いつかの夏の、最終日

CHOPI

いつかの夏の、最終日

 残暑、と言われている日差しがキツイ。夏が終わって暦の上では秋だなんて、絶対そんなのウソ。この暑さは夏。誰がなんて言おうと夏。

「あっち~……」

「止めろ、言うな。余計に暑くなる」

「……わりぃ……」


 例え、セミの鳴き声が遠くなっても。目の前をトンボが飛んでいく数が増えても。まだまだ、今は絶対に夏。


 制服の袖だって、どうせまだ暫くは短いままだ。っていうか、なんなら今は短い袖をさらに折ってる。でも、何したって暑いのには変わりない。隣で一緒に茹だっている友人は、真顔で冷ややかな表情を浮かべているものの、その額ににじむ汗が暑さを物語っている。


 夏休み最後の日。とはいえ、部活があったから、夏休みとはいえ学校へは普通に行っていた。明日からまた授業が再開される、それくらいの違いなはずなんだけど。意外と部活が違うやつとは会わなかったりするから、そういうやつにあった時に夏休みの長さを実感したりして。

「クラスの奴ら、元気かなー?」

「まぁ、元気だろ」

「会うの、久しぶりな気がする」

「約1カ月だからな、夏休み」

「だよなー……、なんか速攻終わった気するけど」

「ほんとそれ」


 どうせ夏休みが終わっても、部活終わりにコイツと二人、家路につくのは何も変わらない。強いて言うなら家路につく時間は少し変わるか。休日、オレらの部活動は基本午前の活動が多い。これから平常に戻ると当たり前に授業後の活動だから、こうやって日が高く昇る中、家路につくことは一気に減る。代わりに夕焼けや、大分薄暗くなった道を二人で帰る日々がまた増えるんだ。


「宿題、終わった?」

「……聞くな」

「明日、テストあるけど」

「……言うな」

 全く、コイツは。夏休み最終日に一番言ってはいけない事を知らんのか。こんだけ部活がハードな中、誰があんな鬼の量の課題をこなせるって言うんだよ、アホなのか。……いや、待て。いたわ、隣に。おんなじ部活のハード練習こなす中、ちゃんと課題も完璧なやつ。


「……ったく。この後少しなら付き合えるけど?」

「! ほんと!? さすが神様、仏様!!」

「ほんと調子いいよな、お前。そういうところ見習いたいわ」

「いやー、助かる! マジで感謝!」

「お前が補修になると、俺まで巻き込まれるからな」


 呆れた目でこっちを見ながら、それでもほんの少しだけ口元に笑いを浮かべるコイツを見るのはこれで何度目だろうか。不意に、この瞬間の出来事もいつかの思い出になる、そんなことが頭をよぎって、だけど泡のように一瞬でパチンと弾けて消えとんだ。

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