第313話 誰よりも強くなってほしかった
星明かりの加護は神術である。
それに照らされているだけで、
聖水を服用し、身体に聖属性を帯び、
だが、今。
そのどちらの支援効果にも囚われない双子姫が、更なる不死王を目覚めさせようとしていた。
「
「――くっ」
「レンくん!」
使い捨ての重鎧を身にまとっているにもかかわらず、その投げは非常に無造作に行なわれていた。鎧の中にまで及んだ衝撃に、シャンレンは息を詰まらせる。
オルトゥスは追撃を行なわなかった。その隙に、
交錯する二本の武器の合間を、双剣が閃く。絡め取る側であるはずの
「誰ですか、あんな身のこなし教えたの……」
「体術は基本です。自らの武器を得意とするほどにまで扱えねば、安心して働かせられないでしょう?」
酒場で働くからと武器の修練を積む従業員なんて聞いたことがありません、とシャンレンは文句を言いそびれた。エスタトゥーアに支えられ、身を起こす。そして、問答無用に
「
「レベル上げ、ほどほどにしておくんだったよ!」
そうなるようにと東門の一件でそこそこ戦いに慣れたふたりを、更に多くの戦場へ導いたのは他ならぬ
人形遣いの本領を発揮すれば、双子姫にもエスタトゥーアの意図は伝わる。かつて『白の
足の動きで、次の手が読まれている。
練習台になり、共に戦ってきた時間の長い
舞姫の嘆きに、不死伯爵は口元を歪ませた。
「味方であればこれほど心強いこともなかったのだがな」
「ちょっとお父さんの言うこと聞きすぎなだけだって。――コラ、オルトゥス! いい加減にしなよ!」
メーアは、鎌の刃を双剣で受けた。
不死伯爵は、鎖部分をステッキにからめ、引き寄せる。
武器によって動きを封じられ、オルトゥスはそれでも表情を動かさなかった。
その膂力によって、メーアは双剣側へと押し込まれかけ、目をみはる。
弓手は第二矢をつがえた。
その時、床に、何かが散らばる音が響いた。できるだけ下からと当たらないように配慮されてはいたものの、幾つかは
アシュアの手から、聖なる術石が扉目掛けてばら撒かれたのだ。
「ごめんなさい、カードル伯!」
「いや」
さすがに相手が不死伯爵ともなれば、アシュアも謝る。
「――そうだな、今は武器を取り上げておくほうがよさそうだ」
痛みによってそのやり方を思いつき――彼は思いっきり鎖を引いた。双剣側に触れていた作用点が、一気に力点側に向く。鎌は双剣から外され、逆にその勢いを利用すべく、不死伯爵へと振り上げられた。
不死伯爵は、避けない。
深々と、彼の肩口を鎌の刃が食い込んでいく。腕が落とされる前に、その華奢に見える腕を、不死伯爵はステッキを消した反対側の手でにぎった。鎖だけが床に落ちる。そして、そのまま双子姫の片割れを抱き寄せる。胸元に抱え込んだ宝を、彼は離さなかった。
「オルトゥス……!」
その名を呼ぶ。だが、やはりことばに対する反応はない。オルトゥスは胸元から何とか逃れようと、身じろぎしていた。そばへと、エスタトゥーアが駆け寄る。鎌の背に触れ、
「すみません、カードル伯……!」
エスタトゥーアは深い傷を見て謝罪した。そして手を伸ばし、不死伯爵に囚われたオルトゥスに呼びかけた。
「オルトゥス、わかりますか?
……まったく反応しませんね……」
「何か、動きを封じられるものを」
「このまま撃つとみんな巻き込むよ」
「普通の縄だと、すぐにひきちぎりそうですね」
「それよりほっとけば腕落ちるから! レンくん、聖属性除外ポーション!」
「変な感じだけど、まあそうだよね」
何とか取り戻せた。
本人の意思はさておき、とんでもない行動を止められたという安堵感が広がる。魔銀糸の網をどのようにして広げるか。いっそ、既に床へと落ちた網矢を用いてもらうか……そう考えていた時、弓手の
「
再度放たれた網は、またもや軽やかに避けられた。
そして、その小柄な人影は、自らの片割れを救い出すべく飛び上がり、鋭い蹴りを放つ。ポーションを振りかけられたばかりの
ルーキスは
ルーキスは方天画戟を腰に佩き、その穴へと手を突っ込んだ。同じように、オルトゥスも倣う。
止める間はなかった。
彼女たち自身を守るための力によって、祈りの封印は無惨にも物理的破壊を受け、破られたのである。
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