第339話 ほっと一息
紙に印刷されたように見えたが、左手首に巻かれた感触は紙ではなくとてもやわらかかった。数字やバーコード、QRコードなどが印字され、もちろん、「皇海ゲームショウ」と年号のロゴも入っている。貼り合わされたリストバンドに触れていると、
「これなら失くさないんだろうけど、そのかっこうにはちょっと合わないな」
「レイヤー泣かせですね」
苦笑しながら、
「エスタさんは、いつもその……コスプレしてるんですか?」
「普段はもっと質がいいものを作っていますからね! 今回は本当に時間がなくて……これが実力とか思わないでいただきたいです」
それは回答だけど解答じゃないよね、と内心
「招待券のお客様用の控室はあちらです。開場まで今しばらくお待ち下さい」
受付嬢はひとりひとりにリストバンドをつけたあと、ゲームショウのロゴの入った袋を手渡した。中にはゲームショウの案内が入っている。次いで、控室のほうへ全員で向かう――と、中にはかなりの人数が列を成していた。とは言え、結名的に見ても一クラス分、と言ったところである。控室というよりも、実際には招待客用の待機列の隠し場所という表現のほうが正しい気もする。但し、待遇が一般入場とは大違いである。屋内であることと、もう一つ、室内にドリンクバーが設置されていることだ。誰もが飲み放題を堪能しているようで、手に紙コップを持っている。
気持ちとしては早く並びたいのだが、その利点があまりないのが実情だった。迷わずドリンクバーへ向かう
「招待チケットって待遇いいわね……」
しみじみとそのラインナップをながめる。おそらくは超お得意様への特別待遇を見越してなのだろうが、実際に並んでいる面々を見ると、家族横流し組がほとんどのような気がするほどのラフさだ。
「エスプレッソメーカーまで置いてありますよ。あ、カフェラテでよければ淹れましょうか?」
「え、じゃあホットでお願いしようかしら」
カフェオレ大好きな
「はい。ユーナさんもよろしければ」
「お……シャンレンさん、おまかせしちゃっていいんですか?」
「もちろんです」
「わたしもホットのカフェラテで!」
まさかここで
「へえ、すごいね」
感嘆の声を上げる
「皆さまの分もお淹れしますよ? えっと、シリウスさんはエスプレッソでいいですか?」
「うーん、ここあったかいからなあ。アイスコーヒーがいいな」
「僕はエスプレッソで!」
「少々お待ちを」
マシンに紙コップをセットしつつ、紙コップに氷を入れていく。そのあいだに、たっぷりのフォームミルクが入ったカフェラテを
大きなハートの出来上がりである。
「――!」
「ラテアート! かわいーっ!」
「はい、ユーナさんにもどうぞ」
同じようにカフェラテを
「シャンレンさん、わたし……お砂糖ないとつらいかも……」
「ですよねー」
苦笑して
「わたくしはカフェモカをいただけますか?」
「はい」
「くっ、ハートは無理ですよね……」
「チョコで何か描いてみますね」
「まぁ♪」
「あたしは紅茶にしますけど……師匠はどうします? シャンレンさんに淹れてもらいます?」
「そうだな。せっかくだから、エスプレッソをひとつ」
「かしこまりました」
「それ、カラコン?」
「うん、使い捨てなんだって」
「雰囲気出てるじゃん」
「っていうか、そっくりだよね?」
エスプレッソを淹れてもらった
「飲まないの?」
「熱いのニガテなのよ。でも、身体冷えてたし……」
眉をハの字にして、ほんの少しだけ、
「替えようか?」
「ううん、そのうち冷めるでしょ」
「さっきよりも、ちゃんとユーナに見えるね」
「まあ……コスプレだしな」
髪の色も瞳の色も、顔つきの印象でさえも。
「初めて見た時は、どこのNPCかと思ったよ。シリウスの妹じゃないんだよね?」
その時、
「――ああ、親戚」
「えと、
「そっか。なるほど」
おだやかに微笑む
「ホント、そっくりだからびっくりしちゃうわよね」
「ああ、うん、最初見た時おどろいた」
「あの? どこかおかしいですか……?」
「え、そうじゃなくって――あ、ユーナってリアルだとスタイルいいんだね!」
あわてて言いつくろったことばに、
「どこ、見てるのかなー……?」
「ごめん、失言でした……」
素直に謝る
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