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長旅には、やっぱり読書だよね! ……と言いたいけど、残念ながら本は持ってないし、
「お腹、空いたなあ……」
おやつを食べてなかったんだよね。こんな事態になるなら、お母さんが焼いてくれたスコーン、食べればよかったなあ。なんて後悔しても仕方がない。こういう時こそ想像で食べた気分を味わおう。
ここは、イギリス……ではなく似ているだけだけど。イギリスと言えばのサンドイッチが食べたいな。シャキシャキのレタスにトマト、チーズやカリカリのベーコンが挟まっているサンドイッチを。それから、なんといっても英国式のアフタヌーンティーには欠かせない、具がキュウリのキューカンバーサンドイッチもね。
なんて想像を膨らませていると、トランクがガタンと小さく揺れた。中身は空っぽのはずなのに。
おそる、おそる、トランクの蓋を開けると、中に想像した通りのサンドイッチが入っていた。しかも、できたてみたいで、中に挟まっている野菜も新鮮だ。手に持ってみると、ちゃんと実体もある。パンのふわふわした感触が指先から伝わってくる。
じーっとサンドイッチを見つめていたけど、意を決して、ぱくんと一口囓りついた。
ちゃんと食べられる。しかも、
「とってもおいしい……!」
私は続けて二口、三口と食べていく。レオも安全な物だと分かったみたいで、勧めると食べ出した。サンドイッチを食べてたら、喉が渇いちゃった。紅茶も欲しいな。今の気分は、オレンジ・ペコかな。
柑橘の爽やかな香りを想像すると、開きっぱなしにしていたトランクから、ぽんっ、ぽんっ! と今度はティーポットとティーカップが飛び出した。ティーポットを持ってみると、ずしりと重みがあった。柑橘の香りも漂っている。
もしかしてこのトランク、想像したものが出てくるの? つまりは魔法のトランクってこと……? なんて素敵なの!
私は続け様にフィッシュアンドチップスと、デザートにはサマープティングを出した。イギリスと言ったらフィッシュアンドチップスに、サマープティングも欠かせないよね。
目の前に広がる豪華な食事を前にして、自然と気持ちが弾んでくる。
つい食べるのに夢中になっていたけど、レオってば、おいしくないのかな。せっかくのアフタヌーンティーなのに難しい顔をしている。その上、視線は私のトランクに釘付けだ。
「なあ。そのトランク、なんでも出せるのか?」
「なんでもかは分からないけど、想像した物は出せたよ。どうして?」
「いや。武器も出せるのかと思って」
「えっ、武器!? なんでそんなもの欲しいの?」
「あのなあ、ハンプティ・ダンプティは、時計と鍵を手に入れるためなら、オレたちの命なんて簡単に奪うぞ」
確かにレオの言う通りだ。ハンプティ・ダンプティは、メルキアデスの書欲しさにレオの国を滅ぼしたくらいだもの。私たちの命を奪うくらい容易いに決まっている。
「アリス、武器を持ってるか?」
「武器なんて持ってる訳ないじゃない」
「だよな。オレが持ってる物と言ったら……」
レオはテーブルの上に、ことんと一丁の銃と短剣を一本置いた。
「レオってば、こんな物を持ってたの!?」
「なに、大した物じゃない。この銃は魔力を注ぎ込むことで発砲できるが、弾丸の硬度も魔力に匹敵する。オレはそんなに魔力がないから、精々気絶させるくらいしか威力はない。こっちの短剣も魔力を注入することで刀身を硬化させるもので、銃と同じで自己防衛できれば十分な代物だ」
もっと強力な武器が必要だ、とレオは続ける。
そうね。私も自分の身は自分で守るようにしないと。私はトランクに視線を送って想像する。武器よ、出ろ。
だけどトランクの中から出てきたのは、
「あれえ、おっかしいなあ……」
叩くとピコピコ音が鳴る、おもちゃのハンマーだった。
もう一度試すけど、結果は変わらなかった。今度は水鉄砲が出てきちゃった。
「あははっ。練習すれば、ちゃんとした武器が出せるようになるかもしれないよ」
「あまり期待しないでおくよ」
レオは水鉄砲を手に取って、乾いた声で言った。レオってば、あまりどころか全然期待してないな。どうしてうまく出せなかったんだろう。サンドイッチやティーセットは出せたのに。
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