第359話 目覚めたらきっと
「……かぁさま……っ」
「かーさまぁ……」
座り込んだ双子姫は、見えない雫をいくつも零しているようだった。
愛娘たちの破壊を恐れた母は、己を盾にして娘を守った。そして、
「な、どうしたの!?」
奏多の問いかけにも、柊子は肩をすくめるより他なかった。彼のことばも、今は双子姫には届かない。そのようすを見て、奏多は日和のとなりへと膝を立て腰を落とした。母恋しさに泣く双子姫の声音に、眉間にしわが寄る。
「だよなあ……」
「エスタさん、彼女たちに……ことばを、届けましょう」
沈思していた拓海は、日和にうながした。その意味を計りかね、彼女は拓海を見返す。柊子へと顔を向け、拓海は願い出た。
「姐さん、エスタさんのことばを繰り返して下さい。お母さんのことばなら……きっと届くと思うんです」
今また、ひとつの命が散った。
この場で巡り合ったのは、ただ哀しみを生み出したかったわけではない。
拓海のことばにうなずき、日和はことばを選び、口を開いた。
「大切な、大切な私の娘たち」
一音一音、彼女の音を大切に、
その物言いに、双子姫は目をみはった。
「おぼえていますか? たとえわたくしがいなくても、あなたたちには成すべきことがある……姉妹で手を取り合って、わたくしが戻るまでともに過ごしていて下さいとお願いしましたよね」
「――アシュア?」
「アシュア、じゃない……?」
困惑した二対のまなざしが
神官は微笑んだ。
「夢から覚めた時、必ずあなたたちを抱きしめます。どれほどの苦難があろうとも、わたくしはあなたたちのそばにいつだって戻りましょう。
ですから、今は、泣かないで。
何よりもそれが、母にはとてもつらいこと……母はずっと、あなたたちを見ていますからね。
――エスタから、ふたりへ。伝言ですって」
そのことばを言い終えると、金と銀の双眸はぱちぱちと瞬いた。
次いで、双子姫は互いの顔を見合わせる。
「オルトゥス」
「ルーキス」
その名を呼び合い、ふたりは顔を崩した。笑うのに、失敗した顔である。
手に今一度
「かぁさまに……褒めていただくのです」
「はい、かーさまは褒めて下さいます!」
そのまなざしは、まっすぐ敵である
地狼の身体が消えていく。融け合うステータス表示に、アルタクスの名が刻まれた。
その間に、暴れまわっていた
視界の端に、双子姫が映った。まっすぐ聖鳥へと駆けていく姿に、
『
それは、パーティーメンバーすべての耳元に届いた。
カウントダウンは止まらない。時間は既に、一分を切ろうとしている。
結名もまた、走った。
白い壁が消え失せる。ルーキスの
「
間に合わない。
悟った瞬間、結名は手首からガードを抜き、
行動パターンが変わる。
「来たれ
その声音に合わせて防衛神術が発動し、同時に
「――
残る全MPを費やし、彼は叫んだ。
紅蓮の魔術師を中心に咲いた紅の華に、撃ち込まれた爆矢も反応する。瞬時に散る閃華は、爆風を巻き起こした。凄まじい爆音に、会場までも揺れる。
そして、また、光が散った。
未だにやまない風と煙の中、
「まだ、生きてるの……!?」
最大の
真尋は小さく舌打ちをした。高火力のために、聖鳥は硬直している。その視線が、不意に落ちた。強い風と煙のエフェクトの中、未だ聖鳥の体内に残る皓星へと、手を伸ばす。
「って……ぇ」
「だいじょうぶか?」
「あー、うん」
「素通りってつらいよね」
大人ふたりによって引かれると、男子大学生など軽いものだ。しかし、その行動によって、ふたりの視界に注意事項が表示された。
――GAMEOVER! プレイヤーに接触せず、アリーナ外周へ退去して下さい。
そうだ。
まだ、彼も生きている。あの巨大な爆発は、聖鳥の中にあったからこそ、剣士の身体に傷をつけずに済んでいた。
その事実に気づき、途端に、ふたりの手は離された。ぐらりと、その身体が揺れるが、何とか倒れずに済んだ。皓星の手には、未だに黒い魔剣がその輝きを失っていない。
「斬れ!」
「アーシュ、回復!」
ふたりの声音が、アリーナに響いた。
「わが手に宿れ
二人分のHPが、
耳元で、彼がつぶやいた。
【ユーナ、解除して】
「だって……」
今、解除してしまえば。
互いのHPはほとんど赤になってしまうだろう。ぎりぎり残った命なのだ。それが。
結名も耳元で聞こえる声は、少しもくぐもっていなかった。迷いもなかった。結名の迷いを打ち消すように、アルタクスは言う。
【まだ、戦えるから。
おれも、アークエルドも、アデライールもだ!】
HPバーは不死伯爵の瀕死を伝える。それでも、爆風を避けてまた黒の靄は聖鳥にからまっていた。彼も戦っている。ずっと、ずっと。
決してあきらめないと伝える強いことばに
【ほら】
【うむ、我らに敗北など許されぬ。行くぞ、我が主よ!】
「アデラ……!」
そして、そのことばのとおりに、結名はもうひとりの
「
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