第345話 戦う前に
「ほら、貸せよ」
「ん、ありがと」
森狼のぬいぐるみとストラップ入り紙バッグは、速やかに皓星の手へと預けられた。重さはそれほどでもないのだが、かさばるので助かる。その本人は当初から掛けているボディバッグのみで、紙バッグは持っていない。あまりの意外さに、結名はおどろいた。
「……何も買わなかったの?」
「ここからなら全アイテム通販できるんだって。クレジット払いの自宅配送にしといた」
その指先が示すのは、物販に貼られたポスターだった。QRコードとGPSによる認証により、ゲームショウのみのサービスだという。クレジットカードを所有していない高校生には不可能な手段だ。
「大人ってズルい」
「まだ成人してないけどな」
「え、そうなんだ?」
頬をふくらませる結名に皓星が突っ込んでいると、おどろいたように
「夏生まれだから、まだ十八。一応、未成年者」
「ああ、だからシリウスなのか」
納得している
「よくそれでわかりますね」
「アーシュが冬生まれなのと同じ理屈だからな」
言われてみるとそうかもしれないが、古代エジプトの暦など、あまり知るひとはいない気がする。
「何で教えてくれなかったんですか、シリウス!」
「気づいてるかと……」
両手にがっつりぬいぐるみ全種類を買い込んだ
「シャンレンさん、何買ったんですか?」
「実は、マグネット集めが趣味でして。冷蔵庫に貼りつけようかと。あとは、母へのお土産ですね」
親子二代に渡る趣味で、既に冷蔵庫の裏面以外貼りまくっていることはさすがに言わない。
ちらっと見えている魔蟻の足スナックから、
既に
闘技場控室と書かれた入り口の前には、また
そこでは、参加者らしき人たちが手にタブレットを持ち、待機しているようだった。幻界のロゴの入ったタブレットで、思わずその背に目を凝らす。
次いで
控室内の、いわば待合室のような形らしく、そこにはまた受付があった。
リストバンドの照合を受けると、一人に一台タブレットが手渡される。そこには何と、職業ごとの戦闘に関する注意事項が表示されていた。
「皆さまはそのまま、控室Aにお進み下さい。そちらで詳しい説明を行います」
やや焦っているようすの受付嬢のことばに、全員がタブレットを持ったまま移動する。歩きタブレットになりそうで怖い。結名はタブレットを胸に抱くように持った。
「ようこそ、
元気溌剌としたあいさつが、控室へ入ったとたん、響き渡った。
闘技場の控室と言えば、以前案内してくれた相手は衛兵隊長である。任務であると顔に書いてあるような男性だったので、少しも愛想などなかった。その落差におどろいてしまう。
「それでは、皆さまにドゥジオン・エレイムについて説明をさせていただきますね!
すぐに準備いたしますので、まずはこちらのお席に、ご自由にお座り下さい!」
スクリーンが設置された前には、あの控室と同じ机と椅子があった。10人が座れるように配置されており、違和感をおぼえる。一パーティーが10人の区切りなら、整理券番号9と10の参加者はどこだろうか。
気になりながらも、
でかでかと
画像の下には、案内文が入っていた。
――
3体しかいないので、既に選択済みになっている。
うれしさに顔がにやけ、
決定をタップし、次項を読む。
「ちょ、ちょっと!」
となりに座った
そこには、見覚えのある男の子が、
うすい色合いの茶髪に、拓海とはまたちがう、カッコイイというよりもどこか女性的な綺麗さを感じる容貌。すらっとした体つきにぴったりとした目立つ赤と黒と白の……人のことは言えないが胸元が開きすぎな、普通ではない服。そこでコスプレかなとぼんやりながめていると、
「
その固有名詞と待機列で見たポスター、さらにすぐそこにある実物が、重なる。
結名は大きくその目を見開いた。そして、
さすが
「ねえ……」
小さく
「うぉっほんっ!」
わざとらしい咳払いが響く。すっかり視界から除外していたが、恰幅の良い衛兵隊長姿の中年男性が、衛兵の反対側に立っていた。父と似たようなスタッフ証を首から下げているところが、コンパニオンとは異なる。そのとなりには恥ずかしげな女性衛兵がふたり立っていた。片方は手にスマホを持ち、もう片方はメモ帳とペンを持っていた。正直、コンパニオンには見えない。
「マズいな」
「――あらためて、ドゥジオン・エレイムへようこそ! クラン『
そのことばに顔色を変え、遂に皓星が席を立つべく腰を上げ……る前に。
「ちょっと待ってくれませんか?」
完全に目を据わらせた
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