第356話 あなたの剣、わたしの剣
魔術具が、形を変える。
魔剣ローレアニムスは青白い手の中で、黒光りする刀身を晒した。
かつての融合召喚の折と異なるのは、プレイヤーである結名に調整が施されているからだろう。
本来、
視界の表示が己の役目を告げる。「融合召喚中:アークエルド」の文字と、二人分を繋ぎ合わせた長いステータスバーが背中を押す。更に、見覚えのないスキル・アイコンまでが映し出された。彼のものだ。
己の主の迷いを晴らすべく、耳元で低い声音が救いを差し伸べる。
【よろしければ、
「任せちゃってもいい?」
【もちろん】
歓迎のことばは彼自身を満たしたことを示し、
「では、僭越ながら……先鋒を務めましょう」
踵を返した彼の向こうから、奏多がやってくるのが見えた。
ホルドルディールは身体の向きを変えつつ、その尾を振るう。
「――印象違いすぎ」
「あんまり言わないで……あーもう、鏡ほしいかも!」
「
かつて、風の盾士を守るために発動されたそれが、今また再構築される。
動きを封じ、命を奪う闇の冥術陣の広がりを見ながら、
『矢なら、持っていけるからな』
『それなら、こんなのもどうですか?』
病に倒れた彼に、夜食を持ち込むのではなく、矢を差し入れるというとんでもないメンバーはひとりではなかった。
「――
その一矢は、彼一人だけのものではない。
長弓用に作られた
この一手は、何としても弓手として外すわけにはいかなかった。
視界に浮かんだ
「
「
「
「
双子姫が抉った場所を狙い、
しかし、命を縛る冥術陣の上で、ホルドルディールは身じろぎをした。それはほんの少し、腕を振ったようにしか、見えなかった。その一振りが、近接戦を挑んでいた三人へとダメージとして襲い掛かる。
「ユーナちゃん……!」
暴走が、始まる。
フィールドに立ち尽くす結名の周囲を、土の防御壁が覆う。地狼の咆哮に、
「わが祈り天に満ちよ
白の神術陣が天上に描かれる。それは光の粒となり、
彼女に見えたのは、そこまでだった。視界に人影が入り、見えない。その重鎧と、ホルドルディールのグラフィックが重なった。目の前で金属音が交錯する。ホルドルディールはまるで拓海を掠めるように、逸れていった。柊子は手を伸ばす。
「わが手に宿れ
触れた背に、回復神術を放つ。濃い橙に染まったHPバーが緑にまで癒された時、振り向いた拓海がその手を取った。
「姐さん、私にはもう回復は結構ですから」
「――何言ってるの?」
問い返す柊子の後方で、衝突が起こった。
音と土煙とが、背後から巻き起こる。しかし、風は感じない。
「エスタ!」
目を見開き呆然と立つ日和の足元に、双子姫が横たわっていた。アリーナの壁へと激突したホルドルディールは、対角線上へと跳ね返っていく。背後に魔術師を控えさせた
「――
その一撃は、確かに、ホルドルディールを停めた。
そして同時に、彼の長剣を打ち砕く。舞う金属片に、小さく皓星は舌打ちした。交錯する一瞬に鱗甲板の隙間を狙う、といった芸当ができなかったのである。
しかし、その間でじゅうぶんだった。
「
土の防御から解き放たれた結名が、銀色の髪を振り乱し暗黒の刃を振るう。それは、残された命の赤を屠り、ホルドルディールを冥界へと叩き込んだ。
光が、舞う。
ホールをふるわすほどの歓声が響く中、召喚術師が消えていく。
柊子は衝撃に未だ動けずにいる双子姫のもとへと駆け寄った。触れることができないために、日和もまたふたりのそばで膝をつき、その魔力を耐久度へと必死で変換している。
その日和へと、柊子は手を伸ばした。何とかHPバーは橙で止まっている。それは、双子姫の護りによるものだとわかった。にもかかわらず、
「もう、回復は不要ですよ。次で終わりですから……よくもちました」
MP《リソース》は限られている。癒し手は
拓海は
戦闘は本職ではない。四戦目を乗り越えられた以上、自分たちはもはや、優先順位の末席にも並ばないのだと。
「最後まで、戦いをあきらめる気はありませんから」
拓海のことばを受けてもなお、ふたりの意見を受け入れられず……柊子は項垂れる。
そして、最後の
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