第十章 聖女のクロスオーバー
第210話 結盟
バージョンアップ以前は、フレンド、もしくはパーティーという二種類の枠組みによって、
そして、今回のバージョンアップにより、
ユーナもまた、かつて他のMMORPGで遊んでいたころにはギルドに所属していた。というよりも、今も所属したままである。最近はまったくそのゲームにログインしていないが、除名はされていないはずだ。加入した時のポイントは、ギルドチャットが活発であることとか、そこそこエンドユーザーがいることだったような気がする。やはり、コミュニケーションが取れない集団では意味がないし、同じレベル帯で一緒に戦えない仲間ばかりだと誘いにくかったりするためだ。
幻界で、そのようなコミュニティに所属する可能性は、最初からユーナの念頭にあった。ただ、その時は集団に所属することが有利に働くからと考えていただけで……コミュニティに所属するより早く、これほどまでに、ひとと深く関わっていくことを想像していなかった気がする。
結局、コミュニティとは枠だけではないのだ。
そこに確かに、ひとがいて、ことばを交わして、ともに過ごしていくことで築かれていく何かがある。今回の
そして、彼女の視線の先で、今まさに、これからの居場所となる
羊皮紙に描かれた一角獣の紋章の上で、
「これほど多くの友と、新たなる地で、新たなる我が家を得、ともに歩むことができることを心から感謝いたします。
我が名はエスタトゥーア。
今、ここに
【
受諾しますか? はい/いいえ】
指先で、「はい」に触れる。
すると、コミュニケーションウィンドウが開いた。フレンド・パーティー、そのとなりにクランが輝いている。今はクランのタブが開かれていて、そこには次々と名前が追加されていった。
クランマスターとしてエスタトゥーア、サブマスターにシャンレン、メンバーにアシュア、シリウス、ペルソナ、セルヴァ、ユーナ、アルタクス、アークエルド、アズム、メーア、ソルシエール、フィニア・フィニス、セルウスと名を連ねている。
ユーナがクランに加盟したことにより、
うすい桃色の髪を揺らして、メーアが不思議そうに首をかしげた。
「サブマスター、アシュアじゃなくてシャンレンなんだね」
「ふふふ、わたくしを借金まみれにしておいて、安穏とメンバー面はさせませんよ」
「ははははは……」
シャンレンの乾ききった笑い声に、メンバーから苦笑が漏れる。
彼が独断で仮契約を結んだ宿は、確かにすばらしい立地にあった。
ギルド通りにも通じる扉があり、裏通りの入り口は広く、舞台が作れそうなほど広い食堂に、16も客室がある。多少改装する必要はあるが、許容範囲内だ。しかも、敷地に厩や別棟まであり……となれば、購入費用に金三枚では安い気もする。ただ、当初の予算は金一枚、高くても金一枚に大銀貨五枚である。即金で金一枚は支払ったそうだが、残金は分割払い……となれば、自分に何かがあった時の責任者はこのひと、とエスタトゥーアとしても首に縄をつけて捕まえておく必要があった。そのための、サブマスター権限である。
「早いとこ稼ぎに行かないとなあ」
「王都の周囲で狩りをするだけでも、稼げそうだけどね」
「ギルドで特別依頼が出ているらしいから、それに合わせれば効率的だな」
「明日にでも行きましょうか」
借金、と聞くと早めに返さなければという気になる程度の良識はある。
左手で頬杖をつきながら言う
「そっか、王都だから全部のギルド施設あるんだよな」
「細かく分類されてるらしいから、自分がどこに行けばいいかわからないひと多いらしいよ。ギルド案内所があるくらいだから、よっぽどだよね」
ユーナたちが王家の霊廟に缶詰めになっていたころ、ログインして少しそのあたりを歩き回ってきたらしい
ギルド案内所はギルド通りにあり、各ギルドが人手を出して運営しているらしい。そこで
「盾士とかあるのかな」
「重戦士でまとめられている可能性もありますが、行けばわかりそうですね」
マイナー職のセルウスも興味があるようで、
ユーナは……当然、王都のテイマーズギルドへは行けない。そのことを理解している地狼が、ユーナの足元を尻尾で撫でてくる。手を伸ばして首筋を撫で返した。
【気分が優れないようだが――】
となりに座る
「新規メンバーの加盟にも権限が必要ですし、アシュアもサブマスターの権限、一応持っておきますか?」
「今のところは要らないわ。欲しくなったら言うから」
「わかりました」
マスターとは異なり、サブマスターには複数名指定できる。
「おい、終わったなら運んでくれ!」
「あ、はい!」
厨房から、マールテイトが吠える。幾人かがあわてて席を立ち、ユーナがまず駆け出した。が、すぐに注意を受ける。
「コラ、食堂で走るやつがあるか!」
「すみません……」
ぴたりと立ち止まり謝罪する彼女へ、骸骨執事が声を掛ける。
「ユーナ様、わたくしが」
「え、アズムさん!?」
確かに、この手のことならプロである。カタカタとしゃれこうべを鳴らしながら、優美な所作で大皿料理を手に取り、運び始める。ユーナは取り皿のほうを並べることにした。
そして、
「マールテイト、仕事、本当にいいんですか?」
軽々と三皿を両手に持ちながら、シャンレンは、カウンターのほうへ料理を追加している料理人に問いかけた。
ちょうど夜のかき入れ時である。夕刻、商人ギルドの銀行窓口前で本契約を済ませたあと、いっしょに宿まで戻り、「よし、祝うぞ!」と腕まくりをしてそのまま厨房に突撃してしまった元所有者は真顔で返した。
「これも仕事だ」
シャンレンはそれ以上突っ込めなかった。売却した自覚がなさげな気はするが、これだけの食材をあらかじめ準備してくれたうえでの心配りである。ありがたいと感謝するしかない。
「マールさんも座って下さいよ。あとはあたし、運びますから」
カウンター上の料理がきれいにテーブルへ移り、あとはドリンク類である。ソルシエールは厨房の氷室から瓶類を出していた。骸骨執事も酒類とグラスを銀盆に並べている。
「片付け等はお任せ下さい」
「おお、すまんな」
前掛けを取り、マールテイトは厨房を出ていく。入れ替わりに、ユーナが顔を出した。その手に何もないのを見て、ソルシエールはジュースの瓶を二本差し出す。反射的に、ユーナはそれを受け取った。そのまま、ソルシエールも瓶をいくつか抱えて、みんなのいるテーブルへ向かう。だが、ユーナはソルシエールを追わず、じーっと
「お酒も只今お持ちいたしますね」
「……あの、アズムさん。せめて乾杯だけでも、いっしょにいてもらえたりしませんか?」
「おやおや」
ユーナがおそるおそる口にした内容に、しゃれこうべがカタカタと鳴った。楽しげな音に、このお願いで機嫌を損ねていないようだと、ユーナは安堵した。
王家の霊廟でも助けられた上に、熱病で寝込んだユーナの面倒もあれこれと見てもらっている。
そして、
「では、おことばに甘えて。旦那様とご一緒するのは久方ぶりですね」
鳴りやまないしゃれこうべの音に、ユーナは破顔した。
食堂に響く、重なるグラスの音色と乾杯の音頭。
その夜、マールテイトの宿をあらため
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