第350話 力比べ
召喚陣がアリーナへと描かれる。現れたのは、緑色の大蜥蜴だった。体長は
「悪いけど、こんなので時間潰しされるわけにはいかないんだよね」
「――
おしゃべりをする気がないのは好印象である。ヴィーゾフは
まったく同じ大蜥蜴が三匹同時に沸き、奏多を取り囲んだ。口を開く動作を目にし、彼は軽く高みへと跳躍する。その表情が、おどろきに彩られた。
「来たれ
飛び出した舌が奏多を襲う。しかし、
そして、黒の疾風が駆け抜けた。彼の正面にあった大蜥蜴はその牙に屠られ、風に消える。駆け込んだ
「――ここは
「あー……鍛えてたつもりなんだけどなー」
体勢を整える剣士に指摘を受け、奏多はがっくりと頭を下げた。思ったよりも高さが出なかったのは、まさにそれが理由だった。日々のダンス系鍛錬では、
「なるほど、歴戦の勇士も夢の中では不慣れか」
からかうような
ふよん、とした透明な水分の塊が出現し、彼らの表情から笑みが消えた。
「避けろよ。――
紅蓮の魔術師の声に応え、射線から三人は退く。地狼はすでに主のそばに戻り、巨大な火球に合わせて動く表情を見つめていた。
彼の中には最初から敵に対する情けも容赦も存在しないが、今回は
「
宙に描かれる召喚陣から、かつて
しかし、魔鳥にとって最悪の相手がこの場にはいた。
「――
光学迷彩から己を解き放った
「ファーラスの名が泣くよ?」
しかし、その声に応える者はいなかった。
ヴィーゾフが膝をつく。しかし、それでも術杖をかまえて、彼は最後の力を振り絞り、叫んだ。
「――
最大の召喚陣が描かれる。双頭の魔獣が、上半身を顕した時点で大きく吠えた。その声は獣と、爬虫類のもの両方が混ざっていた。血走った赤い四つの目、うねる鬣と尾の一本一本が細い蛇であり、意思を持って蠢いている。
その瞬間、彼は動いた。
自身の身体よりも大きな
じわり、とHPバーが削れる。状態異常に刻まれた文字は「毒」だった。
「下がれ、シャンレン!」
「――はい!」
追撃を迷うことは許されなかった。
軽く戦斧を振り、起き上がろうとするオルトロスの動きを牽制するのが精一杯だ。そうして下がる
前へ出ようとする皓星や奏多を追い越したのは、双子姫だった。
そして、押さえ込んだ頭を、闇の剣が刈り取るべく刺し貫く。
「あくどいわね」
瞬く間に減少していく数値に眉をひそめ、
「――血を巡る忌まわしき闇よ、わが手によって
祈りのことばは正しく発動した。毒表示が消え、数値の減少に歯止めをかける。だが、足りない。続けざまに彼女は
「わが手に宿れ、
黄色に染まっていたステータスバーを、一気に緑にまで戻す。体自体は何事も感じないにもかかわらず、ステータスが死に近づくさまを見て拓海はため息をついた。
「これは、危ないですね」
「痛くないから、どこまでも動けちゃうものね」
見た目は全身鎧だが、触れた感触はただの服だ。
傷跡ひとつ残らないようすに安堵し、柊子はその腕を撫でてポンと叩いた。まるで「いってらっしゃい」と背中を押されるような感覚に、
人のものではない絶叫が上がる。
オルトロスへと、彼女の視線が向く。その漆黒の髪が舞った。
「――気をつけます」
視界に降りた一筋に触れながら、そっと手放す。
再び
そして。
魔獣オルトロスは砕け散る。
一分。
たったそれだけの時間で、連続して葬られていく召喚獣の姿に、会場が沸いた。
側近の腕が上がる。
「そこまでだ! ――次!」
そして、新たなる術者の登場に……結名は目をみはった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます