第18話:やらかしがバレて気まずい、そういうこともあります。




『雷名くん、会えて嬉しいな。それが例え戦場で、敵同士だったとしても……あぁ、これで煩いオマケ達がいなければよかったのになぁ……』



 僕たち、英雄幻想、触否定速、勝利先導、そして勝利先導に随行していた青色の量産機達が、永遠輪転の前に集結した。永遠輪転の周りには大量の紫色の量産型魔導鬼械オーガマトンと魔獣がいた。敵量産機の一部は他と少し形状が違う、角と追加装甲がある、カスタム機ってことか? あれが精鋭だ、きっと。



『オマケって何よロミィ! 舐めてるとぶっ飛ばすわよ?』



『まぁいいじゃない、舐めてくれる分には──侮るのなら、倒しやすくて助かるわ。ロミィ、あなたは私が救う』



『救う? あはは、ナナミも冗談なんて言うのねぇ? そんなドス黒い殺気出しながら言う事じゃないでしょ? そんなに、ワタシが雷名くんとキスしたことが気に入らない? 羨ましかったぁ?』



『き、きききき、キスぅ!? なっ!? ヤクモとロミィが? ちょっとヤクモ! どういうこと!? 説明しなさいよ!』



 触否定速が、ククリが僕を見る。う、ううう……あれは不意の事故みたいなもの、だけど僕に後悔は全くないし、否定なんてしたくない。僕の思いも、鎌霧さんの気持ちも踏みにじりたくない。



『マイマスター、どういうことでしょうか? わたしからも説明を願います。精神防御でわたしとのリンクを切って、何をしていたのでしょうか?』



 う、フラウも切れてる。フラウの怒りの感情が、僕とフラウの繋がりを通じてダイレクトに伝わってくる。わたしも怒ってますという意思表示だな、これは……



『どういうことも何もないよ。最初の休戦日の時、鎌霧さんを説得するために二人だけで会ったんだ。でも会ったら説得する気がおきなくなっちゃって、キスされて、デートして……楽しかった』



『うがああああ! ヤクモ! どうせロミィに襲われたんでしょ? なのに満更でもないみたいに……もう、ムカツク!』



『あはは、ククリは雷名くんとキスもしたことないのに、彼女気取り? おもしろ~、雷名くんのファーストキスを奪ったのはこのワタシ! 鎌霧ロミィ、それが変えようのない現実、真実よ!』



『ゴハっ!? うなああああああ!?』



 触否定速が精神的ショックを受けて墜落した。



 ──ビリッ!



「ちょ、痛!?」



『……』



 なんかシートに電流流れたんですけど……フラウは無言だが、僕を見ている気がする。圧を感じる……



『戦場で浮かれ気分のままでいれば死にますよ? 気付けが必要だと判断しました。さっきは、いつ見ても美しいとか思ってくれていたのに……なんだか裏切られた気分です』



 あっ、そっか。フラウが戦闘形態に変身する光景を見て、僕は美しいと思ったわけだけど……彼女たち超魔導鬼械からすると、容姿を褒められてるのと同じなのか。フラウとは心が繋がってるから……口説いてるみたいになってたんだ。変身する時、今までずっと……



『まったく、ククリはお馬鹿ね……だから憎みきれない。純粋で、真っ直ぐ……だから雷名くんの一番なのかなぁ? もしワタシが幼馴染でククリがそうじゃなくても、一番になれなかったのかな? そういうことを考えるとね──何もかも壊したくなる──』



 【──永久廻転大鎌ハルパー・オブ・ウロボロスッ!!】



 永遠輪転が光る光輪の大鎌を構え、墜落した触否定速に向かって急加速する。とんでもない殺気……体の芯から凍らされてしまいそうな程、冷たく怖い。けど、そんな強すぎる殺気だからか、触否定速は正気を取り戻し、地面スレスレを滑るようにして加速、永遠輪転の大鎌を避けた。



『掃射開始! 敵に連携させるな!』



 勝利先導のオーダーが発令される。勝利先導の配下、歴戦の兵士達が連携して、永遠輪転とその配下に対して射撃を行う。これはどちらかというと、敵が自由に動けないように、連携ができないように牽制するのが狙い、制圧射撃ってやつだと思う。でも……この歴戦の兵士達は、ただ熟練した強さを持つってだけじゃない、勝利先導の鼓舞の精霊概念によって、強化を受けている。集中力が高まり、魂の高ぶりはその魔力を増大させる。



だから、他陣営の兵士とは次元の違う強さを持っている。魔力によって威力を増大させた銃弾が、極限集中の精密射撃によって放たれていく、青の魔導鬼械達が、紫の魔導鬼械達を蹂躙していく。



──でも、鎌霧さん陣営には、兵士以外の戦力がある。人造神のリターンによって得た魔獣を前面に出し、紫陣営の盾とした。そして魔獣達は大口を開けて、口からビームを発射した。それに対し青の魔導鬼械達は装備している盾を寄せ合い、一つの巨大な盾を作って魔獣のビーム攻撃を無効化する。その場所に遮蔽がなくとも、彼らは自分で遮蔽を作れてしまうんだ……凄い……でも、盾を構築する者が必要になった分、攻撃の手は少し緩まってしまった。



 永遠輪転は業を煮やし、青の魔導鬼械達の方を見る。でも、勝利先導の銃口は常に永遠輪転を狙っている。青の兵士たちを狙えば、勝利先導が精密な射撃によって妨害を行うことができるんだ。



『うざい、うざい、うざい、ナナミウザすぎるんだけど?』



『戦場では相手の嫌がることをするのが基本でしょう?』



『それは一理あるかもねぇッ──回れ! 【殺戮の大嵐スローター・ストーム】!』



 永遠輪転が大鎌を掲げて、そのままグルグルと回し始めた。すると巨大な竜巻が発生し、岩や砂礫を舞い上げ取り込んだ。回転の精霊概念が宿った岩や砂礫は銃弾の如き殺傷力を持った。それらは竜巻の中から軌道を外れ、投射される。青の魔導鬼械達の構える盾を避けて、盾に隠れる者達を攻撃した。



『そ、そんな……永遠輪転は遠距離攻撃とか、広範囲攻撃はできないはずなんじゃ……』



『ヤクモ君、これは永遠輪転本来の戦い方じゃないわ。この技のエネルギーは、永遠輪転に還らず、循環しない! 他の超魔導鬼械が大技を使う時と同じ、消耗しているはずよ!』



 そ、そういうことか! 永遠輪転は戦況を一変させて、こちらが対応に迷い、混乱の隙が生まれたにも関わらず、追撃してこない! 魔力をかなり消費したから、追撃したくてもできないんだ!



でも、この竜巻が厄介なのは変わりない……回転の精霊概念が付与されているのなら、おそらくこの竜巻は異常な時間、持続し続けるはず……しかも、岩や砂礫を飛ばす攻撃は的確にこちらのみに行われている。永遠輪転は自身をサポートする砲兵を召喚したようなものなんだ。



『この風……風の影響を無視できる触否定速以外はまともに飛べそうにないぞ?』



『ナナミ! 雑魚にあたしの邪魔をさせないで!』



 勝利先導が頷く、それと同時に触否定速は空高く上昇して、降下、永遠輪転へと突撃する。それを見た紫の魔導鬼械達は永遠輪転を守ろうと触否定速に銃口を向ける。しかし、勝利先導がそれを許さない。勝利先導のライフルの銃弾は敵の魔導鬼械達が動き出す前、すでに放たれていた。銃弾が紫の魔導鬼械達を貫く。



そんな中、僕もまた永遠輪転へと接近していた。触否定速の攻撃の後すぐに追撃を行うため、そして紫陣営の魔獣を倒すためだ。竜巻の投射攻撃が僕を狙う、僕は次元境界障壁を使わなかった。魔法装甲に魔力を流すことで、オーバーロードさせ、魔法装甲を暴走させる。



暴走した魔法装甲は、触れた者のエネルギーを食らい、魔法の法則を上書きする。本来はこんな暴走状態を利用するなんてリスクしかないけど、僕には英雄幻想の法則歪曲の力がある。暴走した魔法装甲──



 ──【聖森の怒り《レイジング・フォレスト》】は敵対する法則のみを喰らう。過剰な魔力は魔法装甲を強い光で満たす。不可視だった魔法の装甲は可視化され、魔法装甲でできた光の枝が竜巻の投射物の魔法の力を奪い、光の熱で消滅させた。僕はそのまま魔獣達の中へ入っていき、機体を衝突させる。魔獣は防御障壁を持っていたけれど、その法則を聖森の怒りに食われて、為す術なく塵となる。



よかった、うまくいった。今までの経験上、精霊概念の力を宿した攻撃は、次元境界障壁を突破してくることが分かっていた。だから僕は別の防護策を考えた。魔法装甲自体に法則歪曲の力を付与し、魔法を打ち消した後に強化した装甲で物理的なダメージを無効化、つまりは二段階の防御だ。



『──おらああああ!』



 【──紅蓮天落スカーレット・ヘブンズフォール



 触否定速の加速を乗せた狙撃銃による殴打が、永遠輪転に直撃する。殴打の衝撃、その波は永遠輪転の全身を通り抜けて、過ぎ去った箇所を粉々に砕く。だけど、永遠輪転は倒れない、砕けたのは表層、浅い部分だけだったんだ……あ、ああ……そうだ……触否定速の狙撃銃には……狂気が宿ってるんだ。戦いが始まってからも僅かに感じられていた、永遠輪転の、鎌霧さんの人間味が、温かさが消えた。



『ククリ、後押ししてくれて、ありがと……ほんの少しの引っ掛かりが、ワタシを迷わせていたから』



 鎌霧さんは、永遠輪転の狂気の力を受けても、あまり平常時と変わらないように見えた。だけど、僕は寒気が止まらなかった。



『掴んでしまえば、巻き込める。ぐるぐる、がりがりって──』



 【──肉挽車輪メタルミート・コンサート



 ──バキ、バキバキバキ! ガリッ、ガリ、ゴリゴリゴリ!



 永遠輪転のマントで隠れた背部には大きな穴が空いていた。永遠輪転の腹部、その一部の現実化が解除され、穴が空く。そして穴は背中の穴と繋がった。その穴の中では夥しい数の刃が回転していた。触否定速は、ククリは穴に引きずり込まれて行く。粉砕機に巻き込まれた人が粉々に砕かれて死ぬ、それの巨大人型兵器版だ。



『あっがッ!? が、あああああああ!? た、たすけ──』



 死ぬ、このままじゃ……このままじゃククリが死んじゃう! 駄目だ! そんなの駄目だ──ッ!? 意識が──



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