第12話 依頼の報告
薬草を集め終えた私はライツの町へ戻り、すぐに組合へ向かった。
依頼を完了した旨と控えの依頼書を提出すると、ご苦労様の言葉と報酬を貰って初めての依頼は無事終了した。
控えの依頼書の方も、完了の判子を押してもらい返してもらった。依頼書を入れておくためのファイルか何かも買っておかなくてはいけないな。
「――この子が例の冒険者かい?」
「ん?」
そんな風に考えていると、不意に背後から男性の声が聞こえてくる。
振り向くと、赤いバトルコートと大剣を背負う金髪のツンツン頭の青年とその仲間らしき人たちが立っていた。
「誰?」
「誰とは失礼な奴だな。僕たちを知らないのかい?」
「知らない」
私が素直にそう言うと、金髪の男性はガクッと大袈裟にリアクションを取った。
「ふ、ふん。無知な奴だな。仕方がない。
「え、いや。別に要らないけど……」
「なんだと!」
「落ち着きなさいロイド」
「しかし……こいつが!」
地団太を踏む彼を宥めるように、デコルテの主張が激しい服を着る胸部の大きな女性が彼の肩に手を置いた。
「そ、そうだよロイド……」
「そんな調子じゃ、相手もこっちの話を聞いてくれないぞ」
そこに、フードを深くまで被った気弱な少女とシーフと思しき細身の少年が混ざる。
私はそんな彼らを見て、肩を竦めながらその場を静かに去ろうとした。
「あっ、おい!ちょっと待てよっ!」
「……何?」
「何?じゃない!なんで無言で立ち去ろうとしてるんだ!」
「いやだって……」
なんか面倒臭そうだし……。
私は少し眉を顰めて彼を見据える。
私の視線を受けた彼は「うっ」と一瞬仰け反った後、コホンと咳払いをしてこちらに視線を向けた。
「……改めて名乗るぞ。僕の名前はロイド・ヴァンセント。このパーティ“
「はぁ……シルバーランク」
どうしてシルバーランクの人が私なんかに?
私はそう彼に視線を向けていると、後ろに控えていた他のメンバーも前に出てきた。
「急にごめんなさいね。私たちは、たまたまここに立ち寄ってきたとあるパーティのリーダーにあなたの話を聞いて会いに来たのよ」
「私の話を?誰に?」
「レ、レイブンクロウのグレイグさんです……」
「なるほど、レイブンクロウ」
そりゃそうか。私のこと知ってるのはレイブンクロウの面子くらいしかいない。
「『浮世離れした独特な雰囲気を持つ白髪の少女。光の柱を消滅させたのはその子だ』最初は作り話かと思ったが、この組合でその特徴と合致する女が現れたって聞いてな。気になって待っていたんだ」
「はぁ、わざわざどうも……?」
私を待っていたとは、この人たちは暇なのかな?
「それで。私に何のようなの?」
「ああ、単刀直入に言うぞ。俺たちと光の柱の攻略を共にしてほしい」
「……」
「既に場所も判明している。あとは戦力を揃えて突入するだけなんだ」
「お、お願いします……!」
彼らはそう言って私に手を指し出してくる。私はその差し出されたその手に視線を向けて黙り込んでしまった。
光の柱の攻略……。それはつまり同胞を倒すということ。私はそんなことをしたくない。それに、柱を壊せば星にダメージを与えることになる。それは絶対に避けないければならない。
柱の内部がどのような構造になっているのか詳しく調べたいという気持ちはないでもないが、調べるためだけに彼らを騙して同行するのは不誠実だし、そんなことはしたくはない。
そうやって止まっている私に、彼らは不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。
「どうした?」
「……いや。なんでもない」
柱を破壊すると星に影響を及ぼすと言った方がいいか?いやしかし、それを彼らは信じてくれるか?……信じないだろうな。逆に私が悪者にされそうだ。
私は彼らに視線を向けると、一瞬目線を外して口を開く。
「……その話、受けることはできない」
「なに!?それは何故だ!」
「どこまでグレイグから話を聞いているのか知らないけど、柱の核がフェアリアだっていうのは知ってる?」
「ん?フェアリアだと?異形が襲ってきたというのは聞いたが、そんな話は聞いてないぞ。というかフェアリアがこの世に存在するのか?嘘を言ってるんじゃないだろうな?」
「……」
そんな風に言うロイドを見て、私は「グレイグたちは私の正体は明かさないでくれたみたいだ」と少し驚く。
……いや、そもそも異形がフェアリアだって気づかなかった可能性もあるのか。まぁ、どちらにせよ知らないならそれはそれでいい。
「……知らないのならいいんだけど。なんにしても、私は柱の核になっている異形を手に掛けたくない。だからこの件は申し訳ないけど断らせてもらう」
「異形は変異した動物――魔物だ!お前は、この世界が柱の魔力に
ロイドは憤りながら言い放つ。
私は、何も知らないって幸せなことだよなぁと思いながら、静かに首を横へ振って口を開いた。
「あなたたちは、もしも仲間が魔石に侵食されて魔物と化して襲ってきたとしても、
「な、何だ急に……人間が魔石に呑まれることなんてないだろ」
「もしもの話だよ。いいから答えて」
私の質問に、彼らはお互いの顔を見合わせて頷く。
「馬鹿なこと言うな。そんなことできるわけないだろ。仮に魔石に呑まれたとしても、そいつはずっと僕たちの仲間だ」
「……私が抱いている気持ちは、それと同じものだよ。異形だからってただの魔物と一括りにしないで」
そう言って私は彼らから離れる。
「おい!まだ話は……!」
「私はあなたたちと話すことはない。柱の調査は他を当たって」
未だなお背後で騒いでいる彼を他所に、私は組合を後にする。さて、今日泊まる宿を探さないと。
「あっ!!」
「ん?」
そう思って組合の前で町を見渡していると、どこからか驚くような声が聞こえてくる。
声のした方へ振り向くと、そこには私に冒険者証を発行してくれた女の人が立っていた。女性はどこかホッとしたようなため息を吐く。
「あなたはさっきの」
「はい。先ほどぶりです!あなたを待っていたんですよ!」
「私を――って、うわっ!?」
女性はこちらへ早足で近づくと私の手を両手で握り、凄い勢いで顔をズイッと近づけてくる。その行為に私は目を見開いた。何なんだ突然……。
「すみません!組合長があなたを待っています!申し訳ないですが、一緒に来ていただきます」
「え?ちょ、ちょっと!?」
「善は急げです!さぁ、こちらへ!」
そうして私は、出てきたばかりの組合の中へと連れ込まれるのだった。
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