マポ

「どうしたジェフ、人間界なんか覗き込んで」

「趣味だよ」

「趣味って言ったってお前人間に興味なんてなかったろ、どうした急に」

「それがな、聞いてくれよ。『マポ』って植物あるだろ?」

「あるもなにも至る所に生えてるだろ」

「あぁ、だがこのマポ、実は人間界にはどこにも生えてなくてな」

「ほう?」

「つい数百年前、俺は間違えてマポの種を人間界に落っことしちまったんだよ」

「、、、それって大丈夫なのか?最悪人類が滅ぶ可能性だってあるが、」

「結果としては半分、大丈夫だった」

「半分?」

「そうだ。実は人間にとってこの植物は特殊でね、人間がマポの樹液を舐めると、どうやら痛みを感じなくなり、怪我も一瞬で治るらしい」

「、、、なんか辻褄が合わないな、ジェフ、あんたは人間が喜んだりするのをどちらと言えばよく思ってなかったろ。それこそ自分のミスで引き起こしたんなら尚更だ。」

「そうだな、確かにこのマポは人間たちに『神の薬』を意味する『アヘン』とかなんとかで呼ばれてる。」

「ならなんでそんな楽しそうなんだ?」

「この薬はただの薬じゃない」

「というと?」

「人間ってもんはよくできてるよな、副作用があるんだ。それもかなり強い。」

「どういったことが起きるんだ?」

「人間がこの薬を摂取すると、痛みや傷だけでなく、辛いことや悲しいこともなくなる。それはそれは大層気持ちがいいようで、この薬を辞められない中毒者が続出してるんだよ。」

「、、、はぁ、お前はそれを見るのが楽しくてここにずっといるってのか?」

「あぁ。文句あるか?」

「ないが、お前も早く仕事につけよ。いつまでもこんなウジウジした生活を...」

「わぁったわぁったから、いいだろ、別に趣味ぐらい」


—————————————


「、、またいる、あいつ、」

「ん、おぉイビュナ、いいところに。ちょっと見てくれ」

「また人間たちがマポの中毒になってるとかだろ?どうせ」

「そうなんだがな、さらに面白くなってきやがった。つい数世紀前はやつら、何も考えずにマポを崇めてたんだが、勘のいい奴ががマポの危険性に気付いたんだ。」

「いつの時代にもいるもんだな、頭のいい奴は」

「だがな、そいつ含めその国の奴らは半分以上マポの中毒者でな、ろくに話し合いもできない。」

「そんなにいるのか、中毒者」

「あぁ、この間なんかバカ共、マポを規制するやらなんやらで戦争まで起こしよってよ、大勢が死んで以て、結局規制一つすらできてねぇのよ。つまりな、人間みたいな下等は、結局快楽に勝てねぇんだよ。いやーよくできてる。よくできてる。」

「楽しそうで何よりだな、」

「、、なんだよ」

「別に」

「あっそう」


—————————————


「イビュナ、最近あいつ見てないか?」

「ジェフのことか?」

「そうそう、あいつ、ここ数千年ぐらい姿見せないんだよ、どこにいるかもわかんないし、」

「大変だな、心当たりがあるから探してくるよ。」

「お願いしていいか?」



「やっぱりここにいた」

「、、、、」

「ナードン心配してたぞ?お前が役所に来ないって」

「、、、、」

「仕事もせず、役所も行かず、ずっと人間ばっか眺めて。」

「、、、うるせぇな」

「うるせぇなじゃ、、ってお前飯食ってるか?えらく痩せ細ってるが。」

「、、食ってねぇかもな」

「飯を食い忘れるって、どんだけ中毒者眺めんの楽しいんだよ?」

「、、逆だよ」

「逆?」

「やつら西暦3000年を超え出したあたりからか、克服しやがった。」

「ほう」

「マポ以外にも中毒性のある薬は多くあったんだがな、なんかの学者がマポの鎮痛作用の部分だけを取り出すことに成功したみたいで」

「英雄だろうな、そいつは。多分国の紙幣かなんかになりそうだ。」

「一時期人口の半分くらいだったマポ中毒者はもうほぼいなく、いたとしても面白みがない。」

「じゃあ仕事こいよ、まってるから。時間ないから行くな、俺は」



「、、、つまんねぇ。克服しやがって。人間ってのはもっと愚かで、醜い生き物のはずだったろ?なんでそんなゴミ共が快楽に勝てるんだ?」


「あぁ腹が立つ、面白くもなんともねぇ、俺はただ、何かに依存していかねぇと生きていけねぇ、仕事も手につかねぇ、飯すら食えねぇ、そんな腐ったやつら共が見たかっただけなのに、」




「、、、あ」





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