第7話 研修終了、そして…

「聞いたよ! 空飛べるようになったって? おめでとう!!!」


 スカイツリーから帰ってきた俺に、みのも〇たは嬉しそうに言った。


「君ならできるって信じてたよ! いやー、やっぱり僕の目に狂いはなかった!」

「あ、ありがとうございます…」

「君が面接を突破したあとも、僕、心配したんだよ? ホントにちゃーーーーんと天使の資格あるんだろうかーってね! いやあホントに立派になっちゃって! 慎くんなんか、空を飛ぶのに5日もかかって…」

「やめてください。不愉快です。」


 慎先輩はみのも〇たの言葉を遮った。

(慎先輩、俺よりも空を飛ぶのに苦労してたんだな…)


「『俺よりも空を飛ぶのに…』」

「わあああああやめてください!」


 そうだった、この人心を読めるんだった…!

 俺は慌てて大声を出し、みのも〇たの言葉を遮った。


「なんてね。本当に良かったよ。君が空を飛べるようになって。

 これで、1人前の天使だね!っと言いたいところだけど……」

「?」

「実はまだ研修が残っていてね…。これが中々に厄介なのさ」


 慎先輩はピンときたのか、ああ、と声を出した。


「アレですね」

「そう!アレが残っているのよ」


『アレ』?

 何のことだかさっぱりわからない俺に、先輩が教えてくれた。


「アレというのは、実地研修のことだ」

「実地研修?」


「そう!実地研修は、天使の仕事を理解すべく行われる研修さ!天使の仕事がどんなものかは分かるかい?」


 天使の…仕事?

 空を飛びながらラッパを吹いているイメージしかない。


「ラッパを吹く…とか?」


 そう言うと2人はプッと吹き出して笑った。


「あはははは!!ラッパって……!

 そんな古い絵画みたいな話は無いよ!!」

「ラッパ………、ふふっ……!」


 みのも○ただけじゃなく先輩まで笑うなんて…。俺、もしかしてバカにされてます?


「いやいや、バカにしてないよ!ただ面白い発想だったもんでね………、あはははは!」

 どうやらみのも○たのツボに入ったようだ。


(完全にバカにしてる………)


 しばらくして慎先輩は咳払いを一つして、俺に天使の仕事を説明した。


「ごほん。天使の仕事の内容の話だな。

 天使は、死の間際の人間から魂を駆りとって、その魂を天界に送るんだ」

「そう!届けられたその魂は来世を決められ、そして次なる命へ生まれ変わるのさ」


「魂を回収して、天界へ送り届ける…。配達…みたいなものですか?」

「せいかあああああいっっ!!!!」


 うるさっ!!!!!

 みのも○たは急に大声を出し、俺の肩を叩いた。


「まあ、仕事の流れとしてはそんなところだ。

 お前にはきちんと現場を分かってもらうために、先輩についていってもらう」

「ついていくって、誰に?」

「それは…」


 慎先輩がそう言うと、いきなり横から女の人が現れた。

 黒髪ロングの、赤い着物を着た和風の美人。

 ツリ目に赤い口紅が美しく映えている。


 ……美人だ。


 俺は一瞬見惚れていた。


「こんにちは。あなたが新人さんね?」

「ああ。赤井 司だ。」


 先輩が僕を紹介した。


「まあ!アマツカミさんに期待の新人って聞いたわよ!」

「そうそう!この子が僕がこの前言った期待の新人くん!」


 聞き慣れない名前が出てきたが、

 どうやらアマツカミさん?というのは、みのも○たの名前のようだ。


「初めまして。私は字神あざかみ 沙弥子さやこ。実地研修では私の事案に着いていくことになってるわ。よろしくね。」

「は、はい。よ、よろしくお願いいたします…。」


 圧倒的な美人オーラに俺は目眩を覚えた。

 そんな様子を見たみのも○たは、俺にこっそり耳打ちをした。


「美人だろう? 彼女は江戸時代の女性の中でも凄く美人だって、現代では評判でね!」

「え、江戸時代!?」


 俺は声を上げて驚いてしまった。


「そうよ。私は江戸時代の人間。だから慎くんよりも200年以上は先輩なのよ?」

「に…、にひゃくねん!?!?」

「まあ、アマツカミさんは1200年以上先輩だけれどね。」

「まあ、正確には1300年だね。僕も長くなったもんよ。」

(せ、せんさんびゃく……ひえええっっ……)

 俺はあまりの驚きに気絶しそうになる。


「まあ、だから6年目の慎くんは、まだまだひよっ子ってことだな。」

「ひよっ子扱いはやめてください」

(そ、そうだったのか…)

 天使にも色んな人がいるのか。知らなかった。


「まあ、とにかく!明日からさっそく一緒に行くことになってるから。よろしくね。

 それじゃ、明日の準備があるから私はこれで。お先に失礼します。」

「お、お疲れ様です……」

 字神先輩は去っていった。


「それじゃあ我々も解散するかね。明日から頑張ってよ!」

「頑張れ」

 そう言うと2人も去っていった。


 残された俺は、突如決まった明日の実地研修に備え、早めに寝ることにし、自分の部屋へ戻った。


(明日はどうなるんだろうか…)

 漠然とした不安がぐるぐると渦巻く。

 そして、その不安は的中することとなる………。

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