第5話 イベント

 今日の前に昨日の話をさせてくれ。俺は昨日、普通に【アイテムボックス】を使ったら家族全員から驚かされた。父さんと母さんに使えるのではと進言した所使わなかったことが判明する事態になった。

 それから父さんと母さんは時間を掛けて【アイテムボックス】を使えるようになった。美琴は使えないままでガッカリしていた。


 もしかしたら【アイテムボックス】は探索者しか使えないかもしれない。

 それと父さんと母さんが何故【アイテムボックス】を使わなかったのか聞くと、そもそも知らなかったらしい。


 俺は【アイテムボックス】のことは秘密にしてくれと家族に頼んで、【アイテムボックス】知らなかった事件は一旦幕を閉じる。




 今日は月曜日。夜桜高等学校に登校する。幼馴染や友達の類はいなかった。つまり……ぼっちだった。

 昨日の疲れは寝て消えていた。欠伸は出るけどな。


 そんなこんなで夜桜高等学校に到着。俺は昇降口を通り過ぎようとして


「おはよう! 和真君!」


 赤い髪の毛をした主人公に声を掛けられた。名前を聞かれただけでビクッとしてしまった。


「……おはようございます。明莉さん」


 俺は挨拶を返す。ここで無視することは出来ない。何故なら……挨拶は返すべき言葉だからだ。

 クラスメイトという関係を持っている以上関わらないことなど不可能だ。


「今から教室でしょ。一緒に行かない?」


「付いて行くだけですよ」


 といった感じで俺と明莉は一緒に教室の前まで向かった。

 教室の前には、数人の生徒達がいた。


「Eクラスの雑魚共は俺達にステータスを見せろ! 雑用係くらいにはしてやるよぉ」


 教室の中からそんな声が聞こえてきた。出入り口にも何人か男達がいる。

 うん? このセリフは、あれか。あのイベントなのか!?


 今頃教室中は大混乱だろう。抵抗しようとすれば暴力やプレッシャーで対応してくるだろう。これはそういうイベントだ。

 1人がこちらにやってくる。ここは無駄な抵抗はしないで、ちょっ! 明莉!?


「何をしているんですか」


「嗚呼、聞いて分からねえのか? ステータス見せろって言ってるんだよ」


 やばい。明莉が面倒事を起こすと大変なことになる。アイツの仲間だからチンピラとか不良な生徒が多い。……もし主人公が相手も手を出し兼ね――


「嫌です。早く立ち去ってくれませんか」


「……調子乗んなよ、女ぁ!!」


「うっ!!?」


 瞬間、彼女は殴られた。明莉は横の壁にぶつかる。頬は赤く腫れており、口角からは血が流れていた。嗚呼、最悪だ!

 騒ぎで仲間が2人やってきた。


 俺は明莉を助ける。たとえ俺が悪役モブでも。だって、助けた方が気分良いに決まっている。


 俺は彼女の前に立った。案の定囲まれたし。


「どけよ」


「まず話を聞かない? 俺のステータス見せる……反応は任せる」


「はぁ?」


 俺は目の前の男性に夜桜パッドを投げ渡した。勿論ステータスを表示した画面にして。

 もう何も言われても動じないぞ。気にすらしないかも。

 男は俺のステータスを見た後、大爆笑した。


「あはははは! なんだこのステータス! 雑魚じゃん、雑用すら使えないゴミだわ! ステータスは低いし。最弱中の最弱男だよお前!」


 男の発言に仲間が食い付いたのか移動して俺のステータスを見た。同じ反応で見下すような目だった。

 だがどういうことだ。俺には【スローアップ】というスキルがある。彼らは見えていないのか? そうだとしたらますます【スローアップ】は特殊なスキルだ。

 俺はDクラスの奴らから雑魚認定された。俺も自分が雑魚だと思うよ。今の自分だけどな。


 十分笑っただろう。俺の話を少しでも聞いて貰えれば良いんだけど。


「これ以上はやめろ」


 言う前に教室から2人の男が出てきた。1人は男性主人公の奏汰。もう1人は坊主頭で体が大きい男。彼の名前は郷田ごうだ秀明ひであき。Dクラスのリーダーである。

 2人は睨み合っている。バチバチと火花が散っているように見えた。


「俺は郷田秀明。お前にチャンスをやる」


「なに?」


「今から2週間後。闘技場で俺とお前が戦う。もし勝てたらこれ以上Eクラスにこのようなことはしねえよ」


「……分かった。受けて立つぜ」


「戻るぞ、お前ら!」


 2週間後の約束をした後、秀明の号令によりDクラスのメンツはぞろぞろと戻って行く。俺に構っていた奴らも夜桜パッドを投げ返して戻って行った。


「明莉さん。大丈夫ですか」


「うん、大丈夫だよ……」


「怪我をしています。保健室まで行きましょう」


「分かった」


 俺は明莉に手を伸ばす。悪役モブだった俺が明莉に手を伸ばすなんて奇妙な話だ。

 明莉は手を握る。立ち上がると「和真君」と呼んだ。うん?


「ありがとう」


「……気にするな。さっさと行こう」


「うん!」


 俺と明莉は保健室に行くのであった。


 この後、数人同じクラスメイトがやってきた。やっぱ暴力振るわれたか。


 ……それにしてもからのイベントだったけど大丈夫だよな。主人公だし、なんとかなると思いたい。




 今日、俺達は学校の施設を回ることになった。Dクラスから喧嘩を売られた訳か、みんなの雰囲気は割と良くない。俺は対して気にしてもいなかった。


 回った場所は闘技場、武器庫等、学校生活で使う場所を回った。

 闘技場は2つあった。予約制で、使える日は限られている状況だった。2週間後に奏汰と秀明が戦う場所でもある。

 武器庫にはそれぞれ武器があった。剣、槍、斧、レイピア等の武器や杖等もある。レンタルが出来て、借りる時は表紙に名前を書く必要がある。ただ防犯面は脆いな。監視カメラは付いていないのが気掛かりであった。


 こうして俺達は学校の施設を回り、最後に到着したのは食堂であった。

 食堂の前で東谷先生が声を上げる。


「今回はここで解散するが、課題が1つある! それは探索者協会で探索者の登録をすることだ。協会に行き探索者登録をした後は自由に行動して良い。そのまま帰るなり、ダンジョンに入っても良い。くれぐれも周りに迷惑をかけるなよ。解散!」


 と、言うことで解散になった。


 みんな活気に溢れていた。ダンジョンに行けるのだからそれはそうか。

 で、俺は何をしているのかといえば、1人で生姜焼き定食を食べていた。俺を誘うクラスメイトはいなかった。恐らく最弱であることが分かっているからだろう。あの男かなり大声で話して聞こえた可能性がある。

 まぁ、俺は別に組まなくても良い。もう課題は終わっているからな。


 生姜焼き定食を美味しく頂いていると


「やぁ、和真君だっけ」


 うん? 俺に話し掛けるなんて珍しい奴もいるんだな。

 俺は前を向いた。


「なんですか、竜之介君」


「呼び捨てで構わないよ、和真」


「なんだ、竜之介」


「ここ座るね」


 俺の真正面にイケメンが座った。銀色の髪が少しふんわりとしていて、目の色は灰色。俺と同じクラスメイト。

 名前は望月もちづき竜之介りゅうのすけ。そんな彼がなんの用だろうか。


「用はなんだ。俺は別に一緒にご飯を食べに来たでも大丈夫だが」


「君は最弱なのかい?」


「そうだが」


「……正直だね」


「誤魔化すことでもないからな」


 そんなことを聞きに来たのか。イケメンも暇なんだな。……悪い奴には見えないけどなぁ。


「俺の所にはそんなことを言いに?」


「違うよ。君と僕でパーティーを組まないかい? 僕も余りなんだ」


 イケメンからして女子に誘われそうな気がするけどな。パーティーの編成か。俺一人でも十分だし課題は終わっている。


「俺は最弱だぞ」


「何かあったら僕が守る」


 頼りになるな、竜之介は。ここまで言ったんだ。俺も応えるべきだろう。


「……まぁ良いぞ」


「ありがとう」


 イケメンの笑顔は眩しかった。

 更にここに彼女達が来た。


「あ、和真君と竜之介君」


「ここ、良いかな」


 明莉と比奈もやってきた。立たせるも悪いので了承した。それにしても何故俺の所に来るんだ?


「明莉さんも比奈さんもどうしてここに?」


「私達ダンジョンに行こうと思っているんだけど、実は後2人メンバーが欲しいの」


「4人くらいいれば何とかなると思ったんです」


 明莉と比奈はパーティーを組みたいとのことであった。するとイケメンが俺に視線を送る。イケメンが何故こんなことをしたのか分からないが……初対面でこんなことをする俺と竜之介。


「なら僕らが組んで上げるよ」


「えっ?」


「ほんとですか!?」


「良いよ。和真も良いだろ?」


 待て待て主人公がいるんだぞ。お前は良いかもしれないけど、俺は破滅まっしぐらなんだよ!? でも断るとぼっちになってしまう。

 仕方ない。また恩を売るか。


「……良いぞ」


「「ありがとう(ございます)!」」


 明莉と比奈が向かい合い笑顔を見せた。俺はその様子を見てつい微笑んでしまった。竜之介も微笑んでいる。


「それじゃあパーティー登録をしましょう」


 比奈の一声で俺達はパーティー登録をする。これをすればパーティーとして認められ、経験値が全員に与えられるシステムだ。


 こうして俺達はパーティーを組んだのである。





ーーーーーーーー


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければフォロー登録と☆☆☆から評価をお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る