俺は早漏かもしれない
神澤直子
第1話
炭酸がある。
コンビニで購入した強炭酸の水。甘くも辛くもないただの水。
それをグラスへ注ぐと、シュワシュワといかにもな炭酸の泡が音を立てた。
俺は童貞だ。
当たり前だが女性経験がない。女の膣を知らず、連日連夜エロ漫画やエロ動画なんかを見て妄想を膨らます。
最近俺の友達に続々と彼女が出来て、頻繁に童貞卒業の話を聞くようになった。
あいつらは俺が童貞だということを知ってか知らずか、さも当たり前にまるで俺が女を知っているかのように話をする。俺は知ったかぶりをしてそれを聞いている。
正直焦っている。
まだ俺は高校生で、たぶん世の中には俺が知らないだけで同い年の童貞なんて腐るほどいるんだろうけど、それでも今のところ俺の周りで童貞なのは俺だけになってしまった。
どうにかして捨てようにも女子とどうやって話をしたらいいかわからない。中学に入ったくらいから女子と話す機会なんてほとんどなくなったし、今でもそうだ。俺の仲間たちも同じだと思っていたのに、気がついたらみんな彼女が出来ていた。
バイト先で作った和也はまあいいとしても、充希と夏人はまさかのクラス内だ。充希の彼女は地味な松田さんだが、夏人に限ってはクラスで一番可愛い谷河内さんと付き合っている。谷河内さんなんか俺なんて畏れ多くて話しかけることもできない。
いや、でも、きっとなんとなくだけど、本当になんとなくだけど、俺にも彼女が出来る気がする。俺にもきっと充希や夏人、和也の彼女なんかよりもずっと可愛い彼女ができて、めちゃくちゃラブラブな生活を送っていずれ結婚までして--。
妄想ばっかりが膨らんでも仕方がないなと思った。
とりあえず目の前のことをやろうと思う。
目の前には炭酸水。
なぜ炭酸水を用意したかと言うと--。
俺は早漏かもしれないのだ。
いや、実際はわからない。だって女の経験がないんだから。女性の膣の中がどれだけ温かくて、どれだけ柔らかくて、どれだけ湿っているか、いつも妄想を膨らまさせているだけなのだから。
でもなんとなく一人でしている時間がいつもあっという間な気がしている。まあ、他の奴の自慰行為なんて見たこともないので、実際みんなどれくらいの時間をかけてやっているのかなんてわからないわけではあるが、それでも俺はものの5分で発射させてしまう。
--そんなので女性の膣圧に耐えられるのか?
本当に早漏かどうかはわからない。でも、いざという時のために鍛えておくことには何も問題はないのではないか。いざと言う時、やっぱり女性早すぎる男は嫌いだと思う。固くて、反りたっていて、大きくて(これは僕にはどうにもできないけど)、持続力がある。そういうおちんちんがいいってエロ漫画には書いていた。
今回炭酸水を用意したのは、早漏の治し方と言うのがSNSで流れてきたからだ。
フォロワーも似たり寄ったりなオタクが多くて、こう言う話にも割と詳しい。詳しいとはいってもおそらく奴らも俺と同じように童貞なんだろうけど(むしろあいつらに彼女がいたら俺は
そんなみんなから回ってきて、それで俺がやってみることになった。俺が早漏かもしれないと漏らしたこともあって、俺がやることになってしまった。
やり方は簡単だ。
炭酸水をグラスに注いで、その中に突っ込むだけだ。
だが、どのように突っ込めば良いのだろうか。そのままの皮の被った状態だとあまり意味がないのではないか?かと言って、フルに勃起させてしまえばグラスに突っ込むことが難しい。……半勃起か。半勃起させて先端の皮を剥けばいいのか。
俺はパンツを脱ぐ。
そしてまだ縮こまっているチンポを握る。
いい感じだ。いい感じに勃起してきたぞ。
こうやって改めて見るとそこまで巨大ではないけど、そこそこ大きいような気がする。そういえば以前見栄だけで買ってみたコンドームのMサイズが少しだけ小さかった。
俺はグラスを手に持つ。恐る恐る陰茎を炭酸水に差し込む。
バチンッ
一瞬何が起こったかわからなかった。
目の前が真っ暗になった。真っ暗になって次の瞬間目の前にヒヨコが舞った。刺されたことはないけど、きっと電気クラゲに刺されたらこんな感じなんだろう。
チカチカしてボーッとした頭で床を見ると粉々になったグラスが溢れた炭酸水の中に散らばっている。あまりの衝撃に俺はグラスを投げ出したらしかった。
誰が見ても明らかに失敗だった。
こんなんじゃSNSのあいつらに報告なんてできやしない。
--もう一回やるべきなのか。
俺は見るも無惨に萎んでしまった陰茎と床に散らばったグラスを見比べた。
「とりあえず……片付けるか」
割れたガラスを踏んで怪我をしてもアレだし、もう一度やるにしてもグラスがもう一つ必要だ。
僕はパンツをはいた。
パンツをはいて、床に散らばった破片を拾い集める。適当な袋に入れる。それを持って俺は階段を降り、キッチンへと向かった。
テレビの音が聞こえる。俺はギクっとした。K-popのライブが流れていて、こんなものを観るのは妹くらいなものだ。
気づかれないようにそーっと後ろを通り過ぎようとする。ソファにぞんざいに投げ出された妹の脚だけが見える。ショートパンツに露わになった脚は無駄な年頃の娘の脚で何もとも艶めかしい。ゴクリと生唾を飲み込んだが--。
「なにやってんの?」
妹が俺に気づいて振り返った。
日中はケバケバしい化粧で塗り固めてある顔の塗装が今は剥げている。顔立ち自体は悪くはないけど、ソバカスだらけだし眉毛がない。異様な迫力がある。
やっぱりどれだけ艶かしい脚を持っていようがどれだけセクシーな身体を持っていようが、妹は妹だった。
「いや、グラス落としちゃって……」
俺がそう言うと、妹は
「ふーん、きっしょ」
と言って嫌な顔をし、また画面を注視し始めた。
俺は何もキショいことなんて言っていないし正直カチンときたが、ここで言い返してしまってはまた喧嘩になってしまう。一年前だったら我慢できなかったろうが、一年経って俺も成長した。ゴクリと言葉を飲み込むことができた。大人になった。
俺はそのまま手に持った破片を捨てて、食器戸棚から新しいコップを取り出した。今回は割らないようにプラスチックでできたものにした。
さっきまで俺はもう一度挑戦するか悩んでいたはずだ。それがどう言うわけか今、こうやって新しいコップを手に持っている。
なぜか。
それは僕にもわからない。
僕はいそいそと部屋に戻った。
部屋に戻ってコップと炭酸水を並べる。パンツは脱いだ。
さっきの失敗の原因を考える。
グラスの中にチンポを突っ込んだ瞬間の電撃はおそらく炭酸が強すぎたのが原因だろうと思われた。あまりに強い刺激に俺のチンポが耐えられなかったのだ。よくよく考えたら当たり前だ。ただでさえ敏感なチンポの先っちょなんだ。強炭酸になんて耐えられるわけがない。
--と言うことは。
俺はペットボトルを激しく振った。炭酸を抜けばいいと思ったのだ。
ペットボトルの中でシュワシュワと音を立てて炭酸が抜けていくのがわかる。そろそろいいかなと思ってコップに注いで味見をしてみたら殆どと言っていいほど炭酸は抜けていて、僅かに残った炭酸が俺の舌の上で少しばかり主張をしている。普通に飲んだら美味しくないが、でもこの水は飲むための水ではない。
時が来たと思い、俺は再びコップに炭酸水を注いだ。そしてまたチンポを軽くしごいて半勃起状態にする。一瞬躊躇ったが、勇気を振り絞った。勢いよくコップへとチンポを突っ込む。
今度はさっきみたいな電撃が走ったような痛みはなかった。かといって全然痛くないわけではない。
パチパチと綿菓子が弾けるような痛みがチンポを襲う。最初はムズムズとむず痒いような気がしていたけど、不思議と慣れてくる。慣れてくるとどういうわけかそれが少しずつ快感に変わっていくような気がした。
--これはまずいぞ。
不思議な刺激がチンポから脳に伝わる。
すぐに射精をしそうになる。ダメだ、と頭の中で念じた。今射精をしてしまっては俺が早漏だと言うのを認めてしまったことになる。俺は早漏かもしれないけど、早漏ではないんだ。
そういうストーリーでやっていきたい。
パチパチとした刺激がチンポを包む。脳に伝わった刺激が視覚につながって、目の前で線香花火でもやっているかのような錯覚が起こる。
パチパチ
パチパチ
パチパチ
もうダメだった。
俺は射精した。コップの中に思いっきりぶちまけた。
透明だった炭酸水の中に白濁とした液体が浮かぶ。それはけして水とまざりあうことなくぼんやりと浮かんでいる。
一息ついて、俺はなんでこんな馬鹿なことをやったんだろう。
と思った。
--こんなことをしたところで誰も褒めてくれるわけなんかないのに。良くて笑い草だ。
俺は改めて精液の浮かんだコップを眺めた。これを自分で片付けるのは地獄だな、と思った。
俺は早漏かもしれない 神澤直子 @kena0928
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます