第344話 そばにいるよ
鏡のように向き合う自分は、ユーナであってユーナではなかった。
ユーナの成長した姿、と言えたらよかった。だが、どちらかというと、結名が大きくなってユーナになろうとした姿、に見えた。
ユーナの姿かたちは、かつての自分を模したものだった。あれほど工夫してサイズを測ってくれたエスタトゥーアの努力は実を結び、短時間でありながらすばらしい衣装となってここにある。成長しているということばにサイズを少し大きめに製作されたにもかかわらず、やや胸元を強調する形になってしまったのは、たぶん日頃の美味しい食事と、伯母から提供されることが増えたスイーツのせいだと主張したい。
あのころの自分であったら、どうだろう。
この衣装がもっと似合うような、自分だっただろうか。
中学時代の自分に戻りたいなんて思っていない。部活に翻弄されたり、価値観がちがう友人たちと適当に話を合わせたり、最後の一年はひたすら受験一色で、けじめをつけながら勉強の合間にゲームに走っても、我に帰るとつらかった。それでもやめられなかったのは言うまでもないが。
目の色も、髪の長さも、身体の線も。
印象だけがやけにユーナを残していて、現実の自分を無理に彼女へ当てはめたような感覚が否めなかった。
そんな「わたし」のそばに、あの子たちはいた。立ち止まった「わたし」を囲んで、その顔をのぞきこんでいる。
「わー、アルタクス!」
「カードル伯、こっち見えてるのかしら?」
「アデライール、その姿でだいじょうぶなのか……?」
歓声を上げる
そして、仮面をつけた
アデライールが、肩にとまる。その美しい朱金の羽へと、手を伸ばそうとすると……彼女は不思議そうに首を傾げた。
そうか、鏡だ。
スクリーンではなく、自分の肩へと手を持っていく。それに応えるように、アデライールは翼をふるわせた。伸ばした首が、まるで触れるように動く。
動かないユーナの後ろで、アルタクスが欠伸をして、背を伸ばす。その尻尾がふわりと、ユーナの身体を撫でていく。いつもの、もう癖のように感じる動きなのに、ひとつも感じられないのが寂しかった。
「こうやって見ていると」
大きな斧を担いだ
「見えてないだけで、いつもそばにいるみたいですね」
そう言って微笑む彼は、腹黒商人ではなく、普通の高校生のようだった。
そのことばの通りならいいのに、と思いながら、
「たぶんそうだよ。特にアルタクスなんて、ごはんって呼ばないと来ないからね。ユーナがログアウトしてるあいだは、必ず誰かがそばにいるんじゃないかな」
弓を肩に掛けた
「ルーキス……オルトゥス?」
「あら……まあ、これは……」
身長がいきなり縮んだ
今は見上げなければならない彼女たちを連れて、
「……うれしいですね」
「――はい!」
「ここにいるなら、
思いがけない再会に喜ぶふたりへと、
白銀の法杖がその手で輝く。
その頼もしさに背中を押され、
――まぼろしの中で、生きよう。
スクリーンの中にいる自分たちも、ここを歩いている自分たちも、まぼろしのように儚いものだろう。
それでも、確かに生きていると。
一歩進むごとに高鳴る胸の鼓動を感じながら、
よりにもよって、どうしてコレが。
誰もがそう意識した巨大な魔物が、その空間のどまんなかに鎮座していた。周囲にはポールとチェーンがあり、撮影〇の看板とともに近寄らないでとアピールしている。
「まあ……今のところ普通に印象深くて強かったボスって言えば、そうだよな……」
見た目では
さりげなく真尋はスマホでホルドルディールを撮影しつつ、その背後に目をやった。
「
結名にはまったく見覚えのない空間が、その後ろに広がっていた。
どことなく受付がずらりと並ぶあたりはギルド案内所の雰囲気を持っていたが、立っている
ここで賭け札を購入できると知り、さっそく受付に並んだ。まだガラガラなので、横並びである。
が、リストバンドで最初に
「ドゥジオン・エレイム整理券番号1から8のお客様には、到着次第できるだけ早く闘技場控室へおいでいただけるようお願いしたいと、
同音異口に伝えられた内容に、少し迷いながらも記念に全員が自分の回の賭け札を購入した。手に札を持ったまま、
「まだ……かなり、早いですよね?」
「開場が早まった分、早く始めたいってことだよね」
「空いてるうちに、物販とかは買っといたほうが楽だけどなあ」
まだ、予定の集合時間よりは40分以上早かった。
迷ったのは一瞬だった。
「とっとと買って、早く行こう」
このメーカーには
「えええっ、これ、おやつ!?」
「買うの迷うわー……」
げんなりとした
「ユーナさん、これこれ!」
他にも
Tシャツやステッカー、ラバーマグネットやメモ帳などの定番商品から、各種ギルドのエンブレムのアクリルキーホルダーや缶バッジもあった。女の子のキャラもの扱いらしく、王女や、アンファングの大神殿にいた女神官のものもある。
周囲に少し人が増えてきたころ、スマホがうごめいた。
「さすがにそろそろ行く? ホルドルディール裏集合で!」
とりあえず、アトラクションが終わったら、一度車に荷物を置きに戻ったほうがよさそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます