第347話 ブリーフィング
スクリーンに映し出される、
やはり気になるのは、
そして、職業は。
――双剣士?
ここには外見だけ
今回は
そこで、ふと首を傾げた。
パッと見、スノーゴーグルと、やや長めのペンライトだった。その代わりに、タブレットが回収された。
「え、まだ確認が終わってないんですけど」
思わず口にすると、今井ディレクターがにこやかにスノーゴーグルを持ち上げた。
「
そして、今井ディレクター本人も、スノーゴーグル……ではなく、ガーファスを掛ける。スノーゴーグルほども大きさがあるために、眼鏡をかけている皓星も問題なくそのまま装着できるようだ。結名もウィッグがずれないようにと気をつけながら、掛けた。
息を呑む。
そこに広がっていた光景は、先ほどまで見えていた控室でありながら……一気にVR感が増したように感じた。座っている面々の服装が、一様にスクリーンに映し出されたものに切り替わっていたのである。結名もやや夏向けのアルカロット産に似た服装ではなく、長袖のエスタトゥーア謹製の
しかも、視界の中に見えているアイコンは、
「ごらんいただいている世界が、MR……ミクスト・リアリティと呼ばれるものです」
今井ディレクターは静かにそう語り、先ほど配布されたペンライトを手にした。
「
起動の
「こちらの魔術具では、このように皆さんの武器を装備できます。あとでもう一度、全員で一斉に装備してもらいますので、今はちょっと我慢して下さいね」
そして、彼は自らのてのひらへ、その槍の穂先を突き立てた。
小さい悲鳴が上がる。それは、いつのまにか
「あ、痛くもかゆくもありませんよ? ここは
ドゥジオン・エレイムでは、この、実体ではない武器を手に、戦ってもらいます。
物理に関しては当てたらいいと考えていただければ結構ですが、お持ちになったらわかりますよね? ホントこれ、軽いんですよ。だから、いつもの動きをしようとするとたいへんです。
鍔迫り合いとか、刃を合わせるとか、槍を突き立てたまま敵を振り回すとかまったくできないので、ご注意下さいね!
ステータスが実体に影響を及ぼすことはないので、動きも各段にちがいます。
あと、これよりややこしいのが魔術系ですね」
音楽系はもっと甘く、先にスキルを選択し、演奏系は楽器に手を添えて適当に動かしていても最高の結果が得られるという。歌のほうはもう少しシビアで、ガーファスのマイクが拾い上げた結果が反映されるそうだ。
「攻撃系は問題ないとしても、バフ、デバフ系が普段と大違いになります」
繰り返すが、ドゥジオン・エレイムは現実世界で行なわれている。よって、数値的な上下はあれど、プレイヤーの体感には何も影響を及ぼさない。例えば、反応速度を上昇するような
「あと、神術ですね。これは法杖を掲げて
「……まるっきりコマンド入力じゃないのよ……」
ぼそっとつぶやく
次いで、今井ディレクターは
「という今までのお話でおわかりだと思いますが、
「……はい……」
肩を落としながら、
「あのさ。こういう説明、毎回してんの?」
ふと皓星がたずねた。今井ディレクターは大きくうなずく。
「もちろんです。私ではなく、各控室の担当者がパーティー内容に応じて行なってですが。もっとも、今回はちょっとタブレットのチェックがゆるいようでしたので、多少サービスしているかもしれませんね」
実際は物販に走ったせいでゆっくりと前もってタブレットを熟読する余裕がなかっただけなのだが。
都合が悪いことは綺麗にスルーして、皓星は「なるほどな」とつぶやき、UI《ユーザー・インターフェース》を触り始めた。その手があちこち動いているのを見て、結名も同じようにウィンドウを操作してみる。やはり、
今井ディレクターは
「ドゥジオン・エレイムは、10分という制限時間のあいだにどれだけ
「昨日、一パーティーが時間ギリギリで全勝を達成したので、撃破できないということはないからね!」
一勝するごとに、
誇らしげに
「では、最後にですね」
今井ディレクターは槍を逆手に握り、自身へと突き立てた。その身体が、光となって砕け散る。途端に彼の名前は黒に染まり、槍は消えて魔術具に戻った。
それでも、今井ディレクター自身はもちろん、立ったままだ。今死亡したのは、あくまで
「これが、ドゥジオン・エレイムにおける『
システムの特性上、MPが
「以上で、説明は終わりです。あらためて、皆さんにおたずねいたします」
彼の指先が、宙を舞う。
同時に、結名の視界へと確認ウィンドウが開いた。
整理券の配布を受けた際にもたずねられた、アトラクションの利用基準の一覧。そして、最終確認である。
『あなたは、以上の注意事項を了承し、ドゥジオン・エレイムに参加しますか?
はい いいえ』
はい、を選ぶと、スクリーンに表示されたユーナの画像に光が灯った。
9つの光が、宿る。
満足げに今井ディレクターはうなずき、両手を広げた。
「では、皆さん、お立ち下さい」
「よし、ではさっそく武器を持ち、戦闘準備と行こうか」
「では、私といっしょに――
『
起動の
そして、
見回すと、誰もが自身の
これから始まる戦いに胸を高鳴らせつつ、
だが、なぜか。
名次奏多の手には、見慣れた一対の短剣――シンクエディアがにぎられていたのである。
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