第23話 二本目の柱

 微かにだが、柱の中のあの独特な魔力を感じる。

 先ほど大量の魔物が出現した時にも魔力を感じたが、柱で何が起きたんだ。


「もうすぐ森の出口だ」

「急ごう」


 森を抜けると、そこには花畑が広がっていた。

 しかし、植えられている花は何者かに荒らされ、見るも無残なものになっている。

 そこから視線を上げると、遠くに光の柱が遥か空の彼方を貫くようにそびえていた。


「柱だ」

「ここから真っすぐ行けば迷わず着けそうだね」


 私たちは荒れた花畑を真っすぐ進み、前方に見える柱の元まで早足で移動する。

 途中、森では見かけなかったボア系や花などの植物系の魔物などに襲われたが、先ほどのモンスターハウスに比べれば児戯に等しい。

 特に苦戦することもなく柱の元までやってきた。


「それじゃあ、少し休憩を挟んだら柱の中に入ろう」

「うん。昼食を用意するから、アムたんは周囲の警戒をお願い」

「ん」


 今は昼時からかなりズレた時間だ。ここまで休憩も、ごはんも食べずに突っ走ってきたので、さすがに腹の限界が近い。

 まだ体力と魔力に余裕はあるが、柱に入ってしまえば出るまでちゃんとした休憩は行えないだろう。できる時に休憩はした方がいい。


 私は柱の周囲を探索する。付近には特に変わった様子は見当たらない。

 魔物も近くをうろうろしているが、シドリスから貰った退魔結界のおかげで近づいて来ないので、安心して探索ができている。いやぁ、本当に便利だね。魔道具って。

 しばらくして、レヴィアがご飯ができたと呼びに来た。今日の昼食はマタンゴ入りコーンポタージュと焼いた食パンだ。


「おいしい……」

「良かった。本当はもっと凝ったものを作りたかったんだけど、時間がないからね。適当にありものでパパッと済ませちゃった」

「ううん。レヴィアがいてくれて本当に助かってるよ」

「あはは……どうしたの急に」


 私の言葉に嘘はない。

 彼女がいてくれて本当に助かっている。

 私の秘密を知っても、いつも道理に接してくれている彼女の存在はある意味で大きかった。ちょっと前までは、仲間と言えるような人はいなかったからね。

 まだ彼女のことを理解しきれていないが、ここからまだまだ長い旅は続く。

 その間に、彼女のことを知っていければいいかなって思っている。


「「――うわあああ!!!」」


「!?」


 そんな風に思いながらスープを啜っていると、柱の方から勢いよく誰かが飛び出してきた。

 視線を向けると、ボロボロの四人組が倒れ込むようにしてそこにいた。

 私は、彼らに近づいて「大丈夫?」と声を掛ける。


「あんたは!」

「ア、アムアレーンさん……!」


 私の顔を見たロイドとシェリーは、驚きつつも安堵したような表情を浮かべていた。


「う、ううっ……」


 そんな中、デコルテの目立つ服を着る巨乳の女性に背負われている男性が呻き声を上げる。


「大丈夫かい?ブロン」

「こ、ここは……」

「安心しな。もう外だ」


 男性は、どこか虚ろな瞳で周囲を見渡していた。

 その身体は震えており、明らかに力が入っていない。そしてよく見れば、片足が無くなっていた。


「……中で何があったの?」

「――それは俺から説明しよう」


 どこからともなく聞こえてくる声。

 視線を向けると、柱の中から緑髪の青年が険しい顔をして出てきた。


「ウィルヌス」

「よう。昨日ぶりだな」

「中で何が――」


「あぐッ……!」

「ブロン!」


 私が尋ねようとすると、女性に背負われているブロンと呼ばれる男性が苦しみだす。

 それを見た私たちは、互いに小さく頷き合い。


「まずは傷の手当だね」


 と言って、彼らに休憩スペースを提供した。

 レヴィアは、バックパックの中から簡易の組み立て式ベッドを取り出し、組み立てたそこにブロンを寝かせる。


「――ヒーリング」

「あんた、回復魔法も使えるんだな」

「まぁ、一応……」


 羽を使えばもっとすごい魔法も使えるが、今は彼らを混乱させない方がいいだろう。

 私の回復魔法を受けて、ブロンの呼吸は徐々に落ち着きを取り戻す。

 そしてしばらくすると、スースーと安らかな寝息が聞こえてきた。


「ありがとう」

「気にしないでいい。それに、ただの応急処置だ。私は特に難しいことはしていない」

「それでもだ。ありがとう」


 私はブロンの足に持ってきた回復ポーションをぶっかけて、乾いた清潔な布を巻く。

 その後、紅焔の翼たちの元へ向かい、柱で何があったのかを再度尋ねた。


「それで、柱の中で何があったの?」

「ああ」


 ウィルヌスが言うには、柱の中は星晶で埋め尽くされた洞窟のような空間が広がっていたのだとか。そして、私の言う通りエレメントがうじゃうじゃおり、探索は難儀した。ここは私の知る柱の中と全く一緒のようだ。


「俺も強力していたこともあって進むこと自体は大丈夫だったんだが、さらに奥まで進んだ時、突然空間内の雰囲気が変わったんだ」


 空間の奥は、やはり塔の頂上のような不思議な空間が広がっていた。

 空は真っ黒で、黒紫の霧と稲妻が飛んでいる。

 そして、異常なまでの寒さ。まるで、極寒の地に迷い込んだかのようなとてつもない寒さに、五人は眉を顰めた。


「俺たちが、その空間を調べようと中央まで進んだ時、上から何かが降ってきたんだ」

「何かが?」

「ああ。丁度お前くらいの大きさだったな。背中に蝶のような羽を持つ人型の魔物だ」

「……」


 やはり奥には、異形と化したフェアリアが存在しているようだ。

 そのフェアリアは非常に攻撃的で、こちらを捉えた瞬間、どこからともなくレーザーを射出するユニットを召喚したらしい。


「飛行ユニット!?」

「ああ。恐ろしい威力だったぜ」


 レーザーを放つ飛行ユニットを使うフェアリア……。

 私は、その人に心当たりがあった。


 アイリーン……。


 私の幼馴染であるアイリーンは、レーザーを射出する飛行ユニットを使うフェアリアだった。

 得意は氷と光の元素魔法。特に妨害と支援が得意で、島での訓練の際に相手する時は、よく頭を悩ませたものだ。

 寒さがどうのって話も、氷の元素魔法が得意なアイリーンならおかしな話ではない。


 ここにいるのか?アイリーン……。


 私は、目の前にそびえ立つ光の柱を見やる。

 そんな私の様子に、レヴィアは「アムたん……」と小さく呟いていた。


 紅焔の翼は、ウィルヌスの協力もあって最初は何とか善戦していたらしい。

 しかし、途中で攻撃が激化し、無差別にレーザーを放つようになったとか。

 そのレーザーは一瞬で物を凍らせるほどの威力で、避けながら戦うというのは厳しいものがあった。

 攻めるに攻めれないという状況に陥り、最終的には強大な魔力を込めたレーザーを放たれた。

 その攻撃の直後、どこからともなくエレメントが出現し、数の暴力に撤退を余儀なくされたらしい。

 おそらく、その時の魔力が外に漏れ、周辺で魔物が突然湧いて出てきたのだろう。


「ブロンの足は、撤退時に放たれたレーザーにやられたんだ」

「凍らせた端から凍結していくから、足を切り落とすしかなかったんだよ」


 苦渋の決断で一命を取り留めたブロンだったが、この足ではもう冒険者は続けられないだろう。


「なるほど、話は分かった。なら、ここからは私もあなたたちに同行する」

「本当か!それは助かる!」


 盾役のブロンがいなくなった彼らが、ここから柱を攻めるのは難しいだろう。

 私ならタンクの適性もあるし、回復も使える。だから同行する。

 喜ぶ彼らを他所に、レヴィアは私の耳元に顔を近づけてきた。


「……いいの?」


 私は、小さくコクリと頷き「この中に私の幼馴染がいるかもしれない」と溢す。


「幼馴染?」

「うん。もしも幼馴染がいたのなら、何としてでも止めないといけない。アイリーンは口うるさくとも優しい心の持ち主だったから、これ以上、彼女に人を傷つける悪魔になってほしくない」

「アムたん……」


 異形の妖精を倒せば、星にダメージが行くだろう。

 だが、放っておけば柱を攻略しに来た人間を異形は容赦なく殺す。

 もしも、核にされたフェアリアがアイリーンなんだとしたら、幼馴染として彼女を止めなければならない。

 星を護るために柱の攻略を渋り周囲の町や村々を危険に晒しておいて、幼馴染だから止めに行くという自分本位な考えは決して褒められたものではないだろう。

 だが、これは理屈じゃない。

 私は光の盾を作り出し、左腕に装着した。盾を使うのは久しぶりだ。


「……それじゃあ、準備ができ次第、柱に突入する」

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