Ch.2 耳かきダンジョン (初期装備で攻略です)
//SE 扉の音
「先輩」
「昨日の今日で、私のお家に赴いてくれたいうことは、既に決心がついたんでしょうか」
「……わかりました」
「負けたんですね、欲望に」
「いえ、私は先輩を責めません。たとえ私以外の生きとし生けるすべての命が先輩を蔑んだとしても」
「私が頼んだことですし、それに私は」
「とても、かわいい」
「ひはい」//両頬を引っ張られながら。
「もう、先輩。頬をつねるのはこれで最後にしてください」
//ちょっと長めの間
「……先輩」
「ありがとうございます」//本当に心からの気持ちで
「それで、具体的に何をやるかなんですけど、こんなものを作ってきました。じゃん」
//どこからともなく箱を出してテーブルに置く音
「くじボックスです。夜なべしてつくりました」
「中には二人でできるお題が、それはもう山のように入っています」
「この中から一枚引いて、その日のゲームを決めましょう」
「じゃあさっそくやってみましょう。混ぜますよ」
「混ぜ混ぜ〜、混ぜ混ぜ〜」//棒読み
「引いてください」
//紙をボックスから引く音
「じゃかじゃか〜じゃん」//棒読み
「『耳かき』……なるほど。これは『恋人同士がしそうなこと』の王道ですね」
「じゃあ、さっそくやりましょう。道具は揃っています」
「ええ、善は急げ、ですから」
「先輩、時間が経てば経つほどライバルは増えていくんです」
「それに、いつゲーム実況がお金にならなくなる日が来るとも限りませんので」
「ええ、そのとおり。私は不埒で可憐な翠夏さんです」
「さあ、とっととやりますよ。まずは私の横に座ってください」
//足音と衣擦れ
「コホン……それでは」
//実況声(地声よりほんのちょっと高め)
「あー、あー、マイク大丈夫ですかね。音きてますか〜」
「……あ、コメントありがとうございます。大丈夫そうですね〜」
//いったん地声に戻って
「はい? え? なんですか?」
「実況ですから、細かいところまでちゃんとやりますよ。こういうのはどれだけ細かくシミュレーションできるかが大事なんです」
「『頭おかしくなったのかと思った』?」
「先輩……」
「言うのが十分ほど遅いです」
「コホン。仕切り直して……」
//実況声に戻って
「はいっ、それではこんにちは、アーカイブの人はもしかしたらこんばんはもしくはおはようございます。かわいいかわいい翠夏さんのゲーム実況チャンネルへようこそ〜」
「昨日は急に配信お休みしちゃってすみませんでした〜、ごめんね〜」
「あ……『待ってた』『ぜんぜん気にしてないよ〜』、みなさんありがとうございます」
「で、ですね。今回遊ぶゲームなんですけど、入念に準備したがりロケハンしたがりの私にしては珍しいんですけど」
「なんと初見プレイでーす、ぱちぱち〜」
「……ね〜。珍しいんですよほんとに」
「あんまりね、指示されるのが苦手、っていうわけでもないんですけど」//後半笑い混じりで
「チャットの雰囲気悪くなるのは苦手なので、できるだけスムーズにサクサクやりたい派、です!」
「で、そのタイトルなんですけど……『耳かき』です」
「いや〜耳かきね。もちろん自分のはしたことあるんですけど、他人のはやったことなくて」
「恋人? いやぁ、いないですよ、ないない」//笑い混じり
//地声に戻って
「たしかに、私はとても可憐で清楚でスタイルも良いのですが、お付き合いしたことは一度もありません」
「一度も、ありません」
「……」//微笑み
//実況声
「でー、ですね。初見なのが不安なので、ちょっとだけ公開ロケハンみたいなのをしてみようかな、と」
「公開ロケハン、っていうのはどういうのかっていうと……」
//耳元ささやき
「こういうふうに」
//耳元ささやき(反対側)
「耳の近くでささやいてみたりして」
//元の位置に戻る
「どういう反応をするのか見たりして、下調べしてみよう、ってことですね」
「あ、なんかもう赤くなってますね」//悪戯っぽく笑いながら
「じゃあまずはお耳の形からチェックしていきましょうか」
//耳が視界に入るくらいの近さから
「うわー、なんか不思議」
「耳ってあんまりまじまじと観察しないから、改まって見るとなんかドキドキしますね」
「艶かしい曲線とくぼみの作り出す高低差が……なんかアクションゲームのフィールドみたいっていうか」
「耳の穴は真っ暗で、これはもうアビスですよ、アビス」//笑い混じりで
//耳元に近寄って
「ふーーーーっ……」
「息吹きかけたらビクッと動きましたね、これダンジョン自体が生きてるタイプのやつかもしれません」
「ふーーーーっ……」
「次は、ちょっと言葉をかけてみましょう」
「こういうときはオノマトペがいいって他の配信者さんの動画で見たので、それでやってみます」
「ぱちぱちぱちぱち」
「ぱちぱちぱちぱち」
「んー、心なしか熱がむわっと上がった感じがしますね」
「ぽきぽきぽきぽき」
「ぽきぽきぽきぽき」
「たぷたぷたぷたぷ」
「たぷたぷたぷたぷ」
「あ、やっぱり耳が赤くなってきました」
「次は……」
「…………」//匂いを嗅ぐ感じの鼻の音
//SE 驚いた聞き手が立ち上がる音
//地声に戻って
//普通の会話時の距離
「うわっ、びっくりしました」
「先輩、急に動かないでくださいよ」
「匂いを嗅がれるのは嫌でしたか?」
「確かに季節は夏ですし、汗もかいてるのかもしれませんが」
「照れてるんですか?」
「私は気にしませんよ」
「ほら、座ってください」
//SE 椅子に座る音
//実況声
「じゃあもう一度……」//耳穴の近くで匂いを嗅ぐ鼻の音
「…………」//耳の形に沿って匂いを嗅ぐ鼻の音
「……うん、じゃあ今度は」
//反対側の耳元に移動
「こっちの耳を……ふーーっ……」
「ふーーっ……」
「ぴくぴくぴくぴく」
「ぴくぴくぴくぴく」
「かりかりかりかり」
「かりかりかりかり」
「こっちも赤くなってきましたね」
「ぴちょぴちょぴちょぴちょ」
「ぴちょぴちょぴちょぴちょ」
「ぽくぽくぽくぽく」
「ぽくぽくぽくぽく」
「……」//耳穴近くで匂いを嗅ぐ音
「……」//耳の形に沿って匂いを嗅ぐ音
「……ぅん、よし、ロケハンはこのくらいでしょうか」
「ではさっそくダンジョンに挑戦しましょう」
//SE 正座をする音
//地声で
「さあ、先輩。私の膝へどうぞ」
「照れないでください」
「かわいいかわいい翠夏さんの太ももを枕にできるチャンスですよ〜」
//SE 膝枕に頭を横たえる音
//実況声
「はい、私の罠にかかりましたね。まずはこちらの先制です」
「それで、今回の耳かきアイテムなんですけど」
「初期装備! ふっつ〜の竹の耳かきです。ひのきのぼう的な感じですね」
「これでダンジョンへと、挑みたいと思います」
「耳穴という名のアビスに。なんか締まらないですけど」//笑い混じり
「はーい、じゃあ行きますよ……」
//SE 耳かきの音
「……」//呼吸音
「人の耳かき、やっぱりちょっと緊張しますね」
「初期装備……ライトとかも当然ないので、優しく、ゆっくりやっていきますよー……」
「……」//呼吸音
「……すごい、なんか集中してしまうので、実況しながらやるの、思ったより難しい、です」
「……」//呼吸音
「指先に、神経を集中して、痛くしないように……」
「……」//呼吸音
「これ黙っちゃいますね、あはは」
「放送事故になりそう、です」
//地声
「先輩?」
「私、痛くしてないですか?」
「……『気持ちいい』? そうですか。安心しました」//嬉しさと心底ホッとした感じで
「先輩、もっとリラックスして、力を抜いてみてください」
「配信風に実況はしてますけど、これは練習ですから」
「この部屋にいるのは先輩と私だけです」
「……あっ、ちょっと身体を強張らせないでください、危ないですよ」
「リラックス……リラックスして……」
「……」//呼吸音
//SE 耳かき音ここまで
//実況声
「はい、とりあえずこちらの耳はおしまいです」
「梵天しますね……」
//SE 梵天の音
「くすぐったいですか?」
「もう少しだけ、動かないでいてねー、せんぱ、じゃない、ダンジョンさん」
//SE 梵天音ここまで
「よし、きれいになりました。仕上げに」
「ふーっ……」
「よし、反対側もやっていきます」
「頭、こちらに向けてください」
//SE 衣擦れ
「おお、これは……」
「耳かき、装備の取り回しはだいぶ慣れてきたんですけど、顔がこちらに向いたせいでその……」
//地声
「先輩の生暖かい鼻息がお腹にかかって、なんというか……」
「たいへんに動揺……」
「ああ、いやそのままで大丈夫です」
「でもその……微妙な緊張感があって危ないので、実況は控えめになるかもしれません」
「いや、まあ、先輩は最初からそっちの方がいいんでしょうけど」
//耳かき音
「先輩、耳かきされながら私の匂い嗅いでません?」
「……」//複雑そうに唸る
「いえ、私も嗅いだので、おあいこです」
「息止めなくても平気です。私のお腹は視覚的にも嗅覚的にもたいへんにぷりちーなので」
「あ、なんか手ごたえがあるので、ちょっと集中しますねー……」
「あっ、先輩。お宝が、アビスからお宝という名のおっきな耳垢が取れましたよ!」
「……いや、なんか今のはナシで。なんか逆にばっちいような気がします」
//SE 耳かき音ここまで
「……よし、梵天で」
//SE 梵天音
//SE 梵天音ここまで
「ふーっ……」
「先輩、お疲れさまでした」
「まだそのままでいいですよ」
//SE 先輩の髪を撫でる音
「撫でられるの、嫌でしたか?」
「そうですか。結局、途中で心折れて半分しか実況できませんでした、不覚です」
「先輩、明日からも私の練習、手伝ってくれますか?」
「……ありがとうございます」
「じゃああともう少しだけ、かわいい翠夏さんの太ももとお腹を堪能しててもいいですよ」
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