2

 長旅には、やっぱり読書だよね! ……と言いたいけど、残念ながら本は持ってないし、

「お腹、空いたなあ……」

 おやつを食べてなかったんだよね。こんな事態になるなら、お母さんが焼いてくれたスコーン、食べればよかったなあ。なんて後悔しても仕方がない。こういう時こそ想像で食べた気分を味わおう。

 ここは、イギリス……ではなく似ているだけだけど。イギリスと言えばのサンドイッチが食べたいな。シャキシャキのレタスにトマト、チーズやカリカリのベーコンが挟まっているサンドイッチを。それから、なんといっても英国式のアフタヌーンティーには欠かせない、具がキュウリのキューカンバーサンドイッチもね。

 なんて想像を膨らませていると、トランクがガタンと小さく揺れた。中身は空っぽのはずなのに。

 おそる、おそる、トランクの蓋を開けると、中に想像した通りのサンドイッチが入っていた。しかも、できたてみたいで、中に挟まっている野菜も新鮮だ。手に持ってみると、ちゃんと実体もある。パンのふわふわした感触が指先から伝わってくる。

 じーっとサンドイッチを見つめていたけど、意を決して、ぱくんと一口囓りついた。

 ちゃんと食べられる。しかも、

「とってもおいしい……!」

 私は続けて二口、三口と食べていく。レオも安全な物だと分かったみたいで、勧めると食べ出した。サンドイッチを食べてたら、喉が渇いちゃった。紅茶も欲しいな。今の気分は、オレンジ・ペコかな。

 柑橘の爽やかな香りを想像すると、開きっぱなしにしていたトランクから、ぽんっ、ぽんっ! と今度はティーポットとティーカップが飛び出した。ティーポットを持ってみると、ずしりと重みがあった。柑橘の香りも漂っている。

 もしかしてこのトランク、想像したものが出てくるの? つまりは魔法のトランクってこと……? なんて素敵なの!

 私は続け様にフィッシュアンドチップスと、デザートにはサマープティングを出した。イギリスと言ったらフィッシュアンドチップスに、サマープティングも欠かせないよね。

 目の前に広がる豪華な食事を前にして、自然と気持ちが弾んでくる。

 つい食べるのに夢中になっていたけど、レオってば、おいしくないのかな。せっかくのアフタヌーンティーなのに難しい顔をしている。その上、視線は私のトランクに釘付けだ。

「なあ。そのトランク、なんでも出せるのか?」

「なんでもかは分からないけど、想像した物は出せたよ。どうして?」

「いや。武器も出せるのかと思って」

「えっ、武器!? なんでそんなもの欲しいの?」

「あのなあ、ハンプティ・ダンプティは、時計と鍵を手に入れるためなら、オレたちの命なんて簡単に奪うぞ」

 確かにレオの言う通りだ。ハンプティ・ダンプティは、メルキアデスの書欲しさにレオの国を滅ぼしたくらいだもの。私たちの命を奪うくらい容易いに決まっている。

「アリス、武器を持ってるか?」

「武器なんて持ってる訳ないじゃない」

「だよな。オレが持ってる物と言ったら……」

 レオはテーブルの上に、ことんと一丁の銃と短剣を一本置いた。

「レオってば、こんな物を持ってたの!?」

「なに、大した物じゃない。この銃は魔力を注ぎ込むことで発砲できるが、弾丸の硬度も魔力に匹敵する。オレはそんなに魔力がないから、精々気絶させるくらいしか威力はない。こっちの短剣も魔力を注入することで刀身を硬化させるもので、銃と同じで自己防衛できれば十分な代物だ」

 もっと強力な武器が必要だ、とレオは続ける。

 そうね。私も自分の身は自分で守るようにしないと。私はトランクに視線を送って想像する。武器よ、出ろ。

 だけどトランクの中から出てきたのは、

「あれえ、おっかしいなあ……」

 叩くとピコピコ音が鳴る、おもちゃのハンマーだった。

 もう一度試すけど、結果は変わらなかった。今度は水鉄砲が出てきちゃった。

「あははっ。練習すれば、ちゃんとした武器が出せるようになるかもしれないよ」

「あまり期待しないでおくよ」

 レオは水鉄砲を手に取って、乾いた声で言った。レオってば、あまりどころか全然期待してないな。どうしてうまく出せなかったんだろう。サンドイッチやティーセットは出せたのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る