第2話 家族と決意

 学校が終わると俺は歩いて校外に出ていた。

 夜桜高等学校は寮がありそこで学友と共に過ごすのが一般的だ。俺がプレイした時もそうだった。


 だが今の俺は寮ではなく、家からの登校になる。

 数十分歩いた所に俺の家は、和真の実家があった。


 和真の家は小さな店をやっていた。四角い建物で看板に『トオノショップ』と表記されていた。

 今、俺がいる位置は店の入り口だった。


 どんな家族構成なのか思い出す。……父親がいて母親は既にいない。再婚済みで現在は義母と義妹を含めて4人暮らしだ。

 最初はぎくしゃくしていたな。特に俺と妹が。それも今じゃ良い思い出みたいだ。


 俺は店の入り口から家に入っていく。中には沢山の物が多くあった。一番多いのは服だ。これらはお母さんの自作でコスプレみたいな衣装もある。レジダンでは装備以外はステータスすら載っていなかった。

 店の中はそこまで広くない。中央には大きな机と椅子がある。

 そんな店の中にはお義母さんはいない。代わりにいたのは……


「あっ! おかえり! 珍しいね、お兄さんがここから帰ってくるなんて」


「まぁ……偶には良いだろ? ただいま、美琴みこと


 遠野美琴。青髪のセミロングで、今は制服の上からエプロンを着ていた。

 そして遠野美琴は、俺の義妹であった。

 義妹とはいえ、まさか妹がいるとは思ってもいなかった。


「? お兄さん、どうしたの? 何か付いてる?」


 不思議そうに尋ねてくる妹。反応からしてそこまで仲は悪くない。むしろ良好だ。


「……いや、綺麗だなって」


「! ありがとう、お兄さん」


「っ! 取り合えず、部屋に戻ってる」


「はーい」


 俺は急いで部屋に戻った。

 俺の妹ながら、とても綺麗で、可愛くて、素敵だった。




 部屋は意外にも綺麗だった。整理整頓は程々に出来ている。


 俺は荷物を置いて椅子に座り込んだ。


 取り合えず夜桜パッドをもう一度見直してみたが、やはりログアウトは無かった。ログアウト不可なら事前にアナウンスやらされる、と思いたい。

 それに現実的だ。見えている風景、動いている人達、俺を見てくる表情。これはゲームなんかじゃない、現実だと伝えているかのようだった。


 もし現実ならゲームの常識が通用するかどうか。ゲームの知識があれば俺の未来を変えることが出来る。相手の未来も変えてしまいそうだが、最低限メインストーリーの流れだけは変えないようにしよう。変に弄って最悪の未来は洒落にならないからな。




 俺はこの後お風呂を済ませてあっという間に夕食の時間になった。


 リビングには俺、美琴、お父さん、お母さんがいた。

 お父さんは俺と同じ黒髪。探索者協会で働いていた。お母さんは美琴と同じ青髪でサラサラした髪だった。店では何でも売って、特に自作の服が多い。一番儲かる時期はハロウィンだった。


 そういえば久しぶりに家庭の料理を食べるな。

 出ていたのはカレーだった。


「「「「いただきます!」」」」


 俺はカレーを口の中に入れて……とても美味しかった。とても、とても美味しくて


「か、和真!? 涙出てるぞ!?」


「だ、大丈夫?」


「お兄さん? 様子変だよ? 何かあった?」


「だ、大丈夫。本当に美味しいんだ」


 ズズッと鼻水の音がしてくる。家庭の味は、何十年ぶりだろうか。俺は幼い頃に両親を亡くしてから叔父叔母に育てられた。だから、感動してしまったんだろうな。

 大切にしたいと心の底から思った。


「それで和真、学校はどうだった?」


「えっ、ああぁ……」


 お父さんの唐突な質問に言葉が詰まる。

 どれだけ絶望的なステータスでもレベルは必ず上がる。ゲームの和真だってちゃんとしたレベルはあった。

 ただ、言葉にするべきか少々悩んだけど……話そうと決意する。


「学校は問題無い、と思う。……でも俺はあまりよく思われていないみたいだ。

 それに俺自身のステータスは限りなく低いよ。多分、学年最下位だ」


 ありのままを言葉にした。……失望してしまうか?

 沈黙が流れ……なかった。


「それがどうしたんだ? まだ頑張れば挽回は出来るんだろ?」


「出来る」


「なら大丈夫だろ。取り合えずレベル5までは頑張ってみろ。もし駄目でも構わないさ」


「そうよ。それに和真にはきっと別の道もある筈だわ。探索者が無理でも、和真なら何者にだってなれる」


「お父さん、お母さん」


 笑顔で励ますように話してくれた。家族は誰も失望なんてしていなかった。それは――


「お兄さんは大丈夫」


 両手で左手を包み上げる美琴。


「今は弱いかもしれない。だけど、きっと強くなれる。にだってなれると思う。私の勘は良く当たるから、自分を信じて」


「最強、か」


 『最強』という言葉を聞いて懐かしい気分になった。俺だって本気で目指していたんだ。それは強くなっても変わらない夢だった。

 ……なら、目指してみるのも悪くはないな。


「ありがとう美琴。俺の目指す目標が決まった」


「目標って?」


「最強の探索者になることだ。俺は、最強になる」


 叶わぬ夢でも構わない。俺は最強になりたい。最弱から最強になりたいんだ。

 心の底から高揚している。頑張れる目標を見つけたからだろう。


「お兄さんなら最強になれます」


「和真、良く言った! お父さん応援するぞ!」


「頑張って和真! お母さんも応援するわ!」


「……ありがとう、お父さん、お母さん、美琴」


 俺は恵まれている。家族がいてくれるだけで幸福だよ。

 だからこそ応えたいんだ。『最強』という形で!


 その為には、レベルを上げないとな。


 俺は家族を大切にすることと、最強になることを決意した。





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