第4話 初ダンジョン

 初めての探索者協会から翌日。今日も探索者協会に行く予定だ。

 行く理由、それはダンジョンに挑む為である。


 ある程度世界が何処までゲームと似ているかは理解したつもりである。ただ、今もストーリーは進行しているだろう。俺も悪役にならない為にレベルを上げる必要があった。

 昨日の夕飯時にダンジョンに行くことは話してある。


 家の玄関前。俺と家族はそれぞれ立っていた。父さんは木剣を持っていた。

 実は父さんと母さんは昔は探索者をやっていたらしい。共にレベル5まで上げている。ただそれからは中々上手くいかずに引退。一応まだ探索者には登録してあるのが現状だ。


「これを持っていくと良い。本当は本物の剣を出してあげたいが」


「良いよ。木剣でも1層ならなんとか……なるんだろ?」


「くれぐれも無理はするな」


「和真、気を付けてね」


「お兄さん、頑張って」


 俺は木剣を受け取る。


 皆心配し過ぎじゃないか? 1層はスライムしか出てこないから大丈夫、と言いたいが俺も不安だ。

 ただそれは心の奥底に仕舞おう。だって心配な理由、ステータスの低さ以外無いんだから。言ったら俺も家族も不安になってしまう。


「大丈夫だよ。……俺、これでも最強目指しているから」


 それに俺は一応プレイヤーだからね。余程のことが無い限り大丈夫なんだ。


「それじゃあ行ってくる!」


 俺は木剣を持って探索者協会へと向かった。




 探索者協会へ到着する。建物の中に入ると真っ直ぐに歩いていく。受付を通り越した先にあったのはダンジョンの出入り口であった。

 出入り口の前には承認用のゲートがある。ゲートには夜桜パッドを置けば通れる。昨日の図書館のシステムと同じだった。


 早速俺は夜桜パッドを出してゲートに翳した。すると音が鳴り、緑色に発光する。ゲートが開いた。


「よし、行くか」


 俺はゲートを通る。

 心の底から興奮していた。ワクワクするのが止まらない。俺は、本物のダンジョンに挑もうとしているのだから。


 ゲートを通った先は人が沢山いた。それぞれ装備をしており、武器を持っている人が多かった。

 対する俺は制服で木剣。比べものにならないだろう。制服を着ているのは単純にゲームでも装備していたから。普通の服よりはマシだった。


 人は沢山いる。誰かを待っている者、統率している者、先に進む者がいた。

 その中で俺は先に進む者であった。俺はソロプレイなのだから待つ人はいない。

 長い通路を俺は進んで行く。


 1時間経っただろうか。ゲームでは時間経過は感じられず数秒で到着していたが、現実ではそうはいかない。


 現実時間掛かり過ぎだろ。ここまで時間を掛けて進んだのにゲームは何故数秒に……。これも現実だからか? ともあれ不便に変わりはないか。


 1層に到着した。黒い岩肌が露わになった洞窟。鉱石が光源になっている。定番のダンジョンだった。

 俺は1層を歩いていく。1層ではスライムがスポーン、出てくるのだ。スライムは誰でも倒せるくらいには弱い。


 しかしその弱さと人数の多さから歩いても歩いてもスライムは出て来なかった。流石最弱のモンスターなだけある。


「これは、隠し部屋に行くか」


 俺は1層の隠し部屋へと向かった。隠し部屋はスライムが5匹スポーンする。倒されれば時間経過でリスポーンする。30分間隔だった。


 俺は隠し部屋へ到着する。隠し部屋の近くには誰もいなかった。


 存在を認知していないのか。何はともあれラッキー。


 中を確認すればスライムが5匹いた。透明の体をした、ゲームで出てくる姿そのままである。


 俺は深呼吸をする。


「やろう」


 俺は隠し部屋に入る。スライムが一斉にこちらを向いてきた。


 敵意を持った眼差し。これがスライムが放つ殺気。今からやるのは命の奪い合いだと理解させる。心の高揚感を落ち着かせて……スライムを睨み付ける。


「さぁ、かかって来いよ」


 俺とスライムの戦闘は互角くらいだろうか。木剣で切り付けてもあまりダメージが入っているとは思えない。だからといってスライムの攻撃は全て受け流している。


 切り付けるじゃ駄目だな。――俺は木剣を横に構える。ちょうど飛んできたスライムに突きを放った。

 突きをぶつけられたスライムは壁に激突し消滅した。


 今の一撃で消えるのか。突いて体を貫く勢いでやろう。そっちの方がダメージが出るだろ。


 俺は突きでスライムを倒していく。大体2、3発で倒れた。

 スライムを倒す術を見つけた。だけど――


「……違う、こうじゃない」


 もっと力強く、正確に、素早くっ!

 戦いの感覚を思い出せ。『ダークナイト』と言われた俺を思い出すんだ。


「はっ! はあっ!」


 スライムを突いていく。木剣はスライムの体に食い込んでいく。やがて全てのスライムを倒し終わった。


「30分休憩するか……する前に」


 そういえば確かめていないことがあった。


「うーん、言えば出てくるか? 【アイテムボックス】」


 すると円状に亜空間が開いた。これこそが【アイテムボックス】だと理解する。プレイヤーなら誰しも使える便利システムだ。上限はある。

 ここではスキル扱いなのだろうか。プレイヤーとしては普通に使えたが……よく分からない。取り合えず、ドロップ品を入れよう。


 俺は隠し部屋を出る。夜桜パッドにあるタイマー設定で知らせが入るようにする。

 それにしても本当にいないな。ここを知っている俺は幸運だったらしい。


 30分後、スライム狩りを再開した。


 スライムを狩り、30分の休憩を挟む。そしてそれを繰り返し続けた。

 俺は徐々に剣の扱い、特に突きの動きは良くなっている。


 すると何回目かにスライムが集まっていく。


「ジャイアントスライムか」


 大きいスライムが誕生した。俺が見た限りこれでも一番弱だ。大きいジャイアントスライムは本当に巨大である。

 スライムが触手を伸ばしてくる。俺は木剣で受け流す。


「力強くなっている。これほどとはな」


 初めての感覚に少々動揺した。現実だと本当に肌に感じるし、腕にも力が入る。

 だが、ジャイアントスライムは力を得た代わりに的が大きくなった。つまり、苦戦する要素は無い。


 スライムの攻撃を受け流し、返しに突きを放った。10発でジャイアントスライムは消滅する。


 また繰り返し行っていると好機が訪れた。


「ブラックスライム!」


 黒い体をしたスライムが現れた。ブラックスライムは出現率が低い代わりに大量の経験値を与えてくれる。

 これならレベルも上がるかもしれない。


 俺は興奮気味だが戦いに挑んだ。――突き!


 ブラックスライムは通常と強さは大差ない。今まで通り突きで倒した。

 これで大量の経験値が貰えたが――レベルが上がっていない。レベルが上がっても感じないのだろうか。


 ドロップ品を回収した後、俺は部屋を出た。夜桜パッドを出してステータスを確認する。

 俺のレベルが上がっていない。ブラックスライムを倒したのにまだ経験値が足りないのか。


 少々驚きだ。レベルが上がるものだと思っていたから余計に。ブラックスライムの経験値程度じゃ足りないとか、俺は欲張りみたいだ。

 現実で経験値が求める量が増えたのか、それとも……


「【スローアップ】の、影響かぁ?」


 そこら辺は考え物だな。もしかしたらレベル関係なしの超危険なレベリングを行うことも視野に入れておこう。


 そろそろ帰る時間になったのでダンジョンを出る。土産話が出来たぞ、スライムのドロップ品も回収出来たし。


 明日は学校だ。ストーリーも動くだろう。……出来るなら関わりたくない。モブでいたいよ。

 そんな淡い(?)期待を胸に家の帰路を歩いていくのだった。





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