第9話 トレインレベリング

 俺はレベル4になって、ステータスはこんな感じだった。


【名前】 遠野和真 Lv4

【ジョブ】 未登録

【HP】 35

【MP】 37

【STR】 34

【VIT】 32

【AGI】 33

【INT】 29

【MND】 31


スキル〈1/2〉

【スローアップ】


 ステータスの全てが30台に上がってくれた。これでも主人公達には追い付いてはいないだろう。しかし、ステータスの伸びが良いな。ゲームでもここまで伸びたことは無い。

 俺自身の能力か、初期スキルのおかげか。


 俺は確信する。遂にアレをやる時が来たのだと。




 俺は有頂天だ。遂にチマチマしたレベル上げ、も楽しかったがこれ以上に効率的なレベル上げが出来るのだ。ゲームの話だから上手くいくとは限らないが、出来る筈だ。信じているぞ。

 嗚呼、叫びたい。レベルが上がる快感を得られると思うだけで心が躍る。……筈だった。

 彼女がいなければ。


「はっきり言って邪魔なんだけど」


「もう、そんな酷いこと言わないでよ! こっちは心配しているんだから」


「俺に心配事など無用だ」


 何度もこう言っているのだが食い下がらないのは女主人公である明莉だ。3層で偶然再会し俺に付いて来ているのだ。もう草原広がる4層から5層に降りる手前まで来てしまった。ここで引き返すなら一緒に行っても良いんだが。


「心配だよ。和真君、1人でレベル上げする時は大体危険だって分かったから」


「もしかしてシーフとメイジのことか? あれくらいで危険と思うなら、俺はここにはいない」


 何しろ俺、あれ以上に危険なことしようとしているんだからな。だから立ち去ると言って欲しいのだが。


「私は、和真君と一緒にレベル上げしたいの? それが理由じゃ、駄目かな」


「……仕方ない。これから行うことを秘密だから、誰にも言うなよ」


「うん!」


 上目遣いで見てきて俺は仕方なく来ることを了承した。ヒロインみたいな頼み方だったけど何処で覚えたんだ。

 イライラはしないよ。ここまで来たんだから少し利用させて貰う。


 俺と明莉は5層に到着する。5層は茶色の岩が囲む洞窟のダンジョン。上には鍾乳石が垂れていた。

 明莉は目を輝かせながら俺に付いて来ていた。俺と明莉は進み続けるが、暫くすると俺は止まった。


「どうしたの?」


「絶対に動くな。……聞こえるだろ」


「えっ? ほんとだ。これって」


 ゴロゴロとする音が聞こえてくる。それは俺と明莉の斜め先の転がる音である。音が近付いてくる。夜桜パッドを取り、ストップウォッチ機能を起動した。

 俺と明莉の前に巨大な岩石が姿を現した。


「わっ!?」


「これがこの道の特徴、だな。巨大な岩石が転がってくる。こんなの当たったらHPは0だろうな」


「あ、危なかった」


 岩石は道から外れて底に落ちていった。フェンスは無いから落ちるのも怖いものだ。落ちた瞬間に俺はストップウォッチを押した。


「ここは危ない。先に進め」


「う、うん。和真君は何しているの?」


「ここの岩石が通る時間を計っている。これはに利用出来るからな」


「トレイン?」


 そう言えば学校の授業だとまだ習っていないか。聞くより実際見た方が早いかもしれないな。どれほど危険で、効率的かを。

 再び岩石が通っていく。俺はここでストップウォッチを止めた。30秒で止まった。ここら辺はゲームと変わらないか。これならいけるか。明莉の協力もあれば事故もないだろ。


「明莉さん、連絡先交換するか?」


「えっ? ええぇっ!?」


 そんなに驚くか。明莉はポカーンしていた。

 俺と明莉は夜桜パッドに連絡先を交換した。そして電話を繋げたまま、俺と明莉は一旦離れる。




 俺はこの層にある部屋に到着していた。部屋にはオークとゴブリン4体がいた。ゴブリンはともかくオークは中々厄介な性能だ。だって戦闘になると、ゴブリン種とオークの仲間と呼び出すのだ。通常の攻略だと中々骨が折れる。攻略できるようになっているから、そこだけは幸運だった。


 ただここで考えたプレイヤーがいた。この層には利用出来るものがあるのではないか、効率的に周回出来るのではないかと考えた結果、トレインが選択されたのだ。


『和真君、岩石が出てきたよ』


 明莉の報告に俺は自然と口角を上げた。いけない、ここは現実なんだから真剣にやらなければ。


 俺はアイテムボックスから石を取り出す。小粒の石で何粒もあった。部屋に入るとオークが仲間を呼び出した。今回はゴブリンが2体増える。

 俺は小石をぶつける。モンスターが反応した。そして俺は、部屋から離れて全速力で走る。後ろにはモンスターが大量に付いて来る。


「ひゃっ!?」


 俺が連れてきたモンスターの数に明莉が驚いた。ただ大丈夫、俺の予感ならもうすぐモンスターは消滅する。

 俺が通り過ぎた瞬間、岩石がモンスター達をひいた。モンスター達は岩石に押し潰されて消滅。魔石が落ちていた。


「うひょう! 俺の収入源ゲットだぜ!」


 俺はホクホクの魔石を大量に抱え込む。自然消滅だけは避けたい。これは俺の数少ない収入源なのだから。


「……和真君」


「うん?」


「ちょっと良いかな?」


 俺は明莉に近付いていく。何か顔が赤くなっていた。


「あれがトレインなの?」


「そうだよ。モンスターを連れてくる行為がトレインだ。これは探索者の利敵行為に当たり、周りに他の探索者がいたらやってはいけないんだ」


「どうしてこんな危険なことしたの!」


 明莉は俺に対して怒りを露わにする。正義感の強い彼女からすれば看過出来ないことなのだろう。

 それでも俺は進み続けなきゃいけない。これが俺の収入源なのとレベルが上がるから。


「これくらいしないと効率的にレベルが上がらないからだ。俺は進み続けるには、これくらいは当たり前なんだ」


「それで命落としたら元も子もないよ!」


「俺は死なない。……この方法を何度もシミュレーションしたからな。気に入らないなら戻って構わない。その方法くらいは手伝う」


「……私は……ここに残るよ。危ないから放っておけない」


「勝手にしろ。この秘密を誰にも話さなければ好きにして良い」


 なんだか険悪な雰囲気になってしまった。それでもこれが今の時点で効率的なんだ。――許してくれとも、理解しろとも言わなかった。明莉の言葉は正論だから。


 岩石が転がった瞬間俺は再び部屋へと向かった。通話は繋がっているが一言も話していない。

 そんな感じで俺は部屋を覗いた。


「っ!」


 俺は部屋の前で引き返すことを決意した。


「明莉、話したいことがある」


『どうしたの?』


「部屋に、オークロードがいる」


 俺は大変な低確率を引いてしまったようだ。





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