第6話 妹のパンチらを見て兄は何を思う
校門で男子生徒と話していた綾乃を連れ出して、一緒に帰宅した俺たちは洗面所に並んで立っていた。
先程までの甘い雰囲気も落ち着きを見せつつあり、俺たちは兄妹らしく並んで手を洗っていた。
こうして見ると、何とも仲睦まじい兄妹だろうか。
先程の甘い空気も、お互いに嫉妬したような出来事も嘘のように、鏡に映る二人はただの兄妹にしか見えなかった。
手を洗う最中、ふと春香が言っていた言葉が脳裏をよぎった。
『あれだけ可愛ければ、綾乃ちゃんモテるだろうね』
綾乃が可愛い俺の妹であることは揺るぎない事実だし、整った顔と凹凸のある体は男子の気を引くのも事実だ。
ていうか、改めて見ると本当に整った顔をしている。それこそ、読者モデルやアイドルとかにも引けを取らないんじゃないだろうか?
しばらく鏡越しに綾乃を見ながら手を洗っていると、俺の視線に気づいたのか、綾乃はちらちらと鏡越しに目を合わせてきた。
「な、なにかな?」
「ん? 綾乃って可愛いからさ、モテるんじゃないかって」
「な、ななっ、なに急に?!」
「って、春香が言ってたんだけどーーって、いてっ、な、なにすんだよ」
俺が春香の言っていたことを伝えようとすると、急に綾乃に小突かれてしまった。
理不尽な攻撃を受けて抗議の意味を含めた視線を送ると、なぜか逆に綾乃に睨み返されてしまった。
一体、俺が何をしたって言うんだよ。
「それで、実際どうなのかなって思ったんだけど。実際どうなのよ?」
「別に……モテないってことはないけど」
「まぁ、そうだよな」
仮に綾乃みたいな子がクラスにいたら、クラスのマドンナ的存在になっていることだろうな。
微かに照れたように顔を赤くしている綾乃を鏡越しに眺めていると、綾乃は手についた泡を流しながら、こちらにジトっとした視線を向けてきた。
「そういう、お兄ちゃんはどうなの?」
「おれ? モテるわけないだろ」
急に話の方向を変えてきたことに驚きながら、俺は失笑混じりにそんな言葉を返した。
年齢=彼女がいない歴の俺に、そんな青春イベントがやってきたなんてことがあるわけがない。
綾乃に倣うように俺も手の泡を落して、綾乃が洗面所にあるタオルを使い終わるのを待っていると、タオルを使い終えた綾乃が振り返りながら言葉を続けた。
「今朝、飯田さんっていう子に、意味ありげなこと言われてたじゃん」
「ああ、あれな。俺も初めて聞いたよ」
飯田が言っていた意味ありげなことというのは、俺が多少は人気があるといった話だろう。それも、俺を狙っている子が近くにいるとか。
俺はこちらにジトっとした視線を向け続けている綾乃を軽くあしらって、タオルで濡れた手を拭き取った。
「誰か思い当たる節がある人とかはいないの?」
「いないんだよなぁ、これが」
俺が手を拭き終えたタイミングで、俺の前を歩きだした綾乃の後ろをついていくと、綾乃はそのまま鞄を置くために、階段を上っていった。
俺もそれに倣う形で綾乃の後ろをついていった。
「まぁ、ただからかってきただけだろな」
「女の子がああやって言うときは、何か確信があるときだよ。お兄ちゃんが鈍感なだけでーー」
「ん? どうした?」
それからしばらく階段を上っていくと、綾乃が何かに気づいたように口をつぐんだ。
頬の温度を一段階上げると、俺の方にちらりと視線を向けた後、ぎこちなく手の甲で俺に気づかれないようにスカートを押さえた。
スカートが押さえられたことで、綾乃のお尻のふっくらとした形がスカート越しに浮きあがっていた。
なぜ急にそんな行動を取ったのか。おそらく、構図的に見てもスカートの中が見られない様に隠したのだろう。
少し綾乃との距離を空けてしまったこともあり、しっかり見上げれば露になっている裏太ももを存分に覗くこともできたであろう。
ただ目の前にいるのは妹。さすがに、妹のスカートの中を本気で覗き込もうとは思わない。
シスコンの兄が本気でスカートの中を覗くと思っていたのだろうか? 少し心外でもあるな。
綾乃が過度に俺のことを意識している行動の表れだ。今回ばかりは、余裕をもってそれを指摘することができそうだな。
俺は小さく息を一つ吐いた後、兄としての余裕のある笑みで言葉を続けた。
「いやいや、さすがに妹の下着を意識したりしないって。洗濯物とか干してるときに普通に見えたりするし、気にしないで大丈夫だって。意識しなくて平気だからな」
「い、意識なんてしてないけど?! 別に、お兄ちゃんに下着見られてもなんとも思わないし! 別に、この場で見せてもーー」
俺は優しく指摘をしてあげたつもりだったのだが、思いのほか声が優しすぎたせいか、綾乃のことを煽ったように聞こえたのかもしれない。
なぜか諭したはずなのに、綾乃は挑発でも受けたかのように前のめりになっていた。
綾乃は顔を真っ赤にさせながら、こちらに振り向いてからスカートの裾を掴んで、涙ぐんだ瞳を向けてきた。
「なんとも思わないもん」
そう言い残すと、綾乃はゆっくりとスカートの裾をたくし上げていった。
羞恥の感情によって赤く染まった頬の熱を徐々に上げていき、それと比例するようにスカートの裾が上がっていく。
露になってく真っ白で程よい肉付きをした太もも越しに見る、恥じらいで染まっていく妹の表情。
そんな妹の姿に少しの妖艶さを感じてしまいそうになり、俺は慌ててその感情に蓋をして、綾乃の両手を掴んだ。
「――っ!」
なんとか寸での所で下着を見ないで済んだ。
ギリギリで蓋をすることに成功した感情を、徐々に落ち着かせようとしたとき、
「お兄ちゃん、意識しちゃうんだ」
顔を上げた先にいた綾乃の姿を見てしまった。
勝ち誇ったように口元を緩めているのに、羞恥の感情は未だ顔から抜けておらず、辱めを受けた後のように火照った顔をしていた。
たくし上げたスカート越しに見るその姿から、年齢にそぐわない妖艶さを感じてしまい、蓋をしたはずの感情が微かに溢れ出た。
「あっ」
思いもよらなかった感情に狼狽えたのか、俺は肩にかけた鞄を落してしまった。
そして、それを急いで拾って顔を見上げた先には、たくし上げられたスカートの中の光景が広がっていた。
「……え?」
綾乃は間の抜けたような声を漏らして、その体勢をそのままにしていた。
滑らかで、きめ細かい肌を感じさせる肌質。健康的な程よい細さをした太もも。
そして、目の前には普段見ることのできない、その付け根付近まで露になってしまっていた。
小さなリボンが拵えてある、シンプルな可愛らしい淡い空色の下着。過去に洗濯物として干してある状態のものは見たことがあった。
なんとも思わなかったはずのその下着を履いた妹の姿は、下着単体で見たときには湧き出なかった感情を覚えた。
妹に抱くべきではない劣情という感情。それを確かに感じてしまっていた。
「お、おお、お兄ちゃんのえっち!!」
俺がスカートを覗き込む形になって数秒後。
綾乃は顔を真っ赤にさせて、慌てたようにたくし上げたスカートを下ろして、階段を駆け上がっていった。
おそらく、俺に下着姿を見られたことではなく、下着姿を見たときの俺の反応が悪かったのだろう。
未だ落ち着かない心臓の音。この感情が表情に出ていないとは考えられない。
妹のことを異性として意識してしまっている。その綾乃の誤解が、確かなものに変わってしまった瞬間だった。
そして、それに気づいて一番驚いたのは他でもない。俺自身だった。
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