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 私とレオはジャンヌさんたち赤バラ騎士団とともに、街の端に位置している城へと向かう。

 城に着くと日は落ち、空はすっかり暗くなっていた。レオはメルキアデス探しをしたがったけど、言い聞かせて明日に持ち越させた。

 私はジャンヌさんに誘われて、彼女と一緒の部屋で寝ることになった。なんだかお泊まり会の気分だ。

「アリスは人を探しているのよね?」

「はい。メルキアデスっていうんですけど、この国のどこかにいるみたいなんです。レオの故郷を救うために彼を探しているんです」

 詳しい話は省いて説明すると、ジャンヌさんは、見つかるといいね、と言ってくれる。

「どうしてジャンヌさんは戦っているんですか?」

「声を聞いたの」

「声?」

「ええ、天使の声を。この国を守りなさい、とお告げがあったの」

 現の世界のジャンヌも天使の声を聞いたって。それで戦争に参戦したと伝えられている。

「私たちはただ、毎日おいしいものを食べて、楽しくおしゃべりをして過ごせたらって。それだけを望んでいるのにね……」

 ジャンヌさんの瞳に影がかかる。雲に覆われた空のように曇り模様だ。

 ジャンヌさんは長い間、ずっと戦ってきたんだよね。自分が生まれる何十年も前から国が戦争をしていて、そんな環境が当たり前になっていて……。

 気付いたら私は寝ちゃっていたみたい。寝ぼけ眼をそのままに隣を見ると、ジャンヌさんの姿がなかった。上半身を起こし上げると、丁度部屋を出て行こうとするジャンヌさんの後ろ姿が見えた。

 こんな夜中に一体どこに行くのかな。なんだろう。胸の辺りが、ざわざわする。

 私は足音を立てないよう、忍び足でジャンヌさんの後をつける。

 ジャンヌさんは城を出ると街外れまで移動し、人気のない小道を進んだ先に現れた小さな教会の中へと入って行った。壁の塗装は所々はがれていて、ツルも生い茂っている。寂れていて、なんだか気味が悪い所だ。

 扉も傾いていてちゃんと閉まらなく、その隙間から中をのぞき込んだ。天井に穴が空いているようで、月明かりが差し込んでいたおかげで中の様子がよく見えた。

 ジャンヌさんは講壇の前に立っていて、誰かと話しているみたい。話相手はジャンヌさんの正面に立っていて彼女に隠れてしまっている。

 それでも見ようと扉に額を付けたら、ぎいいっ……と扉が鈍い音を立てて動き出した。

「誰!?」

 その音に振り向いたジャンヌさんと目が合った。ジャンヌさんは私だと分かると、緊張を解いた。

「なんだ、アリスか。どうしてここにいるの?」

「えっと、ジャンヌさんが出かけるのが見えて、それで。ジャンヌさん、その人は……」

「この人は、マッキアム。彼女は天使なのよ」

「えっ、天使!?」

「ええ。いつも私を正しい方へと導いてくれるの」

 マッキアムと紹介された女性の背中には、大きな鳥のような羽が生えていた。ブロンドの髪に、羽と同じように純白の衣をまとっている。なんだろう、この匂いは。彼女から醸し出される香りによって、鼻がすーっとした。

 ジャンヌさんはマッキアムに別れを告げると、私と一緒に教会を後にする。

 帰り道、ジャンヌさんは時折マッキアムの元に通っては、彼女から神託を授かるのだと教えてくれる。実は彼女から異国の少女──、私たちと出会うことも予言されていて、保護するよう助言されていたんだって。

 ジャンヌさんはマッキアムを天使だと信じ込んでいたけど、どうしてかな。私には、とてもそうは思えないの。

 ううん。決して天使がいないと言いたい訳ではない。なんの根拠もないんだけど、どうもマッキアムは天使には見えなくて……。確かにマッキアムの見た目は、西洋絵画に見受けられる天使そのものの姿形をしている。ジャンヌさんが私たちと出くわすことも予言していても、それでも私の本能は、なぜか否定していた。

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