第337話 お披露目
目の前で繰り広げられる術式に……否、
既に
うすい桃色のショートボブに、同色のカラーコンタクト。
一筆ごとに限りなく
「うわぁ……エスタさん、メイク上手なんですね! メーアみたい……」
「ふふ、今のわたくしでは、エスタトゥーアのコスプレだと似合いませんからね。いつか撮影しておこうと思って、ウィッグとカラコンは購入しておいたんです。でも、帯は浴衣の兵児帯ですし、衣装の
「全然そんなふうに見えませんよ。すごーい!」
「ユーナにそう言われると、うれしいなっ」
はしゃいだメーアのような口調で、
マジメーア、と
「これで、メーアをおどろかせようかと」
「おどろくどころじゃないと思います……」
ドッペルゲンガーのように感じるのではなかろうかと、
うすいピンクのリップグロスで仕上げ、
「では、次はユーナさんの番ですよ。腕、見せていただけますか?」
「はい!」
先ほどまで
その腕を取り、一通り引かれたラインをながめる。そして
「テカるので、本当は全体にファンデを塗りたいんですが……今はだいじょうぶでも、あとの肌荒れが怖いので、ポイントメイクを使う要所のみにしますね。日焼け止めは塗っていますよね?」
紫色のカラーコンタクトで、すっかり「ユーナ」らしくなっている。
とは言え、致命的にちがう部分もある。
喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか、
ひとことで言えば、谷間である。
やや大きめに作ってもらった衣装だったが、やはり、成長に伴って実際の結名のほうが身体は大きくなっていた。いつのまにか胸も育っていたようで、
「現実のユーナさんとわからなければ、結局
唇に塗られたり、線を引かれたり、また塗られたりと繰り返していくと、結名のものではなく、ユーナの唇の形ができあがっていく。
「わたくしの記憶だけが頼りなので、本来とは少しちがうのでしょうが……あの世界、スクリーンショットも撮れませんし……ちがうって怒らないで下さいね?」
「そっくりですよ!?」
「あ、おしゃべり禁止です」
「はい……」
メイク中に動くのは自殺行為である。
楽しげな
――同じにしたはずなのに、まったくちがう……。
ゲームの中のユーナと、現実の結名。
姿かたちを大きく変えてしまえば、戦いにくくなるだろうという予測の下に、同じような
――がっかり、されてないかなあ……。
まともにあいさつもできなかった
まだ、一日は始まったばかりだ。
鏡の中のユーナは口元をゆるめた。綺麗な弧を描くと、鏡の中のメーアまでが微笑んだ。
「とても可愛いですよ」
「ありがとうございます!」
ユーナの姿でなら、もっといつも通りにできるだろうか。
皇海市は
結名は単純に、休み明けにはどうなるのだろうと気になった。
「エスタさんの職場、楽しそうですね」
ユーナのことばに、一瞬、
「……そ、そうですか?」
「ペルソナさんたちと働くとか」
「普通ですよ? ペルソナもソルシエールさんも、ああ見えてちゃんとお仕事していますし」
どう見てもメーアな外見で言われると、違和感がすごい。
ふむふむとうなずく結名も、決してあのふたりが働かないと思ったわけではなく、むしろ真逆で、とんでもないスピードでさまざまなトラブルを
仕上げに、ぽんぽん、と置くように
「はい、完成です。メイク直し用のポーチと、あとは貴重品を持っていきましょう。ユーナさんのお洋服は、わたくしのキャリーに詰めてもよろしいでしょうか?」
「え、いいんですか?」
「クロークに預けますので、荷物一個ごとに、サイズに応じてお金を支払うんです。キャリーのサイズはどう足掻いても変わりませんから、どうぞご遠慮なく」
結名はことばに甘えることにした。手際よく
そして、ふたりは立ち上がった。
「あの、連絡先とか交換しても、いいですか……?」
コスプレ更衣室の出入口へと視線を向けた
「いいけど……それなら、
「はい!」
スマホを取り出し、互いに連絡先をコードで表示し、カメラで読み込ませる。
嬉々としてその画面を見つめる
確かに、面倒見のよさはそのままである。春から入ってきた同じ外部スタッフの子たちの教育は、正規職員ではなく、彼女が担当している。その分本来の春先の忙しい時期の仕事に没頭することができ、正規職員の間でも評判がよかった。そういったことは、完全定時上がりとなる外部スタッフのほうには伝わらない。必要とあれば残業に走る正規職員のあいだでの内緒話のひとつになるためだ。
「ありがとうございます! 迷惑は、かけませんから……」
何でその態度が
「ふっふっふ、おまたせーっ!」
異様なほど元気のよい
すると――そこには、鈴を涼やかに鳴らす
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