第24話 氷結の妖精①

 しばらく紅焔の翼のメンバーを休ませた後、準備を整えて、私たちは早速柱の攻略を始めようとしていた。


「ビオラ、ブロンのこと頼むな」

「ええ。そっちも気を付けて行ってきなさいよ」


 彼らは、負傷したブロンをどうするか話し合った結果、回復と重力系の魔法が得意なビオラという女性に村まで運んでもらうことにしたらしい。

 この女性なら、ブロンの重さを弄って楽々村まで運べる。いざという時には回復魔法も使えるので適役だということだ。


「や、やっぱり、私も一緒に行った方が……」

「大丈夫よ。あなたは、私の代わりにロイドが何かやらかさないか監視しておいてちょうだい」

「酷い言い草だな」


 苦笑するロイド。

 今さっき酷い目にあったばかりだというのに、これだけ軽口が言えるのなら心の心配をする必要はなさそうだ。


「……必ず、お前の仇は俺たちが取ってやるからな」


 ロイドは、ビオラの背中で眠っているブロンに小さくそう言った。


「それじゃあ、出発しようか」


 私の言葉に、みんなは真剣な表情で頷く。

 そして、私を先頭に柱内部へ侵入した。


「……柱の中は、前のと同じみたいだね」


 柱の中に入ると、私はまず周囲の様子を確認する。

 薄暗い洞窟で、そこら中に星晶か生え、光源もないのに普通に見えるくらいには明るい。

 そして、懐かしい感じのする魔力で満たされている。


「それじゃあ、私とウィルヌスが敵を引きつけるから、みんなはその隙を見て攻撃して」

「了解」


 柱を進んでいくと、やはり見た事のあるエレメントがうじゃうじゃいた。


「あれってやっぱりエレメントなの?」

「ああ。間違いなくエレメントだ。だが、何を元にして作ったのかは分からん。あんなエレメントは初めて見た」


 私は、柱の調査をしていたウィルヌス尋ねると、「あんなの知らない」と首を振る。

 柱の中は外とは根本が違うのかもしれない。


「それじゃあ、手筈通りに」


 みんなが頷いたのを確認すると、私は勢いよく飛び出し、シールドバッシュを仕掛ける。


「――フッ!」


 大きく仰け反るエレメント。

 突然現れた私に、そこにいたエレメントたちは一斉に牙を剥く。


「フハハハハ!!我が剣の錆にしてくれる!喰らえ、――秘剣・滅龍斬!」


 そこにウィルヌスが、技巧感溢れる剣さばきで複数のエレメントを纏めて屠った。

 その威力は凄まじく、私は思わず目を丸くする。さすがはドラゴン……。

 というか、ドラゴンが滅龍とか言っちゃっていいのか?


「行きます!――スパイラルローズ!」

「ふッ!やぁッ!――ブレイドインパルス!」

「潰れちゃえい!――グランドインパクト!!」


 そして三人もエレメントを次々と倒していく。

 シェリーの魔法は術式を使っていないのに発動までにチャージが必要で時間が掛かるが、その分威力は絶大で、エレメントを核ごとすり潰している。

 ロイドは直剣と短剣の二刀を巧みに使いこなし、パリィからの刺突で的確に核を潰し、レヴィアは言わずもがな、ハンマーによる強打で核ごと押し潰して消滅させていた。


「楽勝だな!」

「ゆ、油断大敵ですよ。ロイドさん」

「分かってるって!ほら、先に進もうぜ」


 そんなこんなエレメントを倒しながら奥へと進んでいくと、坂になった場所を発見。

 そこには、酷く凍り付いている一部が砕け散った傷だらけの大盾が無造作に転がっていた。


「これは……!ブロンの盾だ!」

「ふむ。柱の外に出ても、中で落としたものはそのまま残っているみたいだね」


 坂の方へ視線を向けると、大量血の跡を見つける。

 まぁ、分かってはいたことだが、外に出たからといって中で起きた出来事がリセットされるというわけではないようだ。

 これはある意味、収穫ではないだろうか。


「……さて、いよいよ異形との対面だ。みんな、準備はいいね?」

「もちろん♪」

「は、はい!いつでも行けます!」

「俺もだぜ」


 私は、横で真面目な表情を浮かべて柱内部の壁を凝視しているドラゴン(人型)にも視線を向ける。


「あなたも準備はいい?」

「お?ああ、俺もいつでも大丈夫だ」

「よし」


 私は、坂の上にある出口へと視線を向ける。


「行こう!」


 坂を登り洞窟を抜けると、異常なまでの冷気を感じる空間が広がっていた。

 そこら中に氷の柱が立ち、空間の端には薄っすらと雪が積もっている。

 幸い、足元は凍結していないが、どこからか吹き込む風が冷たく、こちらの感覚を奪わんとしていた。


「寒ぅ……」

「大丈夫?レヴィア」

「う、うん。何とか。こんなに寒いなら下に何か着てくればよかったかなぁ。……というか、そう言うアムたんは平気なの?びっくりするくらいの薄着だけど」

「私は平気。あなたたちは?」

「俺は火の元素龍だからな。これくらいの冷気、なんでもない」

「俺も火が得意なだけあって平気だ」

「わ、私も大丈夫です」 


 そして突然吹き荒ぶ冷風。

 視線を向けると、空中に蝶のような六枚の羽を持つ異形の者が佇んでいた。

 背中の羽は薄い青色を混ぜた金剛晶のような色をしており、一部が氷ついて異様な威圧感を与えてくる。

 やはり、異形と化すと六枚羽根になるみたいだ。


「……アイリーンじゃない」


 私は、空中でこちらを見降ろす異形の姿を見て、小さくそう口にした。

 あの羽は、アイリーンのものじゃない。

 アイリーンの羽は綺麗な蒼玉色をしている。独特な模様が特徴で同族中、私の知る中でもかなりの美しさを誇っていた。

 そんな彼女の羽を見間違うことはない。


 私は、ここにいるのがアイリーンではないことに安堵の息を漏らすが、同時にこの同胞も解放してあげないとという気持ちも湧いてくる。

 私は、武器を構えて彼女を見据えた。


 これ以上私は、あなたに人を傷つけてほしくない。ここでその呪縛から解放してあげる。


 柱の核たる妖精を倒せば柱は崩壊し、その時発生するエネルギーで星が傷つけられ、崩壊に繋がる。なので本当は、異形化を解除する方法を見つけるまで放っておきたかったのだが、今更そんなことを言ってもしょうがない。

 異形の妖精は、こちらの敵意を察知すると、金切り声を上げて突進してきた。

 私はその攻撃を光の剣でいなし、流れるように彼女の背中から盾で地面に押さえつける。


「今!」

「おう!――秘剣ヒケン滅龍斬メツリュウザン!」


 剣先の見えない連撃が異形を襲う。

 だが異形に傷一つ付いていない。やはり、異形の身体は異常なまでの硬度を持っているらしい。


「きいぃい……!!かってぇな!!」

「ドラゴンの力を持ってしても傷つかないか……!」

「こ、拘束します!――ソォンズ・オブ・シャドウローズ!」


 再び空中へ飛び立とうとした異形に、シェリーはソォンズエルフーンの固有魔法で束縛する。

 茨に絡み付かれた異形からは、凄まじい魔力が吸いだされ、凄い勢いで花が咲く。


「ダ、ダメです!魔力の吸収許容範囲を大きく超えています!み、皆さん!茨から離れて!」

「っ……!?」


 直後、異形に絡み付いていた茨から成長した花が輝き出し、連鎖爆発を起こしていく。

 その衝撃で茨は千切れ、異形は空中へと舞い上がった。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「一応な……」

「すみません……私のせいで」

「気にしなくていい」


 ふむ。どうやら、異形の妖精とソォンズエルフーンの固有魔法はすこぶる相性が悪いらしい。

 シェリーはこの事実にショックを受けているようで、力なく肩を落としていた。彼女は今まで、この魔法だけを頼りに冒険者を続けていたようだから無理もない。


「わ、私は、闇魔法で相手の妨害に専念します……。すみません。力になれなくて……」


 そんなことをしている間にも、異形は怒涛の攻撃を仕掛けてくる。

 異形はアイスレーザーを放ってくる飛行ユニットを作り出し、無差別攻撃を始めた。


「来た!!」

「っ……」


 レーザーの放たれた場所には氷の跡が残され、凄まじい冷気を放っている。足を付けたらそこから凍っていきそうな勢いだ。


「みんな私の側に!」


 私の指示を受け、みんなが私の後ろに集まる。

 私はフェアリービットで大きな盾を作りだし、前方空中に配置する。

 そのまま魔法を行使し、みんなに強化魔法を掛けていった。


「――レジストイルミネイション!――アンチコールド!」


 この魔技アーツは、いわゆる状態異常から身を護るための魔法と寒さに対し強い耐性を付与する魔法だ。

 これを相手にするなら、絶対必須の魔法だろう。


「みんなに凍結と寒さに対する耐性を付けた!凍結耐性の効果時間は長く持たないから、切れそうになったら私の所に来て!身体に纏わり付いている膜を見ればあとどれくらいで切れそうか分かるから!」

「こんな便利な魔法、使えるなら最初から使えよ!」

「アンチコールドに関してはごめんだけど、レジストの効果時間はかなり短いんだって。文句言ってないでどんどん攻めて!」


 アンチコールドの効果時間は半日とかなり長いが、レジストイルミネイションは五分から七分程度とめちゃくちゃ短い。

 適所で小まめに使うのが正しい運用法だが、こんな無差別に凍結レーザーを放ってくる相手だとそんなことは言っていられない。

 少し無茶をするが、切れる前に新たに耐性を付け直すのが一番安全で手っ取り早い。


 凍結耐性を得た私たちは、先ほどよりも格段に動きが良くなった。

 寒さによる動きの低下も無くなり、いつも通りの万全な戦闘が出来ている。

 確かに、目の前にいる異形の攻撃は脅威だが、正直言って破壊力はそこまで高くないため、多少被弾しても私の回復魔法で事足りている。

 レーザーだって凍結に性能が偏っているためか、それさえ気にしなければただの冷たい水鉄砲だ。

 被弾度返しで攻めてくるこちらに、異形は明らかな困惑を見せていた。

 異形になっても、相手に対する感情は残っているということか。


「早期に決着をつける!どんどん行くぞ!」

「「おう!」」


 ロイドの掛け声に返事をし、私もみんなに後れを取らないように攻撃を仕掛けてく。

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