第3話 逆行:そしてゲンコツを食らう
目覚めると、ユイトはベッドの上にいた。
視界に入るのは見慣れた実家の天井だ。
屋根の勾配に合わせた斜めの天井と木の
「なんか……変な夢を見た気がする……」
ぼうっと窓の方を眺めていたユイトだったが、ベッドから起き上がると彼女はすぐに異変に気付いた。
なんだか、妙に目線が低い気がすると。
不審に思って自分の身体を調べれば、身長が確実に縮んでいる。手と足も小さい。ある程度あった胸のふくらみも全くなくなり、絶壁となっている。
「えっ?えっ?」
混乱するユイト。そんな彼女に、声を掛けるものがいた。
【よぉ、おはようさん】
己の左手からした声に、「ぎゃあっ!」とユイトは飛び上がった。
*
すっかり目を覚ましたユイトは、やっと意識が途切れる前の出来事を思い出した。
そうだ。自分は閉ざされた古代遺跡を見つけ、そこで摩訶不思議な奇石と契約したのだ。
ソウと名付けたその奇石は、ユイトの願いを何でも一つ叶えてくれると言い、彼女はあることを願った。
過去をやり直したい。今度こそ親友を助けるために。
そして、今に至る。
「体がどう見ても小さい……つまり、本当に過去に戻ったってこと?」
【ヒャハハハッ!どうだ?俺様の力は!スゲーだろう?】
「うん。すごい!本当にすごいよ、ソウ!!」
【もっと褒めたたえても良いんだぜ!ヒャハハ、まさか上手くいくとはな】
「……ん?」
今、とても聞き捨てならないことを耳にした気がするが、気のせいだろうか?
それはどういうことだ、とユイトはソウに尋ねてみた。
【ぶっつけ本番で上手くいくとは思わなかったからな】
「……それって。失敗していたら、どうなっていたの?」
【さぁ?ンなもん、俺様が知るか。滅茶苦茶な時代に飛んだかもしれないし、次元の狭間に呑まれて魂ごと消滅したかもしれないな】
「!!!」
サッーとユイトの顔から血の気が引いていく。まさか、自分がそんな危ない賭けをしたとは夢にも思わなかったのだ。
「そんなに危険だったの?どうして言ってくれなかったの!?」
【あぁ?だって、聞かれなかったし】
「……」
【まぁ、イイじゃねぇか。こうして上手くいったんだからよ。俺様ってば、やっぱり天才だな】
ソウに何かを頼むときは用心しなければ――そう心に決めたユイトだった。
それから彼女はハッとする。
「そう言えばチチュはっ!?」
慌てて己の右手を見れば、そこには白亜の宝石がきちんと埋まっていた。ユイトはホッと胸を撫でおろす。
何とか気持ちを落ち着かせて、ユイトは両手を眺めてみた。
右手には相棒のチチュ。
左手には新たに契約した問題児ソウ。
それぞれの奇石が手の甲に存在していた。
そして、どうやら若返ってしまったらしい自分の身体。
これは夢ではなく、本当に過去に戻ってきたのだ――ユイトは確信した。
つまり、親友を救うためのチャンスを本当に手に入れたのである。
次にユイトが気になったのは、いったい自分が何年前に戻ってきたか――ということだった。
親友が亡くなった災厄は、ユイトが17歳のときに起こったものである。そのタイムリミットまで、あとどれくらい時間があるのかが重要だった。
「身体の発育具合から十七歳というわけじゃなさそうだけれど」
【まな板だもんな】
「余計なお世話だよ」
とにもかくにも、ユイトは自分の正確な年齢を知りたかった。それを知るため、彼女はバタバタと足音を立てて階段を駆け下りる。
目的の人物は、ユイトの思った通り居間にいた。
記憶よりも少し若い彼女――祖母に声をかける。
「お祖母ちゃん!私って今、何さ――」
そう聞こうとしたユイトの頭に、祖母のゲンコツが振り落とされた。
「何なんですか?朝から騒がしい。それに寝間着のまま出て来るなんて、だらしないですよ」
ぴしゃりとユイトの祖母であるシイナが言う。
ゲンコツの痛みにうずくまるユイトを見て、ぼそりとソウが言った。
【なんだ。この鬼ババァ……こえー】
*
ちゃんと服を着替えてから、ユイトはもう一度祖母に尋ねた。
「お祖母ちゃん。私って今何歳?」
それを聞いて、祖母のシイナは不安そうな顔をする。
「ごめんなさい。強く叩きすぎてしまいましたか?打ち所が悪かったのかも……。まさか、自分の年齢まで分からなくなるなんて……」
「えっと、そうじゃなくて……まぁ、いいや。それで、今何歳なの?」
「
シイナの言葉を聞いて、ユイトはぐっと拳を握りしめた。
現在13歳ならば、災厄までにあと四年はあるという計算だ。これだけ時間があれば、災厄自体を未然に防ぐこともできるかもしれない。
――本当にあの子を助けられるかも!!
小躍りしたい気持ちで喜ぶユイト。それを
「
「あっ……」
さっそく、ユイトの左手の奇石ソウをシイナは見つけたらしい。
かく言う、シイナの右手の甲にも深い緑色の奇石が在った。
彼女もユイトと同じ奇石使いなのだ。そもそも、ユイトに奇石のいろはを教えたのはシイナである。
ユイトは改めて祖母を見た。
髪は見事な白髪だが、背筋はピンと伸びていて還暦を超えたとは思えない。
何かにつけ、鋭いシイナのことだ。ユイトが適当な嘘を吐いてもすぐに見破り、またゲンコツを降らせてくるだろう。
そもそも、シイナに事情を隠すメリットもない。
「お祖母ちゃん。すぐには信じてもらえないかもしれないけれど……」
ユイトは正直に、自分が過去に戻ってきたのだとシイナに話した。
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