第24話:決闘
「ありがとう。決闘に応じてくれて」
「いいえ、こちらとしても、被害が最も少なく済むこの方法がベストだと思ったまでよ」
僕は勝利先導と戦うための方法として、決闘を選んだ。決闘ならば、どちらが勝とうとも無駄な被害はでない。委員長からすればなんのメリットもない決闘だけど、この提案を断るということは、そういった無駄な被害を、僕が出す可能性もあるってこと、勿論僕にそんなつもりはないけど、理屈抜きに委員長はここに来ると思った。
「このラスト山脈は、永遠輪転にとって因縁の場所らしいね? だから、君にとっても、特別な場所なんだ。鎌霧さんのために泣いた君なら、彼女のために、ここに来てくれると思った。この戦いを区切りにする、僕が負けたら、僕は君との確執忘れて、君の指示に従う。君が負けたら、君が僕のために戦うのはやめてもらう」
「私がヤクモ君のために戦うのをやめる。それはいいけど、いまいち意図が理解できないわ。私は私の使命のために戦っているだけよ」
「そうだね。言い方がよくなかった。自分の心を犠牲にして、使命感のために戦うのはやめてもらう。これなら分かるでしょ?」
「……私は勝つために生まれたのよ? 使命を果たすために勝つ、ヤクモ君、私の生まれた意味を奪うっていうの? 酷いことしたいのね? まぁ、好きな女の子の片割れを殺した相手だし? それぐらい当然かもね?」
「君の生まれた意味が歪みを生むのなら、僕はそれを壊す。委員長、化影ナナミ、君はもう勝利先導じゃない、勝つことなんて望んじゃいないし、君の使命は、もう終わったんだ」
委員長の目つきが変わる。僕を睨んでる。そりゃあ怒るよね。
「私の使命は終わってない、人造神を倒す。それが例えどんなに低い確率でも、私は決して諦めない。その結果、大勢の命が消えて、地獄に浸かっても、勝てるならそれでいい。私達はここまでやってきた、勝てなければ! 先に逝った者達も! ロミィも! 無駄死にになってしまう! そんなこと、絶対に認めない! 勝たなきゃ意味なんてねぇんだよ……! 戦場に出てきたばっかの青臭いガキの分際で、分かったようなこと言うんじゃねぇ」
こ、こわ……僕だけじゃなく、僕の隣りにいるフラウもビビっている。まぁでも委員長の言うとおりだ。勝たなきゃ意味がないんだ。僕が勝たなきゃ駄目なんだ。
「それじゃあ始めよう──決闘だ! いくよフラウ!」
「──はい! マイマスター! ──始まりの憧憬、彷徨のその先、黄昏にて重ねよう──時を超えし、夢想の水晶が、不壊の闇を砕くだろう──
──全領域人機決闘型、
──
「──死は重なり、絶望を歌う。其の勇気は呪いを祝福に、其の執念は諦念を悲願に、敗北を勝利に──戯曲の結末はただ一つ、全ては収束する。絶望を砕き、勝利を嚮導する者──
──広域武装供給指揮官型、
──
青と白の超魔導鬼械が顯現する。
「ショウダウン! フラウレス・ゼロ! 委員長! 君を倒す!」
決闘が始まってすぐ、勝利先導は後退し、英雄幻想から距離をとろうとする。まぁ、当然か、英雄幻想の方が素の近接戦闘能力が高いし、英雄幻想には法則歪曲もある。触れられたら終わる。だからこそ僕達も勝利先導へと距離を詰める。スピードも英雄幻想の方が勝利先導を上回っている、だから、普通なら勝利先導が逃げ切るのは難しい。でも──
「ダミー! 厄介だ!」
『マイマスター! 精神防御を! 偽物に意識を集中されてしまいます!』
──ッ!? クソっ、なんだこの感じ、うまく精神防御が働かない……精神防御を針みたいな尖ったもので刺されて、貫通されたみたいに……そうか、きっとあの時も、鎌霧さん以外を見えなくされた時も、こうやって僕の精神防御を突破してきたのか。それなら──
『──ッ、ホント人間じゃないのね? 機械よりも演算スピードが早くて、発想力もあるなんて。そんなに即対応ばかりして疲れない?』
『まぁこっちは3時間しか戦えないからな。後先考えなくていいから楽なんだ』
『じゃあ3時間逃げ切れば、自動的に私の勝ちね?』
っく! またダミーを増やした! 本物が分かっても、邪魔だ、攻撃しないと消えないし、移動が妨害される。オレは銃を現実化させる。勝利先導の使うのと同じライフルだ。現実化が完了すると同時にダミーを魔力の弾丸で射撃していく。
──ピシュウウウーーー。
これは、煙幕? 射撃したダミーから煙が……! ダミーの中に本物の煙幕を仕込んだのか! しかも、魔導レーダーを麻痺させるジャミング効果まである。勝利先導が、どこにも見えん!
──ダダダン、ダダダン!
煙幕で何も見えない中、勝利先導に一方的に射撃される。どうやって居場所を……
『マイマスター! 音です! 勝利先導は振動からこちらの位置を特定しています! こちらが音を大きく立てるタイミングで銃撃が激化しています!』
「音か、なら音を感じるセンサーを……いや、もっといい手があるな。法則歪曲を使う! オレ達から発せられる音は、曲がる。英雄幻想から出る音は、その魔力によって、決まった方角にだけ進む!」
法則歪曲によって英雄幻想の発する音は決まった方角にだけ伝わる。それによって勝利先導は何もない場所を射撃し続けている。その隙に英雄幻想をジャンプさせて滞空させる。
──【聖森の怒り《レイジング・フォレスト》】熱を帯びた魔法装甲の枝が英雄幻想の全身から展開され、大気ごと勝利先導の煙幕を焼く。煙が晴れていく。
「な……に?」
勝利先導が、いないだと? 銃撃を行っていたのはスタンドで固定された銃だった。まさか、こちらが対応した段階で、勝利先導もそれを見抜いて、偽装したのか? こちらの仕掛けに嵌ったと見せかけて、次の準備をしていた? 上空から見ても、何も見つからない。だとすれば、地面を偽装して潜んでいるのか? 実際、こっちは3時間以内に勝利先導を見つけられなければ敗北が確定する。
──は? あれ、勝利先導なのか? 急に何もないところから、勝利先導が出現した。どう見てもダミーだが、戦場から離れるように移動している。それから何機も、ダミーと思われる勝利先導は出現し、移動していく。万が一があるため、ダミーを全て射撃して破壊する。
「今度は複数のダミー? しかもスピードが速い!」
それぞれ別の方向へ走り出すダミー、逃さん! その全てを射撃する。舞踏飾紐をライフルに使い、その出力を強化、そして拡散モードで射撃する。弾丸は全てのダミーに命中する。
「弾丸が命中しても消えない機体!? 本物が紛れ込んでいたのか! 加速して、追撃しなければ!」
オレはすでに勝利先導に距離を稼がれていた。距離を詰めて、ライフルの射撃範囲に勝利先導を入れる。それと同時に射撃、勝利先導は硝子のように砕けて消えた。
「ダミーの中にダミーを仕込んだのか? 馬鹿な、そんなことをしても弾丸が貫通して同時に壊れるだけ……ダミーが破壊されると同時に、新たなダミーを展開した?」
『マイマスター! マイマスター! 正気に戻ってください! 精神防御を突破されています! 思考に集中し過ぎないでください!』
思考に集中し過ぎるな? ──ッ!? クソ、オレが新しい事象の対応のために集中し、集中の力への意識が薄れた瞬間を狙ったのか! 駄目だ、考えるのをやめられない! 考えないで済む方法を考えるのがすでに罠だって言うのに!
『高い演算能力も、フル稼働を続ければ、戦闘のためのリソースを奪い、極端な戦闘力の低下を引き起こす。あなたはもう、法則歪曲を使えないし、基本戦闘能力は、勝利先導を下回る』
囲まれている!? いつの間にかオレは勝利先導と、そのダミーに囲まれていた。勝利先導がダミーと共に、オレに、英雄幻想に攻撃してくる。ブレードによる斬撃とライフルによるコンビネーション、連撃によって一気にダメージを受ける。法則歪曲を使った防御もできず、全て直撃する。単に、英雄幻想が機体性能を下げられただけじゃない、勝利先導の膨大な戦闘経験からオレの動きの癖を読まれているんだ。
『ヤクモ君、やくやったけど、私の勝ちよ』
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