プロローグ-2 少女と少年

 朝、少女は身支度を整える。


 長い黒髪を結おうとし、そこにあるべき髪がないことに遅れて気付いた。

 そうだ、髪は切ってしまったのだ。

 現在、少女の髪は男の子のように短い。

 そのまま男物の服に身を包むと、少女は『少年』のように見えた。


 髪を切り、一人称を『私』から『ボク』に改めて、少女は自らの性別を偽る。

 全ては前の世界線で亡くなってしまった親友――『聖女』を救うためだ。

 彼女を助けるため、少女は過去に戻ってきたのである。


「行こう。チチュ、ソウ」


 少女は誰かに呼びかけて、しっかりとした足取りで部屋を出た。




 同時刻――。



 朝、少年は身支度を整える。


 身の回りの世話をする女官は遠ざけているため、彼一人で着替えを済ませる。

 この身体の秘密を誰にも知られるわけにはいかないからだ。

 銀色の真っすぐな長い髪、人形のように整った顔立ち。

 ドレスをまとったその姿は、どこからどう見ても『少女』にしか見えない。


 少年が名前を偽り、性別までも偽って、いったいどれくらいの時間が経過したか。

 全ては身代わりを務めるため、『聖女』を演じるためだ。

 少年は偽りの『聖女』となり、今日も国のため、民のために祈りを捧げる。


「……」


 いったい自分は何のために生まれてきたのか。そう疑問を抱きながら。

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