先輩の身体を使ってゲーム実況スキルを磨こうとする自己肯定感が強めの丁寧語・淡々口調な後輩
樫村効果
Ch.1 プロローグ (完璧な作戦です)
//SE スマホの着信音
//スマホ越しの加工
「先輩、夏休みにすみません、今お時間よろしいですか」
「いえ、その……」
「大変なことが起こってしまって」
「会ってお話したいので、先輩のお家に伺ってもよろしいですか」
「ありがとうございます」
「すぐに伺いますね」
//時間経過を表す間
//SE スマホカメラのシャッター音
//聞き手の方は向かずに
「んー……こうでしょうか」//独り言ふうに
//SE スマホカメラのシャッター音(連続)
「いえ、こちらの方が……」
「はい?」//聞き手の方を振り向いて
「あ、先輩。なんでしょうか。今日も暑いですね」
「……あっ、そうでした。悲しいできごとがあったので、無理を言って先輩のお家に押しかけたんでしたね」
「すみません」
「先輩のお部屋にある鏡にうつる私の姿が、悲しみに沈み、憂いを帯びて、いつも以上に優美でたまらなかったので、つい自撮りに耽ってしまいました」
「あまり呆れた顔をしないでください」
「わたし、
「朝起きるとまずベッドサイドの手鏡で自分の顔を見ます。すると抜群に目が冴えるのです。『なんだ、この類まれな美少女は!』と」
「あ、でも……」
//SE 聞き手に近寄る衣擦れの音
//耳元ささやき
「先ほどのできごとを思い出したら、胸が潰れそうなほど悲しくなってきました」
「聞いていただけますか」
「ありがとうございます」
「その……没収、されてしまったのです」
「文芸部室でも何度も話しているので、先輩はご存知ですよね。私がゲーム実況の配信者になりたいと考え、日々行動していたのを」
「おこづかいやお年玉を貯め、アルバイトは禁止されてるので親の手伝いをし、少しずつ機材を集めていました」
「ですが、その目論見がとうとう親に露見してしまい……」
「『学生の身分で浮ついたことをするな』と叱られ、実況に使う機器は、ゲーム機も含めてすべて没収されてしまいました」
「いえ、道具自体はさほど気にしていません。捨てたり壊したりするような人たちではないので、いつかは返してもらえるかもしれませんし」
「問題は別にあります」
「没収されているあいだ、ゲームや実況のスキルが磨けないことです」
「先輩の言いたいことはわかっています。『翠夏後輩、キミにはその美貌があるから実況スキルなんてなくても人気配信者になれるに決まっている!』、そう仰りたいんですよね?」
「しかし、私は私の可憐な容姿に甘えたくはないのです。見目麗しく、ゲームプレイが巧みで、実況も達者な配信者になりたい」
「……まあそれで、若干のお金を稼げればなおよし、ですが」
「とにかく、せっかくの夏休みなのです。配信者デビューはできなくとも、実況スキルを磨く鍛錬は欠かしたくない」
「他に実況機器が揃っている施設があればいいですが、先輩をはじめ、そんな知り合いはいませんし、私たちの住んでいる町ではネットカフェすら望み薄です」
//耳元ささやき終わり
「しかし、そこは華麗で聡明な私、
「先輩です」
「先輩が私のゲームになればいいんですよ」
「先輩……」
「私の言葉が豆鉄砲なら、先輩は鳩、みたいな顔をなさっていますね」
「つまり、ですね」
「先輩と私が何かをやります。いえ、私が先輩『で』何かをやります。加えて私はそれを実況をします」
「聡明な私にしか思いつかない、斬新かつパーフェクトなアイディアです。私は私が恐ろしく、同時にとても誇らしい……」
「ひはいでふ(痛いです)」//両頬を引っ張られながら
「へんぱひ(先輩)」
//両頬引っ張られ終わり
「先輩……頬をつねられてる私は、さぞかしかわいかったでしょうね」
「ひはいでふ(痛いです)」//両頬を引っ張られながら
//両頬引っ張られ終わり
「わかっています、先輩側にメリットがない、そう言いたいのでしょう?」
「本来なら美人な私に遊んでもらえるだけでなく、その模様を実況までされるなんて大変興奮すべき栄誉なのですが、仰りたい意味はわかります」
「では、先輩を使ってするゲームの内容に、いくつか『恋人同士がしそうなこと』を混ぜるのはいかがですか」
「良い提案ではないですか?」
「さすがに性的なことは許せませんが……」
「老若男女問わず、今どきそういったことには契約書などが必要な時代ですからね」
//耳元ささやき
「どうしますか、先輩。決めるのはあくまで先輩自身ですよ──」
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