第25話:勝利者
『ヤクモ君、やくやったけど、私の勝ちよ』
『ヤクモ君、よくやったけど、私の勝ちよ? ふっ、勘違いするな、英雄幻想はオレだけじゃない。一人じゃないんだ!』
『イエス、マイマスター! 精霊概念【融合】発動します』
英雄幻想の法則歪曲はオレ自身の力、フラウの精霊概念の力は別にある。その力は融合と生成、オレはフラウの融合の力を使い、オレを英雄幻想そのものと融合させる。オレは今まで自身が膨大な魔力を持つのにも関わらず、その魔力ではなく、フラウの魔力を使うことで、法則歪曲の力を使ってしまっていた。
それは俺が純粋な生体であるために、システムとの完全な接続ができなかったから。だが、融合することで、俺自身の魔力を活用できれば、集中の力を受けても、勝利先導を倒すだけのパワーがある!
『集中させ過ぎるのも考えものだな。おかげで、打開策を思いつけた。つっても、影響は受けたままの、ゴリ押しの策でしかないがな』
【──リリースコード! ──
『──ッ! 出力を上げてくるなんて!』
勝利先導にブレードで剣を、技を弾かれる。しかし、完全に弾ききられることはなく、剣は勝利先導の脚を貫く。
『ふふ、ああよかった。因果律操作の力を持っていて、この力を【集中】させれば、部分的なら法則歪曲も無効化できる。人一人分の力でしかなかったけど、今の私は超魔導鬼械だから。こういうこともできる!』
『いや、終わりだ。あの技は剣からでなくとも使えるし、狙いはお前じゃない。そして攻撃が目的でもない』
『え?』
俺は英雄幻想の足裏から、棒を現実化させ、そこから地中へ幻想響剣を放った。魔力と思いを乗せて、その振動は地中を突き進む。
『ラスト山脈でロミィは魔獣オウラインと戦った。ロミィは
『な、何を? それにどうやってそのことを知ったっていうの?』
『ロミィのもう半分はここにいる、英雄幻想の中にいる。ロミィの魂を、英雄幻想に定着させた。フラウが融合の力を使ったんだ。オレを哀れに思って、フラウ自身の意思でそうした』
『う、嘘よ! そんなことできるわけない! そんなの、ありえない!』
『ナナミ、オレは、お前達を守るために生まれたんだ。幸せになれたらいいなってさ。そのために、奇跡が必要だというのなら! オレは奇跡を起こすんだ! 帰ってこい! ロミィ、オレ達の所まで!』
大地が切り裂かれる音が響く、紫に輝く光輪が、地底から地上へ飛び出し、英雄幻想に激突、英雄幻想に浸透していく、なんの抵抗もなく、自然に。
地中に放った幻想響剣、あれは長い時を経てロミィの回転の魔力を溜め込んだ、魔導石を活性化させた。そして、ある魔法の命令を編み込んだものだった。
一つの魔導石が弾け、また別の魔導石と衝突しまた弾ける。魔力が魔導石から解放、放出されると、それらは相互に干渉する。魔力によって光輪が生まれ、光輪は地中を、螺旋を描くように進む、ロミィの残留魔力を回収しながら。光輪が、かつて地中を掘り進んでいった軌跡を、逆再生するかのように、辿らせた。
『ただいま。雷名くん、ナナミ』
山脈の下で眠っていたロミィの魔力は、フラウに定着するロミィの魂に力を与え──
──目覚めさせた。
『おかえり。もう勝手に離れるなよ? ロミィ』
ロミィが現実化によって実体化して、オレの超魔導鬼械の肩に座った。よかった……本当によかった。
『でも変な感じねぇ? 正気の部分があるっていうのは……ナナミ、まだ勝ちたい? あんたが勝つって言うなら、もう一回消えちゃおっかなぁ?』
『おいおい!』
『なんでそんなこと、言うのぉおおっ、うわあああああ! 勝ちたくない! 負でいいっ……! もう、人造神なんて知らない! ヤクモ君と、ロミィと一緒にいる!』
『さて、じゃあ負けてもらおうか。オレのモノになってもらうぞナナミ』
【──リリースコード! ──
勝利先導は幻想響剣によって硝子のように砕けて、雪のように、風にさらわれていった。青色の宝石のような鬼械の心臓を残して。
◆◆◆
「お、おおお! 美しい……地面に魔力の光が、おっきな木みたいになって、光輪がぶわーって集まって……強く光ってロミィンが復活、最後に幻想響剣、硝子の雪が優しく舞って、穏やかさの中で戦いが終わる……美しいの連続じゃん!」
聖王宮の玉座の間、そこで人造神達はヤクモとナナミの決闘を見ていた。アルトゥアスは戦いの決着に感嘆する。
「奇跡ねぇ……確かにあれは奇跡で美しかったわぁ。いじわるする気も起きなくなっちゃう……」
「エルトゥ、君がそんなことを言う時点で、間違いなく奇跡だよ。良いものが見れた、お礼はしっかり返さないとね。アルトゥ、彼らを元世界に戻そう、ボクが整えておく。二人に整合性を取らせるのは心配だからな」
イルトゥインには表情があった。明るく穏やかで、いつもの暗い雰囲気がない。ヤクモ達を元の世界に戻し、ラブデスゲームを中断することに、人造神達は心底納得していた。ヤクモと少女達の幻想は人造神の心臓に届いて、それを揺らした。生きていることを実感した。人造神達が何よりも求めていた感覚だった。もっとも、その判断に至るきっかけは、アニメ作品で、その事実を知るものはいない。
◆◆◆
「え!? どうなってんの? 死んでるの? 生きてるの?」
「まぁ見えて話せるだけで、状態としては死んでるんじゃない? 幽霊に近いかも、ククリぃ、あんましワタシを怒らせると呪っちゃうよ~?」
「ぴええええええ! やめてロミィ! 悪霊退散!」
「待ってククリ、この悪霊には消えてほしくないわ」
「そうだよ。ナナミの言う通りだよ。確かに鎌霧さんは悪霊かもしれないけど、一緒にいたいんだから」
あれから僕達はレッド・スピードに戻る前に、元いた世界、地球に戻された。僕が勝利先導、化影ナナミを倒したことで、僕の勝利条件、僕が三人の君主を倒すを満たしたからだ。
ラブデスゲームは中断となった。本当に、あっさりと地球に戻された。僕達が異世界に行っていた間のゴタゴタや辻褄合わせは人造神が記憶操作とかでどうにかしたらしい。地球ごと記憶操作を行ったって言うんだからとんでもない話だ。
異世界での出来事を憶えているのは僕と君主だけで、他の人は憶えてない。今日はククリの家に遊びに来たんだけど、なぜかミリアやナナミ、フラウと鎌霧さんもついてきた。
「まぁロミィはわたしに寄生しているようなものですし、悪事を働こうとすればその思考も全てわたしに筒抜けですから、悪霊らしいことはできないと思いますよ?」
フラウも一緒にこの世界に来たんだけど、なぜか鎌霧さんの妹という設定になっていて、今は鎌霧さんと一緒に、鎌霧さんの家に住んでいる。まぁ鎌霧さんがフラウに定着してるからお互いに離れられないし、丁度良かったと思う。フラウの融合の力は解除すれば分離できるようで、フラウの機嫌次第で、僕はフラウと融合しっぱなしになったり、鎌霧さんの定着を解除して成仏させることができる。おそろしい……
「というか雷名くん! ナナミのことは名前で呼ぶのにワタシのことは名前で呼んでくれないの? オレ様モードの時は、ロミィって呼ぶのに……」
あれってオレ様モードって呼ばれてるのか、ダサいからやめてほしいなぁ。
「え? ああ、うん。徐々にね? 徐々にシフトしてくから……その結構付き合いが長いとね、中々急にはね?」
「せやせや、死んでも生きとるんやから、その幸運だけで妥協しとき? ナナミも、あんま調子に乗ったらあかんで? ウチは最初からミリア呼びやったし、お前が名前で呼ばれてもウチの最初期と同じ土俵にたっただけや」
──チュ。
え? 頭掴まれて、す、吸われてる。いいんちょ、ナナミに……キスされてる!? 僕が!? う、いい匂いがする。あれ? なんか寒気がするぞ?
「「「「何やってんだお前ええええええ!?」」」」
僕とナナミ以外の怒声がククリの部屋に響き渡る。なんてこった……ここククリの部屋だぞ? しかもククリも鎌霧さんも見てる中で……
「自分に素直になれとか言ってなかった? ああ、あと自分のために戦えとかどうとか。だから戦ってるのよ。戦場を代えても、戦うからには勝つわ」
確かに自分の気持ちに正直に生きろ的なこと言った気がする。僕はとんでもない化け物を野に解き放ってしまったのかもれいない……まぁでもいっか! 可愛いし!
「マイマスター?」
「ひぃ!」
ともかく、僕達は日常に帰ることができた。色々と変化はあったけど、それでも帰ることができた。人造神があのままあっさり、おもちゃである僕達を手放すとは思えないけど。アルトゥアスは約束を守る。おそらく、しばらくは平和だと思う。だからそれまで、全力で平和と日常を満喫しよう。
僕も自分が浮気者の最低野郎ということが分かってしまったので、これからは我慢しません。それで刺されても、その時はその時なんだ。
【第一部完結】【魔導鬼械xパープルアイズ】ロボのある異世界デスゲームの優勝賞品となってしまった僕、7人の女の子を救うためデスゲームを破壊する【ロボットxハーレム】 太黒愛釈 @ohguro_ashaku
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