第2話 冒険者
「――い!……おい!あんた大丈夫か!?」
誰かが叫んでいる。
私の体は誰かに揺らされ、意識が徐々に覚醒していく。
「……!目を覚ましました!」
私は頭を押さえながら上半身を起こした。気を失っていたのか?
「体調の方はどうですか?」
尋ねてきたのは、頭に二本の角が生えたローブを纏う少女。
彼女は私の顔を覗き込み、凄く心配そうな表情を浮かべている。
「……寝起きで少し怠いくらい。けど、他はなんともない」
「そうですか……良かった」
そう素直に伝えると、彼女はホッとしたように息を漏らした。
「それで……あなたたちは?」
私は自分の周りに集まっている四人を見渡し、首を傾ける。この人たちは誰だ?
私の質問に答えたのは、大盾を担いだ金髪の男性だった
「俺たちは、ここへ依頼を受けてやって来た冒険者だ」
「冒険者?」
「ああ」
冒険者――。
冒険を生業とし、様々な場所へ赴いて自由気ままに旅をする者たちのこと。
時に依頼を受けて人助けをしたり、危険な魔物を討伐したり、ダンジョンと呼ばれる迷宮を潜り、富や名声を得んとする。
知識では知っていたけど、実物を見るのは初めてだ。
「ここへは休憩のために寄ったんだが、建物に入ったらキミが倒れていて驚いたよ」
「何があったんだ?」
ターバンのような被り物を付けているサルエルパンツの青年が尋ねてくる。
私は、ひび割れた壁に背中を預けている魔法人形の方へ視線を向けた。
「あれに襲われたの」
「……ゴーレム?」
私の向いた方へ同じく視線を向ける四人。
四人はお互いの顔を見合わせコクリと頷くと、ネコミミを生やす軽装の女性が拳に魔力を込めながらゆっくりと人形へ近づいていく。
「……これ、戦闘用魔道人形のプロトタイプだよ」
女性は、全く動く気配のしないゴーレムを確認しながらそう報告した。彼女の報告を聞いた他の三人は「マジか」と目を丸くして私に視線を向ける。
「あれはキミが倒したのか?」
「いや、戦いはしたけど倒してはいないよ」
「そうなのか?」
「うん。何とか壁の方に吹き飛ばすことはできたけど、あそこから大技を放ってきて動かなくなっちゃった」
「大技……」
「大技ってぇと、アレか?あの今は禁止されてる魔力砲」
「ああ……。床に残るこの焦げ跡からしてそうだろう」
「彼女、よく生きていたな……」
そんな風に言っている男性二人を他所に、私は視線をゴーレムの方へ戻す。
ゴーレムのところでは、武闘家の女性がゴーレムの胸のコアを抜いている姿を確認した。
私は彼女の行動に首を傾げる。
「……何をしているの?」
「ゴーレムのコアを外しているんだよ。コアをそのままにしておくと再起動する恐れがあるからね。まっ、コイツのコアは完全に壊れてるみたいだからその心配はなさそうだけど。それでも念のために……さっ!よし取れた」
その様子を眺めていると、ローブの少女が背後から近づき声を掛けてきた。
「念のために回復魔法を掛けておきましょうか」
「うわっ!?」
「きゃ!?」
彼女の気配を全く感じることが出来ず、いつの間にか背後に立たれていて凄く驚いた。
「そ、そんなに驚かなくても……」
「ごめん……」
「いえ。いきなり後ろから声を掛けた私も悪かったです。ごめんなさい。それじゃあ、ほら。回復魔法を掛けますからこちらへ来てください」
「いや。もう何ともないから大丈夫だよ」
「ダメです。あなたはここで気絶していたんですよ?」
「う、ううむ……」
私は、彼女の圧に少し圧倒される。本当に大丈夫なんだが……。
私が困ったように頬を掻いていると、金髪の男性が楽しそうな声色で混ざってきた。
「まっ、これも何かの縁だ。素直に好意は受け取るといい。それで、キミが回復を受けている間、ついでに自己紹介タイムといこう」
「うん……。え?自己紹介?」
「おう。だって俺たち、お互い何も知らないだろ?」
「それはまぁ……」
というわけで、突然自己紹介タイムが始まった。
私はローブの少女に無理やり椅子に座らせられ、半ば強制的に回復魔法を掛けられている。
そんな中、言い出しっぺの金髪の男性が名乗りを上げる。
「まずは俺からだ。俺はこのパーティ“レイブンクロウ”のリーダー、グレイグだ。見ての通り盾役を担当している」
グレイグと名乗るヒュームの青年。
金髪緑目の男性で、ヒュームにしてはかなり筋肉質。背も高く、顔もいい。
背中には大きな盾が背負われており、これで仲間を護る。
「俺はジール。コイツを使って戦う。よろしくな!」
ターバンのような布を被ったサルエルパンツの男性ジールは、そう言って見慣れぬ二本の投擲武器を取り出した。
刃の付いたブーメラン。
人の顔くらいの大きさで、三枚に別れた羽根と真ん中に丸い穴が空いている。
「珍しい武器だね?」
「ここら辺じゃそうだろうな。これは俺のいた集落で使われていた武器だ。まっ、二刀流してるのは俺くらいなものだが」
ジールはそう言ってブーメランを腰のカバンにしまう。
彼の種族もおそらくヒュームだろう。褐色の肌とチラッと見える橙色の髪が特に印象的だ。
彼はサンクという砂漠の大陸の出身で、ブーメランは大陸西端の地域で使われている武器らしい。
「じゃあ、次は私だね?私はクリスタ。見ての通り武闘家さ」
そう言って彼女は、両手の拳をバン!とぶつけた。
薄緑の髪を後ろで一つに結び、黄色の瞳で猫のような鋭い目つきをしている。
ジール以上に軽装で、へそ出しタンクトップと胸元を支えるハーネスベルト。指ぬきガントレットに長ズボンとロングブーツという格好をしている。
彼女の種族はおそらくビスティ・キャッツ。
頭にネコミミが生えた種族で、人によっては尻尾もある。
彼女の場合、ケモミミに加えて尻尾まであるので、かなり獣の血が濃い人なんだなと思った。
「最後は私ですね。私の名前はクロム。癒し手を兼任した魔術師です」
そう言って私に回復魔法を掛けながら頭を下げるのは、フード付きのローブを着る少女。
頭には二本の角が、背中には蝙蝠のような羽を生やしている。髪の色は白紫で、私と同じのような尖った耳を持っていた。
彼女は“デビリム”という珍しい種族で、角や蝙蝠のような羽、彼女には無いが矢じりになった尻尾を持つのが特徴。
対となる種族に鳥のような翼を持つ“エンジェ”という種族がいる。
回復魔法を行使しているところから分かるように、彼女は癒し手を担当しているみたいだ。それに加えて魔術師も兼任しているとは……。
魔術師というのは、術式と呼ばれるものを使用して発動させる
一通り紹介を終えた四人は、私の方へ視線を向けて『ほら、あなたも』と目線で語りかけてきた。
私は、仕方ないなぁと密かに思いながらも彼らに倣って自己紹介する。
「……私の名前はアムアレーン。種族はフェアリア。よろしく」
そう言うと、彼らは一斉に驚いたような声を上げ、お互いの顔を見合わせた。
「フェアリアだって!?」
「それは、本当なのか……?」
そんな風に言う彼らに、私は背中からボロボロの羽を出現させる。
本当は見せたくなかったが、いちいち説明するのも面倒なので、手っ取り早く見せることにした。
「これが証拠」
「フェアリアの羽だ……」
「本当に実在したんだな……」
羽を見せたことで私がフェアリアだと分かり、四人は驚きを隠せないまま見つめてくる。そんな熱心に見ないでよ……。
「でも、随分とボロボロだね?」
「うん。気が付いたらこうなってた。機能不全を起こしているから、今は羽として使えない」
「治るの?」
「分からない」
せっかく回復魔法を掛けてもらっているのに傷が癒えている気がしない。
私は続けて、自分がどうしてここにいるのか記憶がないということも話した。
気を失う直前まで島にいたこと。何故か島ではなくここで目覚めたこと。島での最後の記憶は、幼馴染が島を襲った戦艦から放たれた魔力光線に飲み込まれたところ……。
ここで目覚めた時は、色々と混濁して忘れてしまっていたが、気絶して頭のリセットがされたのか、部分的に思い出せた。
私の話を聞いた彼らは「絶海の孤島も存在していたんだ」とさらに驚愕の表情を浮かべている。
「私は一刻も早く島に戻らないといけない。あなたたちは“ティタニア”が何処にあるか知らない?」
そう尋ねると、彼らは申し訳なさそうに互いの顔を見回した。
「すまん。そもそも、フェアリアが存在しているということ自体が初耳なんだ。俺たちにとってフェアリアは、お伽噺にだけ登場する架空の種族だったから」
「はい……。島の名が“ティタニア”だということも、今初めて知りました。場所の情報なんてとても……」
「そっか……」
私は情報が得られず残念だと思いながら羽をしまう。
そのお伽噺にも、周りには何も無い海が広がる絶海の孤島と説明されるだけで、場所の情報は何も書いていないらしい。
「まぁ、その……なんだ。これも星の導きってやつだ。俺たちにできることがあれば何でも協力するぜ」
「ありがとう」
「それに、飛空戦艦を持ち出したっていうところも気になるしな」
「ええ。そもそも飛空艇なんて貴重なものを動かす時点で普通ではありませんからね」
そんな風に言ってくれる彼らに、私の心は少し軽くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます