第11話 初めての依頼
「これがクエストボードか。人がいっぱいだ……」
クエストボードの前は、たくさんの人でごった返していた。みんな吟味するようにコルクボードを凝視している。
クエストボードには、たくさんの依頼が張り出され、それぞれに推奨ランクか必須ランクが記載されていた。
推奨ランクは「このランクに達していればスムーズに解決できるかもしれない」と付けたもので、既定のランクに達していなくても受けること自体はできる。
必須ランクが付けられたものは、そのランクに達していないとそもそも受けることができない。これが付けられている依頼は、よっぽど重要なものか、危険すぎるために定めざる負えなくなったもののどちらかだ。
このランク付けには依頼をスムーズ解決させるためという目的もあるが、一番の理由は冒険者の安全のためだ。
こんな危険だらけの世界で安全も何もあるかって話だが、実力も伴わない状態で強敵と戦っても無駄死にするだけなので、このような制限は大事だったりする。
また、依頼を失敗したり、途中で破棄したりすると違約金を取られる場合があるので注意しなくてはいけない。
なので、余程の事情がないのなら自分のランクに見合った依頼を受けるのが一番だ。
「ふむ。ビギナーの依頼は雑用みたいなのばっかだね」
そんな中、私はビギナーランクの依頼が張り出されているエリアを顎に手を当てながら眺めていた。
ビギナーランクの依頼のほとんどは雑用みたいなものばかりだ。
薬草採取やペット捜索、倉庫整理に荷物運び。珍しいものだと行商人を隣町まで護衛するなんてものもある。
「うーん、どれもパッとしないなぁ」
だが、ここで足踏みしていてもしょうがない。
何でもいいから依頼をこなしてランクを上げていかなければ。光の柱の件もランクを上げないとお声掛けすらされないからね。
「……とりあえず、これでいいか」
そう言って私が手に取ったのは、薬草採取の依頼だった。
島にいた時はしょっちゅう草をむしってたわけだし、同じ要領でやれば大丈夫だろう。
依頼書を手に取った私は、早速先程まで話していた受付嬢の元へ持っていき、手続きを済ませる。
「この依頼を受けるよ」
「薬草採取の依頼ですね。ありがとうございます」
受付嬢は依頼書に判子を押すと、そのまま手を触れて魔力を流す。
「――デュプリケイト」
魔法名を口にした瞬間、依頼書が輝きを放ち二つに分かれた。
受付嬢は、新たに生み出された依頼書をくるりと丸め、少しぎこちない手つきで紐に結び、私に手渡してくる。
「はい、受付完了しました。これは依頼書の控えになります。依頼の内容を確認したい場合にご活用ください。また、依頼達成時に提出していただきますので、無くさないよう注意してください」
「分かった」
私は受け取った依頼書を鞄にしまい、早速依頼達成のため組合を後にする。
「さて、まずはものを揃えないとね」
組合を出た私は籠か何かが欲しいなぁと思い町へ繰り出す。
と言っても、お金がないのでどうにかして作らないといけないんだがまぁ、アルラウネの魔石とアルミラージの魔角があるので問題ないだろう。
というわけで私は、『素材屋』と書かれている看板の建物に入っていった。
「いらっしゃい」
「これを売りたいんだけど」
私が鞄から取り出したのは、先端が削れた魔角と一部砕けた魔石。
それを見た店のおじさんは険しい表情のままそれを手に取り、品定めするように見まわす。
「……ふむ。アルミラージの魔角か。コイツは植物系の魔石だな」
「うん。魔石はアルラウネから取れたやつだよ」
「ほう、アルラウネか」
おじさんは魔石を仰々しい機械に乗せると魔力を流して起動する。そのままそれを置いて今度は魔角の方に視線をやり、削れた先端を撫でる。
「……角自体は綺麗だが、妙な削れ方をしているな。何かやったのか」
「ちょっとままならない状況にあってね。状況を打破するために魔薬を作ったんだ」
「魔薬だと!?はぁ……そいつは大変だったな」
「まぁ、ね。……先端は削れているけど、素材としては問題ないでしょ」
「ああ。問題ないどころの話じゃないけどな。これほどの上物。見たことがねえ」
そうこうしているうちに、起動していた機械が停止した。
おじさんは機械の方へ向かい、機械に取り付けられているパネルを見て頷く。
「……本当にアルラウネの魔石みたいだな」
「だから言ってるじゃん」
「そう言って騙す奴がこの世の中にはいるんだよ。だからこうして魔道具を使って本物かどうかを確かめるんだ。俺は“サーチ”が使えないからな」
サーチというのは、簡単に言うと鑑定の魔法だ。
対象の状態や成分などを確認できる。練度にもよるが、人の名前や正体を暴くこともできるらしい。ちなみに私は使えない。
というかその機械、魔道具だったんだ。
「どれも上物だからな。んー……まぁ、こんなもんだろ」
そう言っておじさんは、私の前に硬貨を数枚置いた。
「……これ、いくらなの?」
「なんだあんた、アインス硬貨を知らないのか」
「……私は他所から来た者だからね」
「なるほど。だったら仕方ねぇな」
おじさんは、レジスターを開き硬貨を置いて見せる。
「そういや、あんたの国では何の硬貨を使ってたんだ?」
「私のいたところでは“シル”って単位の硬貨を使ってたよ」
「シル?聞いたことない単位だな。現物って持ってるか?」
「今は持ってない」
「そうか」
おじさんは「まぁいい」と言って、置いた硬貨の一つに指を置く。
「この小さいのが“アインス小銅貨”。一番価値の低い金だ。これ一枚で“一ラース”になる」
そのまま続けて次の硬貨に指を置く。
「んで、これが“アインス銅貨”。小銅貨十枚分の価値がある」
「ってことは十ラース?」
「そうだ」
曰く、この大陸では小銅貨、銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨という順で価値が高くなるらしい。
一番低いのが小銅貨で価値は一ラース。
銅貨が十ラース。大銅貨が百ラース。小銀貨が千ラース。銀貨が一万ラース……という風に価値が上がっていく。一個下のランク十枚分が乗算されていく形だ。
「あんたの売ってくれたこいつらを全て合わせた金額が小金貨一枚と銀貨五枚だから“百と五万ラース”ってことになる。まぁまぁの大金だ」
「そんなに貰っていいの?」
「ああ。これにはそれくらいの価値がある。アルミラージとアルラウネはここらじゃ見かけない珍しい魔物だからな」
そうなんだ。孤島では当たり前のように森にいたけど……。
私は受け取った硬貨を鞄に最初から入っていた小さな布袋に入れる。多分ジールが入れていたモノだろうが、今はありがたく使わせてもらおう。
「あんたこれからどこへ行くんだ?」
「ちょっと薬草採取にね」
「あんたほどの者が薬草採取?」
「私はさっき冒険者になったばっかりだからね」
「なるほどなぁ。ランクを上げるには依頼をこなさないかんからな。まっ、また機会があればよろしく頼む」
「うん。何か欲し素材とかあったら寄ってみる」
「おう」
そんなやり取りをした後、他の店を回り、必要そうな物を揃えてから町を出た。
町を出てからは、薬草が生えていそうな場所へ迷いなく向かう。
要求されている薬草は孤島にも生えていたものなので、外界でも育成条件が同じなら簡単に見つかるはずだ。
「……ほらね」
思っていた通り、森の中で光が差している場所に目的の植物はあった。
この薬草は静かで日当たりのいい場所に生えている草で、名を“エアル草”という。
名前の由来は、この草を見つけた人がエアルという癒し手の女性だったからとかなんとか。
私はエアル草の根元を手慣れた手つきで切り取り、取り出した布に包んで鞄に入れる。
「よし。この調子で集めて行こう」
それから一時間ほど薬草を集め、町へと帰還した。
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