、仲間と叫ぶか。……明莉は俺が思っている以上にお人好しだな。そして強い少女だ。

 その覚悟、受け取った。


「さっきは強く当たり過ぎた、ごめん。……オークロードを倒す為に、俺と一緒に来てくれ」


「うんっ!」


 俺と明莉はオークロードを倒すことを決意する。




 俺と明莉は定位置に着く。俺は部屋の前。明莉は岩石が転がっている所で待機だ。明莉がいることでこの作戦はなんとか成功するだろう。


『和真君、転がった』


 転がったか。ミッションスタートだ。


 俺は部屋に入った。オークロードが咆哮を上げて仲間を呼び寄せた。

 くらえ、小石!

 俺の小石は全てのモンスターにヒットする。そのまま部屋を出てモンスターをトレインを決行した。


 走って明莉の元まで辿り着く。モンスター達も俺と明莉に迫ろうとした。その瞬間、岩石が転がってきた。獲物に夢中だから狙われるんだ。……と言ってもアイツだけは逃れてるだろうがな。


「そんな」


「問題ない。想定内だ」


 明莉は驚いたが俺は想定内だ。だってゲームだってそうだったのだからな。

 岩石はモンスターを轢き殺した。だが最後尾にいたオークロードだけはその被害から免れていた。


「ウオオオオオオ!!!」


 オークロードが叫び声を上げる。俺は大丈夫だが、視線を変えると明莉の体が震えていた。


「明莉さん」


「っ……大丈夫だよ! 和真君がいるんだもん」


 謎の自信だな。だが震えは消えたし良いか。明莉は杖を強く握り締める。


「はあああ」


 うん? 明莉何をしているんだ。明莉さんの周りにある魔力が増加していく。攻撃スキルは覚えていないはずだ。いったい何を……


「【ホープアップ】!!」


「っ!? これは」


 俺にバフが掛かる。だが前よりも力強く感じる。


「和真君」


「分かっている。……やっぱこれどういうこと?」


「うーん、魔力を倍消費してスキルを使った。初めてやったけど強化されていると思う!」


 魔力、つまりMPを倍消費したのか。マジか、ここでこんなことするか。ゲームでは出来ない技だからどんな効果があるか俺にも分からん。強化時間が伸びたか、威力の底上げか。

 どちらにせよ、負ける気が全然しない。


「行くか」


「頑張れ! 和真!」


「任せろ」


 俺はオークロードに歩み寄る。咆哮を上げたくらいじゃ止まらないぞ。

 オークロードは俺に拳を振り上げてくる。剣を抜刀し、腕を斜めに切り裂いた。


「グアアアアァ!!」


「これは、威力が上がっている。なら早々に決着を付けよう」


 俺は駆け足でオークロードに近付いた。腹を切り裂く。大量の血とオークロードの悲鳴が聞こえた。

 オークロードは下がっていく。だが逃がさない。足を切断させてもらう!


「グオオオオ!!?」


「はあああぁ!!」


 俺はオークロードに切り傷を与えていく。ひたすらHPを削っていく。気付けばオークロードの体中が傷だらけになっており、片腕も切り落とした。

 ホープアップの残り時間は、もう少ないだろ。これで終わらせる。


 俺は跳躍して、オークロードの首を狙う。そのことに気付いたオークロードは逃げようとする。だが、遅いな。

 剣を横に振った。オークロードに1本の線が入る。そこから血が溢れ出し、首が切り落とされた。

 オークロードが消滅する。魔石だけが残った。俺は剣を鞘に納める。同時に【ホープアップ】の効果が切れた。威力増加か。


「和真君!!」


「今、行くよ」


 俺はオークロードの魔石を持って明莉に近付いた。


「魔力を倍に消費したら威力が上がった。時間は延びなかったがな」


「時間も延ばせれば良いんだけど」


「威力が上がるだけでも十分さ。それに時間を延ばすことも可能になるかもしれない。本当によくやったよ」


 ある意味、可能性が広がった。ゲームじゃない現実だからこそ出来ることがあるのだろう。それを明莉が証明してくれた。それか主人公だからか? ……いや、明莉という少女だから出来たのか。


「明莉」


「うん?」


「ありがとう」


「っ! 私も、信じてくれてありがとう」


「ああ」


 まさかここまで明莉と共闘するとは。最初は困惑したし、関わりたくなかった。それが、仲間と呼ばれるまでなるとはな。人生、何が起こるか分からないな。


「それじゃあ、【アイテムボックス】」


 俺は【アイテムボックス】に魔石を仕舞い込んだ。明莉は目を見開いていた。


「これが現在、俺が使えるスキル」


「す、凄いね。これなら袋とかいらないね」


「いらない訳ではないが、便利ではあるな」


 俺は【アイテムボックス】を閉じる。さて、ここにはもう用はない。流石に疲れた。


「それじゃあ帰るぞ。テレポートリングを使う。……手を握れ」


「うん!」


 俺と明莉は手にテレポートリングをはめると、手を握る。


「行き先は任せるよ」


「分かった。それじゃあ、行くぞ」


 俺と明莉は光に包まれる。

 テレポートリングを使ってダンジョンから出ていくのであった。





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