第4話 初めての冒険
アルラウネの魔石は、砕いて分け合うことになった。
結構な大きさで
「ほい!」
「おお……」
五等分に切り分けたのはグレイグ。
かなり正確に分かれており、なかなかの剣さばきに思わず拍手を送る。
「好きなのを取っていってくれ」
「じゃあ、俺これー」
「私はこれを貰うよ」
「では、私はこれを」
そう言って好きに持っていく彼らを眺めていると、グレイグが「ほら、キミも」と、催促してきた。
「んー……じゃあ、これで」
「それじゃあ、俺は最後に余ったこれだな」
四人は、受け取った魔石を、それぞれ自前の鞄にしまっていく。
そんな中、私は「どうしよう、これ……」と困ったように魔石を見つめる。
「どうしたんだ?」
「いや、鞄がないからどうしようかなって」
「ああ」
今、手元に鞄なんて便利なものは無い。
流石にこの大きさのものは、腰マントのポケットには入らないし、さぁ、どうしたものか。
「なら、これをやるよ」
そう言ってジールが自分の鞄から取り出したのは、ぺちゃんこになったウエストバッグだった。鞄の奥底にしまっていたからか少し汚いが、まだそこまで使われていないものであると分かる。
「いいの?」
「おう。買ったはいいが容量が思ったより小さくてな。いつか使うだろうと思って鞄の肥やしにしてたんだが、結局使う機会が来なかったんであんたにやるよ」
「ありがとう。助かるよ」
私はジールから鞄を受け取り、中に魔石を入れて腰に装着する。
鞄の手触りはすごく良く、長い間鞄の奥底にあったためぺちゃんこになってはいるものの頑丈な作りで、かなり良いものなのではないかと思った。
確かに容量は少ないが十分だ。
「んじゃ、旅の再開と行こうか」
「おう」
そして私たちは再びエダフォスの森を進んで行く。
道中、草木に侵食されている廃村や橋が折れて進めなくなっている場所があったり、巨大な魔物が通ったようなけもの道を見つけたりと、初めて外界に出た私にとってはかなり刺激的な光景が待っていた。
出現する魔物はそこそこ強く、魔力災害の被災地なだけあるなと思った。羽が使えなくても全然戦えていることに少しホッとしている。
レイブンクロウのメンバーも全員かなりの練度で、私の動きに難なくついてくる。超速で動き回るビットと私の動きについて来れるのはなかなかのバトルセンスだ。この危険地帯の調査を頼まれるだけある。
「――これで!おしまい!」
何度目かの戦闘。
クリスタの踵落としが狼の脳天に直撃し、狼は白目を剥いて口から泡を吐き出しながら横転した。
クリスタは軽々と着地すると、小さく息を吐いて腰に差していた短剣を引き抜き、流れるように解体作業に移る。
「いい連携だったね」
「はい。アムアレーンさんも、いい動きでした」
「あなたたちもね」
それにしても……。
クリスタが魔石を抉り出している狼を見ながら心の中で独り言ちる。
「この魔物、デカくない?私の気のせい?」
そう言葉に出すと、ジールが「それ、俺も思ってた」と反応した。
「確かにデカいよな」
「ああ。これも、柱の魔力の影響なんだろうか」
目の前で倒れている狼の体長は優に百五十を超えていた。私の身長よりも高い。
それが周囲にたくさん転がっている。改めて見ても壮観だ。よくもまぁこんなデカブツをこれだけの数、倒せたものだ。
この体躯で、物凄い速度で駆けまわるので戦いにくいったらありゃしない。
「これって、フォレストウルフだよな?」
「はい。大きさはとんでもないですけど、間違いなく同種の魔物ですね」
「ということは、進化したってわけじゃなさそうだな」
ここに出現する魔物のほとんどがこのような体躯のものばかりだった。
森の中というだけあって、トレントのような木の魔物や、マタンゴにスパイダーといった魔物にも遭遇した。
瘴気で強化されているのかトレントの外皮は硬く、フェアリービットが弾かれた時は酷く驚いたものだ。
スパイダーの糸は硬質で、一度でも捕まればどうなるのか想像に難くない。ただ、私の発する魔力には弱かったようで、難なく倒すことができた。
マタンゴは中身がおいしいので毒素のある外側は剥いで、食べれる中身だけを回収した。体躯が大きいのでかなり肉厚だ。しばらく食料には困らなさそう。
そんなこんな時間は掛かっても特に苦戦するようなことはなく、森を進んでいけている。
一部大変なことになっている場所はあれど、廃街道は生きているので、道に迷いにくいというのも大きいだろう。
ただ、街道を進んで光の柱にたどり着けるのは分からない。手探りで、空に見える柱を目印に進むしかない。
クリスタが全ての狼から魔石を回収すると、毛皮を剥いで肉は全て燃やした。
狼系の魔物の肉は生臭くて食に向いていないうえ、脂肪は少なく魔力もほとんどないので燃料にも素材にもならない。
なので、価値のある魔石と、爪、牙、毛皮を剥いで、あとは燃やす。
骨にはそこそこの魔力があり、魔法薬や武器防具の素材に使用できなくもないが、何でもかんでも持って行けるほど荷物に空きは無いので、そこは取捨選択だ。
解体が終わった狼を一ヵ所に集め、クロムは業火を起こす魔法“ファイアー”で焼却する。
こうしておかなければ、腐った肉につられてやってきた魔物に襲われる可能性もあるし、腐肉に魔力が宿りアンデッド化する恐れもあるので、ちゃんと後処理をしておかなければならない。放ったらかしはご法度だ。
「処理完了です」
「お疲れ様」
クロムに労いの言葉を掛ける彼らを横目に、私は赤くなってきた空を見上げる。そろそろ野宿の準備をしないといけないな。
「暗くなってきたな」
そう思っていたら、同じく空を見上げたグレイグが呟いた。
「うん。どうするの?流石にここで野宿は危ないと思うんだけど」
「そうだなぁ……」
今私たちがいるのは森のド真ん中。ここで野宿は流石に危ない。どこか雨風凌げる場所があればいいのだが。
「確かこの先に町があったはずです。少し距離はありますが、今日はそこで一晩過ごすことにしましょう」
「ああ。確かに地図上では存在しているな。魔物が住み着いてなきゃいいが」
「まっ、行ってみれば分かるだろ。ちんたらしてると日が暮れちまう」
というわけで、クロムの提案でこの先にある町へと足を進めた。
そろそろ夜型の魔物が活動しだす時間帯だ。早いこと町まで行かなくては。
道中、昼間には見かけなかったフクロウ型の魔物や数多くの虫の魔物が出現し始めた。視界が悪いので思ったように動けず、少し苦戦することになる。
思わぬ苦戦に、周囲を照らす魔法の習得は必須だなと私は密かに思った。
孤島では夜に出歩くことはなかったし、あっても魔道ランタンで照らしていたので、文明の利器に頼っていた弊害が出てしまった。
それから、一時間も掛からない内に町にはたどり着く。当たり前ではあるが町はゴーストタウンと化していた。
幸い、ほとんどの家屋が無事で、魔物の気配もしない。いつの間にか、教会を出てから感じていた魔物の気配も無くなっている。どうやらこの町の退魔結界は生きているようだ。
退魔結界というのは、町や村に設置されている魔物を追い払う結界のことだ。
結界は、魔法術式を刻んだ“魔法陣”を描き、発動させる魔法だ。この術式を刻んで魔法を発動させる魔法形態を“術式魔法”と呼ぶ。
この町で結界を発生させるために使用されているのはおそらく魔道具だ。
魔道具には、ランタンのような小さなものから、
ティタニアにも魔道具職人はいたので、島にいた時にはお世話になったものだ。
「町の真ん中に見える時計塔。おそらくあれが結界の発生装置だろう」
「はい。あれほど巨大な魔道具を使っているだなんて、ここはかなり発展した都市だったのでしょう」
魔道具は、定期的に魔力の補充とメンテナンスが必要になる。だが、この町で使われている魔道具はエーテルを自動で吸い上げ、結界のエネルギーに変えているっぽい。
これの利点は魔力の補充が必要ないこと。しかし、その反面かなり繊細な作りになっているらしく、運用していくには十二分なメンテナンスとケアが必要になる。コストは安いが維持費は高いと言ったところか。
この森が災害にあったのは八十年前と聞く。その間、誰も手を付けていないはずだ。
私は何とも言えない不安感を抱き、時計塔を眺めながら宿屋であろう建物に入っていった。
直後、結界が不自然に揺らめく。既に屋内に入った私たちは、その揺らめきに気づくことはなかった。
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