第二章:名探偵アリス!?
1
レオの持つ、メルキアデスの魔力を追える時計に導かれた私たちは……。
「わあっ、すっごーい!」
真っ黒で大きな塊──、蒸気機関車を前にして、つい大きな声が出ちゃった。だけど本当にすごいんだもん。とっても大きくて迫力あるーっ!!
「ったく、いつまではしゃいでるんだよ。早く乗るぞ」
「あっ。レオってば、待ってよー!」
私は慌ててレオを追いかける。
メルキアデスを追っていた私たちが、どうして機関車に乗ることになったのか。その理由は……。
メルキアデスが逃げた後、レオの時計を頼りに彼を追いかけていると、ひらひらと空から紙切れが降ってきた。それは……。
「チケット……?」
機関車の乗車券だ。空から降ってくるなんて変だよね。メルキアデスが落としたのかな。二枚あるってことは、私とレオの分? この機車に乗れってこと?
ちらりと私と同じようにチケットを覗き込んでいたレオの顔を見ると、
「なにを企んでるんだ……?」
目をギラギラに光らせていた。
「レオってば、そんなにイライラしなくてもいいじゃない。一等車のチケットなんて高価な物をくれたんだもん。せっかくの好意は素直に受け取ろうよ、ね」
「けどアイツ、胡散臭いんだよ」
確かにレオの言う通り、メルキアデスは、ただ者じゃないと言うか、掴みどころがないと言うか……。その正体は、あらゆる世界一の魔術師なんだもの。神秘のベールに包まれていても、おかしくないだろう。
でも、だからこそ知りたいと思うの。メルキアデスのことを──……。
どくどくと高鳴る胸を抑え込ませながら、レオに続いて機関車の中に乗り込む。
うわあっ、とっても綺麗……! さすが一等車だ。広々としたボックスシートが並んでいて、その一つに私とレオはテーブルを挟んで向かい合う形で腰を下ろした。イスも、ふかふか。柔らかくて心地いい。
やっと休める。この短時間でいろんなことがあり過ぎて、ちょっと疲れちゃった。一息吐いていると、あれ。レオってば、なんだか浮かない顔をしている。
「レオ、どうしたの?」
「いや、その、なんだ。悪いな、巻き込んじまって……」
「どうしたの、レオ!?」
そんなことを言い出すなんて。もしかして気にしてたの? 初めて会った時は、鍵を渡せって、しつこい上に奪おうとさえしていたのに。
笑っちゃうとレオは顔を林檎みたいに真っ赤に染めて、「なんだよ!」と声を荒げた。
「だって、しおらしいレオなんて変! 大体この旅は私が望んだことよ。それに知っちゃったんだもん。世界は、まだまだ私の知らないであふれているって!」
こんなわくわくすること、生まれて初めてで。まるで私が物語の主人公になった気分なんだもん。
そう告げるとレオは、ぐにゃりと眉をしかめさせて、「やっぱり変なヤツ」だって。失礼しちゃう。でもレオが気にしてたなんて。普段はぶっきらぼうだけど、本当は優しいんだ。私がカーターに銃で撃たれそうになった時も庇ってくれたしね。
この旅は確かにレオのためだけど、私自身のためでもある。そう、やっと会えたんだ。六年間探し続けていた図書館の君──、メルキアデスに。
メルキアデスの書も気になるけど、メルキアデスのこと、もっと知りたい。この六年間、どこにいたのとか、普段はなにをしているのとか。彼のことならなんでもいい、とにかく知りたい。訊きたいことがあり過ぎて、あれもこれもと想像が止まらない。想像と言えば、私は右手の小指に視線を落とす。
メルキアデスがくれた、翡翠色の宝石が付いた指輪──。この指輪のおかげで魔法も使えた。あっ、そうだ。くれたと言えば、もう一つ。ポケットから小さな箱を取り出す。メルキアデスを追いかけるのに夢中で、すっかり忘れてた。
中身は、なんだろう。しゅるりとリボンを解くと箱の蓋がひとりでに開いて、ぽんっ! 乾いた音とともに勢いよく中身が飛び出した。思わず瞑ってしまった目を開かせると、
「トランク……?」
どうやってあの小さな箱の中に入っていたのかな。テーブルの上にブラウンのトランクが現れた。不思議なことに、とっても軽いの。羽を持っているみたい。
トランクを持って、くるりとその場で回ってみる。とってもしっくりくる! やっぱり冒険にはトランクだよね。ありがとう、メルキアデス。大切に使うね。とは言っても、今のところ、しまっておく物はないけど。
なんて、そうこうしている間に、機関車がゆっくりと動き出した。徐々にスピードが上がって行く。長い列車の旅の始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます