第360話 戦いの行方
鈴の音が、響く。
広がった歌声に、その目が見開かれた。
男性のやわらかな
「わが手に宿れ
手元にあるのは、白銀の法杖だ。物理攻撃力など、金属的な意味合いしか存在しない。それでも……まだ、この身体だって、生きている。
見上げる先は、
柊子もまた、駆け出した。
振り下ろした剣は、聖鳥を傷つけた。魔剣ローレアニムスはそのHPを奪い、
「
踏み込む。長剣を水平に突き込む。身体をひねる。右上から左下へと斜めがけ――。
記憶にしかないはずの動きを、身体がなぞる。
苦しまぎれに、聖鳥は頭を振る。その瞳が赤くきらめいた。青い影が、皓星の視界を奪う。
【主よ!】
「――満たせ、
水の雫が天より落ちる。その一滴の中に、彼女はいた。麗しい人魚は満面の笑みを浮かべ、両手を広げた。波濤が起こる。その水は、
青を体現していた彼女が、砕け散る。その腕を、真尋はつかんで引き寄せた。
開かれた視界の向こうで、
聖鳥が羽ばたく。片足を失い、全力で空へと戻ろうとしている。風が巻き起こる中、地狼はその喉笛へと食らいつく。鋭い牙はたがわず肉を食いちぎった。黒い靄が上空で彼に戻る。
「
聖鳥の体躯に対して、その陣は余りにも小さい。それでも、確かに闇の呪縛を放つ。空を求めていた聖鳥は、己の首が動かないまま、更に羽ばたいた。
「――
そして、声も高らかに、彼女の炎は放たれた。真白の炎は、聖鳥の頭部を呑み込み……絶鳴すら許さず、燃やし尽くす。
そして、その巨体が、砕け散る。
ホールが揺れた。割れんばかりの歓声と拍手が、響き渡る。そのあまりの大きさに、結名は身をふるわせた。MPの不足のため、自動的に不死鳥幼生との融合召喚が解除される。朱金の鳥は羽ばたき、己の主の肩でその身を寛がせた。地狼はすっかり埃っぽくなってしまった毛並みのまま、彼女の足元に座り込む。
不死伯爵は床に膝をついたまま、大きく息を吐いていた。そのかたわらに、骸骨執事が姿を現す。カタカタと、しゃれこうべが鳴った。
そして、彼女たちも目覚める。HPが1のまま動きを止めていた
――Congratulations, you defeated the boss.
Everyone is MVP.
The MVP is given honor.
Bless to all.
視界へ流れる
それに気づいて、奏多は双子姫と微笑み合う日和へと、問いかけた。
「ねえ、あれってさ」
「……さあ、訳してみましょうか」
「いや、まあ、意味はわかる気がするんだよ? 一応! 答え合わせしたいだけっていうか!」
「本当ですか?」
それを聞き、拓海が吹き出す。次いで、奏多へと解答を伝えた。
「あれはですね……」
あの側近が、勝者を告げる。
エンディングロールのような光景に、柊子は目を離せなかった。真尋はつかんだままの腕と、つかまれたままの腕をどうするべきかとその横顔を見ながら真面目に考えていた。
となりで、深々と颯一郎は息をつく。
「ほんと、きみはムチャするよね」
そのことばに、柊子はつかんでいたものを離した。すがるような感触が失われ、真尋もまた手放す。
「爆弾魔と放火魔には、負けると思うけど?」
「どっちもどっちだろ」
「どっちもどっちですよ」
無意味に胸を張る柊子に、あきれかえって真尋は返す。そこに重なるように、
皓星は座り込み、アリーナをながめていた。ほぼそこは中心で、側近や召喚術師の動きも、
ゆっくりと、呼吸が落ちつき始める。体は腕の付け根や関節、足の付け根やらと、妙なところが痛い。変な動きを繰り返したせいだろう。今から筋肉痛のようでは明日はどうなるのか。
向こうで、結名が不死伯爵のところへ駆け寄っている。双子姫が日和にすがりついていた。
視線を動かして、気付いた。
カウントは、「0:02」で止まっていた。
よく撃破できたものだ。
「よっ、と」
膝を立て、気合いを入れる。未だに手の中には黒き魔剣がある。
持ち主へ、返さなければ。
その時。
すべての光源が、落ちた。
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