第21話:孤独じゃないなら地獄でも
永遠輪転は回転と吸収の精霊概念と高効率の魔導エンジンによって、どの超魔導鬼械よりも長く戦い続けることができた。近接戦闘しかできないという欠点はあるものの、高出力状態で永遠に戦い続けられる性能は、対魔獣において最強と言っても過言ではなかった。魔獣の攻撃を耐え、ダメージを受けてもすぐに再生し、敵の硬い防御を貫いて、一つの戦場を制圧すればすぐに次の戦場へと飛ぶことができた。
故に、永遠輪転は最も多くの魔獣を殺した超魔導鬼械となった。自己完結した性能で、誰かと歩調を合わせるよりも、単独で戦場を駆ける方が、永遠輪転には合っていた。だから一人で戦うことも多かった、逆境を一人で返すことも多かった。全ては人々を守るため、世界を守るためだった。
しかし、人造神との戦争末期、永遠輪転一人では勝てない魔獣が現れた。魔獣オウライン、人造神によって改造を施されたこの亀の魔獣は、魔法、物理、あらゆるエネルギーを吸収して跳ね返す能力、全神反射装甲を持っていた。超魔導鬼械達の必殺技、反動の発生する超高出力の技すらも跳ね返せる力を持っていた。永遠輪転は大陸中央にある、ラスト山脈にて魔獣オウラインと対峙する。
『……撤退するべき……か……けど、今ここでこいつを見逃したら……聖王宮にたどり着いちゃう。そうなったら終わり……みんなはみんなで強敵と戦っているはず、こいつの相手をする余裕なんてない……ワタシが、やるしかない!』
永遠輪転は仲間と世界のため、単独で魔獣オウラインを倒すことを決めた。しかし、数え切れない程の魔獣を殺してきたからこそ、経験から永遠輪転にはこの魔獣を倒すだけの火力がないことを自覚していた。
『ごめんねマイスター、ワタシはあなたの願いを捨てる。ただの永遠では、切り開けない未来があるから。ワタシは、ワタシの永遠を一瞬に注ぐ、オールイン──全てを賭ける!』
尋常ならざる永遠の闘争を可能とする、超魔導鬼械、永遠を望まれた機体、それが永遠輪転──けれども。
【──
超高出力を超えた神域に到達するため、永遠輪転は永遠を捨てた。循環、戦い続けることを捨てた。機体を再生させるリソース、魔法装甲を展開するリソース、飛行するリソース、全てを大鎌の光輪の威力を増大させるために注ぎ込む、もう永遠輪転には辛うじて歩行する程度の力しかない。
だから永遠輪転は光輪を魔獣めがけて投げた。光輪に注ぎ込まれたあまりに強い、回転と吸収の精霊概念は、最早永遠輪転の魂、その写しと言えた。永遠輪転が制御せずとも、光輪は一人でに永遠輪転の望む通りに動く。光輪は大地と空に裂け目を作りながら、魔獣オウラインへと到達する。オウラインの亀の甲羅、全神反射装甲が光輪のエネルギーを吸収しようとする。
『舐めるなよ、亀。そいつはワタシの魂だ』
回転と吸収、永遠輪転の精霊概念そのものと言える光輪は魔獣の装甲がエネルギーを吸収しようとする力すらも巻き込む。永遠輪転の光輪に取り込まれ、食われ、分解され、一つの回転になる。魔獣は、このままでは己がこの光輪の力に負け、取り込まれてしまうことを理解すると、身体を捩り、刃を大地に押し当てた。光輪は大地を切り進む。
魔獣は絶命した。しかし、魔獣の最後の足掻きによって光輪は永遠輪転に還ることはなかった。地下深くに沈み、土や岩盤を切りつけて、最後には消えた。膨大なエネルギーの回収に失敗した永遠輪転は倒れる。他の超魔導鬼械と同じく、深刻なエネルギー不足から立ち直るため、休眠状態に入ったのだ。永遠輪転が目覚めた頃、戦争は終わっていた。超魔導鬼械は、パープルアイズの命達は人造神に敗北した。
永遠輪転は分かっていた。あの魔獣を、オウラインを倒した所で、自分たちに勝ち目はないと。それでも、永遠輪転の心は、後悔と絶望に満たされた。自分がもっとうまくやれていれば、光輪のエネルギーの回収に成功していれば、そう思わずにはいられなかった。
戦いすぎてボロボロだった永遠輪転の魂、その最後の軸は絶望に砕かれて、永遠輪転は壊れてしまった。もう、前を見られない、未来を見られない、ぐるぐると堕ちて、絶望を肯定するだけだった。
◆◆◆
永遠輪転が投げた巨大な紫の光輪が触否定速めがけて飛んでいく。永遠輪転は光輪を投げた後、飛行を維持する力も失ったのか、墜落、地面と激突する。このままではまずいッ──
『──
勝利先導が自身の分身を勝利先導とそれを背負う青の魔導鬼械の周りに大量に出現させる。分身は触否定速と青の魔導鬼械を掴みブースターを吹かせて押す、強い衝撃を受けるとこの分身は崩壊する。逆を言えば、崩壊しない範囲でなら力を発揮できる。巨大光輪の軌道から触否定速達を逃がすことに成功した。
『外れた! ヤクモ君! 今の内にロミィを仕留めるのよ!』
ナナミの言う通り、オレは永遠輪転へと突撃する。永遠輪転にはもう、英雄幻想の攻撃を避ける力も、防御する力も持ってない。剣を現実化させ、舞踏飾紐と合わせて複数の角度から永遠輪転を攻撃する。
『──ボス! あんたのおかげで楽しかった! ありがとよ!』
角の生えた紫の量産型魔導鬼械が、永遠輪転を、
『夜堂、よくやった……今までありがとう。お前の全部、無駄にはしない』
永遠輪転がバラバラになった紫の魔導鬼械から心臓のような形のパーツを掴んだ。あれは、魔導エンジン? 強く魔力の光を放って、暴走状態なのか? 魔導鬼械の機械の心臓が爆発する。爆発と同時に大量の魔力が放出される。それは空中で螺旋を描き、永遠輪転の元へと流れ、永遠輪転の指先から永遠輪転の胸へと浸透していった。
『外した、ナナミはそう言ったよねぇ? 本当にそうかなぁ?』
ロミィの言葉を聞いて、オレは背後を、巨大光輪の方を見る──ッ!?
『──そんな馬鹿な!? ロミィ、あんた味方を──』
触否定速を逃がそうとする青の魔導鬼械の進路を塞ぐように、紫の魔導鬼械は集結していた。永遠輪転の放った巨大光輪は触否定速を狙ったコース、それはつまり紫の魔導鬼械達も直撃コースに入ってたということ。勝利先導の機転によって、触否定速が巨大光輪の直撃コースから逃れても、紫の魔導鬼械達は直撃コースから逃げることはない。
『あ、ああ! ロミィちゃんの力になれるんだ! 最高の死に場所だぁ!』
『ロミィ様! 醜い私達に価値を与えてくれたのに! 最後の時まで用意してくれるなんて』
『『──なんて優しい御方なんだ──』』
紫の魔導鬼械に乗る者達は、笑って、幸せそうに、永遠輪転の巨大光輪に食われて死んだ。そして巨大光輪は彼らの全ての力を吸収し、その大きさをさらに増大させる。巨大光輪は彼らを全て喰らった後、永遠輪転の元へと還っていく。
あの光輪が永遠輪転の元へ戻ったら、永遠輪転は力を取り戻してしまう、いや取り戻すどころじゃない、強くなってしまう! まさか、あの光輪自体があれほどの強い精霊概念の力を宿しているとは……回収される前に永遠輪転を倒さなければ──
【──空転】
──なんだッ!? これはッ……オレと永遠輪転のいる場所が、空間ごと入れ替わるように回転している!? 永遠輪転はオレと位置を入れ替え、そのままの流れでバックステップして後ろへ飛ぶ、ブースターを前側に吹かして、後方へ加速する。
永遠輪転は振り向くことなく、右手で──紫色に輝く超巨大光輪を掴む。永遠輪転が光輪を掴んだ瞬間、光輪の魔力は永遠輪転に力を循環させた。一瞬にして、永遠輪転は完全復活した。まだ、巨大光輪は維持されたまま、あれの力の一部があるだけで、永遠輪転を万全な状態にできたってことか。
『これだけの力があれば、誰もワタシを止められない。今のワタシなら、運命さえも廻す。ワタシを中心に、ワタシの思うままに! あはは、アハハハハ! もう、人造神の景品なんて待つ必要もない』
──ダダン、ダダン。
勝利先導が永遠輪転に銃撃を行う。しかし、弾丸は永遠輪転を避けるように、不自然に逸れていった。因果律操作……力の格を上げて、物理的なものや魔力以外、概念にすら、回転と吸収の精霊概念を適用できるようになったのか。
『ねぇ、雷名くん。ワタシとずっと一緒にいてよ。一緒に、地獄へ堕ちてよ。そうしたら、ククリのこと生かしてあげる』
永遠輪転を中心に紫の霧のような魔力のオーラが解き放たれ、霧は辺り一帯をゆったりと回る。霧はオレを、英雄幻想を包んで、永遠輪転の元へと引きずり込んでいく。
『分かった。ロミィ、一緒に地獄に堕ちる』
『マイマスター!? 一体何を言ってるんですか!? そんな、嘘……本気で言ってるなんて……ナナミ! マイマスターを止めて! 制御を支配されて、わたしには止められない!』
『……まさか、精神操作まで? どうして、精神防御を使わないの? 法則歪曲の力があれば、因果律操作だって抜け出せるのに! ヤクモ君、正気に戻って! あなたが負けたら、ククリだって死んじゃうのよ? ミリアも、あなたの家族だって!!』
『だって──ロミィが可哀想だろ? 覚悟なんてできてる。一緒に地獄に堕ちたなら、オレがロミィを地獄の外へ連れ出す』
『……馬鹿だ。馬鹿馬鹿馬鹿、そんなのおかしいよ!……ヤクモ君』
ナナミの声がオレを止めることはなかった。
オレは、英雄幻想は、
『あ、あはは……雷名くんおかしいよ。ワタシなんかのために、地獄に堕ちるなんて』
『ワタシなんか、なんて言うなよ……オレは──僕は、君のことが大好きなんだから』
『……はは、やっぱり駄目……雷名くんは地獄なんかに堕ちちゃ──』
──ズシャアアアア!
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