第17話:対決! 鎌霧さん!




「ボス、彼らの死に様の全てを見ていたのですか? 律儀ですねぇ」



「まぁ見るぐらいは見てやるよ。ワタシは約束したから。自分を裏切らないために、自分がした約束は守る主義なのよ。豚共が最後にワタシの役に立ったのは事実だし、その最後は狂気で輝いていた。まぁ、心底キモイけど、確かに現実に存在してた」



 鎌霧ロミィの支配地域【ヴェノム・ソーサー】その中心にロミィの本拠地がある。ロミィは半グレ集団の紫虎衆シトラスを乗っ取り、組織改革を行った。最早それは半グレ集団などではなく、一つの教団で、紫虎衆は名を【雷霧輪久ライムリング】と改めた。この雷霧輪久とパープルアイズのアウトロー勢力をベースにロミィ陣営は構成されている。



雷霧輪久が教団、宗教的というのはその成り立ちにある。ロミィが紫虎衆を乗っ取る時、ロミィは自身を崇拝する熱狂者を利用した。元々、紫虎衆の幹部内でロミィは有名で目立つ存在だった。ロミィは紫虎衆の稼ぎ頭、一人で組織全体よりも稼ぐ豪傑だったが故に、彼女の存在は紫虎衆内でも丁重に扱われた。幼いものの美しいロミィに手を出そうとする者もいたが、紫虎衆のリーダーがロミィにつけた護衛が、そういった者を返り討ちにした。そして、返り討ちにされた変態を、ロミィは拷問した。



体の一部の皮を剥ぎ、動物の毛皮を貼り付け、その動物のマネをさせた。うまく真似られない者は、その度に拷問される。爪を剥がされたり、骨を折られたり、そうして傷ついた部位をロミィが踏みつける。従順になれない者は、それが繰り返されて、動物の皮の部分を広くされていった。そうしてこの拷問によって従順になった者を「可愛くなったね」と肯定した。それは見せしめであり、男趣味に偏った組織の模様替えでもあった。



 従順なペットとなった変態達の一部には、マゾヒズムに目覚めるものいて、熱心に働き、褒美に罵倒された。罵倒に歓喜し、幸福に打ち震える”アニマルズ”を見て、ロミィとアニマルズの関係性を見て、罪が無いのにも関わらず、アニマルズになろうとする者まで現れた。ロミィはその存在を肯定した、気持ちが悪くとも、目を逸らすことなく、しっかり下等生物として扱った。



社会から肯定されず、いない者として扱われた者、単に美少女に痛めつけられたい者、そんな病んだ者達が、組織外からもロミィの元に集まっていった。ロミィの一言で、文字通り何でもやる破滅的な破綻者を、紫虎衆がコントロールすることなど不可能だった。紫虎衆のメンバー達は、アニマルズを日常で見かけることがあった、それは自宅付近だったり、子供が学校へ通う通学路だったり、コンビニ、喫煙所、そしてアニマルズはメンバーを見かけると、その目を見て笑った。



メンバーとその家族はアニマルズに監視され、いつでも危険が側にあった。そして、紫虎衆のメンバー達が最後の抵抗、組織内抗争で敗北すると、紫猫町の闇はロミィの支配下となった。



「豚共……そう言えば、自爆攻撃を行ったのは全員豚のアニマルズでしたか。豚は多いですからねぇ。自分も少し映像を拝見したのですが、実に満足げで、心底気持ち悪かった」



「そりゃあ夜堂、あんたは人間なんだから、そう感じるべきよ。でも、確かに……全員キモかった、醜くて、愚かで、病気。でも、ワタシの動物としてやるべきことをきちんとやった、可愛いじゃない。だから、生きた意味と、生まれた価値は十分にあった。ワタシのために生まれてきてくれて、生きてくれてありがとう。豚さん達」



 夜堂、唯一人の人間の雷霧輪久の幹部、紫虎衆のリーダーからロミィの護衛を任された男、元はまだ常識のある男だった。しかし、ロミィの影響で、自分に素直になってしまった。妻を捨て、男に走った。夜堂はゲイだったが、自分の本当から目を背け、自分の望みを否定して生きてきた。



しかし、ロミィに襲いかかろうとして返り討ちにあった性犯罪者、罪ある者相手ならいいかと、欲望を解放した。夜堂は非同性愛者を無理やりに犯すことが一番の望みだったのだ。しかし、中途半端に常識人のため、まともな人間相手にはその欲望をの捌け口とすることはできなかった。違法だが、夜堂の心の法の中で、罪深きを犯すことは合法であり。雷霧輪久の神であるロミィに赦された行いだった。まさに天職、夜堂は絶対の忠誠をロミィに誓った。



「ボス、人造神から与えられたリターンですが、魔獣50匹と、魔導鬼械の強化パーツでした。強化パーツはエンジンの出力と燃費を向上させる永続的なモノと、銃弾の貫通力を上昇させる魔法を付与できる消耗品でした。支給された時間はボスの想定通り、一日の終わり、24時でした。まぁ、ブツが投下されるポイントは支配地域内全土をランダムにといった形でしたから、リターンの全容を確認するのに時間がかかってしまいましたが」



「なるほど、全てのリターンを把握するのに一日、効果的に運用するための集積、再分配で三日……実質的に四日のラグがあるようなもの。一応バランスを取ったってことか、奪われても、雷名くん達がすぐにその奪った陣営を倒せば、リターンの強みをある程度無視できる。だけど、失敗したら終わり、結局急襲によって相手を仕留めきれなければ、急襲で失った戦力が相手に渡ってしまって致命的な戦力差になる。元々追加ルール的に雷名くん達は長期戦に向かないようにされていた、人造神は……君主同士が戦うよりも、雷名くんと君主が戦うのを見るほうが好きってこと? 一過性のマイブームなのか、それとも別の理由があるのか……ま、考えても仕方ないか、どのみちやつらには勝てないし」




◆◆◆




『エリアC、突破しました。手筈通り、距離を取りながら注意を引きます』



『よし、敵が釣られて防衛が薄くなった場所を突破、私達はエリアCへ向かう敵増援を叩く』



「す、凄い……本当に委員長の軍と他の陣営の軍じゃまるで練度が違うんだな。現場判断での局地的な戦闘だと、如実に差が出てくる……ミリアは計算の力と爆弾罠で対抗していたから、ある程度拮抗していたんだ」



 委員長が部下たちに指示を出しているのを見ると、勝利先導が指揮官機だってことが実感できる。前のミリアと鎌霧さんとの戦いでは、委員長は部下に指示を行う余裕が殆どなかった。やっぱり本来は、中衛、少し後方ぐらいが適正なんだろうな。



でも、超魔導鬼械に対抗できるのは超魔導鬼械だけだから、前に出ることを強制されている。委員長としては敵の配下を倒して、数的有利を作って、仲間と一緒に戦うのがベスト。他の超魔導鬼械と比較すると事前準備がいる。



『ヤクモ~、あんまし身を乗り出さないでぇ! 落っことしちゃう!』



「ご、ごめんククリ!」



 鎌霧さん陣営の自爆特攻で大きな被害を受け、休戦日となって、それから二日、僕らは鎌霧さん陣営への急襲を決行した。僕とフラウ、英雄幻想は3時間しか戦闘形態を維持できないから、ただの移動に戦闘形態は使えない。そこで、僕と対話形態のフラウは触否定速となったククリの手に乗り、運んでもらうことになった。



大丈夫かなと心配だったけど、委員長の提案だけあってそれは杞憂だった。触否定速は衝撃と反発の力を持つ、その反発の力を使って、僕らを加速の影響から守った。風も入ってこないし、それどころか重力加速度、Gの影響も受けない。そりゃ触否定速は早いわけだ。加速のための障害となるモノの影響を受けないのだから。燃費も良くなるし、常識外れの急加速も可能だ。



『魔獣、あれが人造神のリターン……中央に寄ってから見るようになったってことは、ロミィも急襲を読んでいたから? いやそれなら、突破口を開こうとする私の部下に魔獣を当てた方が効果的だし……戦力を再分配するために、一度集めてる? なるほど、リターンの投下ポイントがバラバラだったのか』



「リターンの投下ポイントがバラバラ?」



「マイマスター、おそらくこれも人造神のバランス調整の一貫ではないでしょうか? 我々は互角の戦いをするだけで、被害分の戦力を敵に吸収されます。なので長期戦とは致命的に相性が悪い、ですが、人造神によるリターンの投下ポイントがランダムでばら撒かれるなら、リターンの全容の把握、効果的に運用するための集積、再分配でラグが生まれる。つまり、敵が我々の戦力を吸収するのには数日の猶予があり、その間に我々が敵陣営を攻めて倒せば、リターンの影響をある程度無視することができます。人造神は短期決戦という一貫性をわたし達の陣営に与え、バランスを取っているのです」



「そ、そういうことか……なんだかんだアルトゥアスはゲームバランスに拘っていたもんな。あれが魔獣、歩く度に脚付近が光って、魔法装甲みたいなのを持ってるのか。見た目はバラバラだけど……なんだっけあれ、そうだ珊瑚! クリスタルでできた珊瑚みたいなのに侵食された動物って感じだ」



 委員長から送られてきた視界データから僕とフラウは魔獣の姿を確認した。数はまばら、移動方向は、委員長の部下が突破した方向じゃなくて、敵領地の中心方向だ。元から中心地へ移動していたのを僕らが見つけたって感じか。あぁ~、ミリアが鎌霧さんと戦えたならなぁ、魔獣が敵と合流できないように罠を張るのも簡単だったのになぁ。まぁ仕方ないよね、同盟が続いてるせいでミリアは鎌霧さんと戦えないから留守番するしかない。それに、ミリアがレッドスピードを守ってくれるから、僕たちは鎌霧さん以外の陣営が攻めてくるリスクに備えることができているんだ。ミリアの爆弾罠は防衛において最強クラスだしね。



『ククリ、魔獣は叩かずに突っ切るわ。おそらく構っている間に合流してくる魔獣の数の方が多い、移動しながら倒せる、敵量産機だけを相手にしながら攻めるわよ。私はこのまま直進して最短ルートで中央に向かう。ククリはまだ突破の完了していない、味方機前方の敵を攻撃しながら、少し遠回りするルートで中央に向かってちょうだい。それでほぼ同時期にロミィとその精鋭部隊と接触することになる』



『了解であります! 勝利先導隊長! ビシッ!』



「って、うわぁ!? あんまし揺らさないでよククリ!」



 ククリが敬礼のポーズを取った影響で揺れる。あぶねぇ~、Gや風の影響は受けなくても、揺れはあるし、僕たちの重さが消えるわけじゃない。委員長が、勝利先導がブースターを吹かせて加速するのが見える。機体が重いのか、加速するのに結構ラグがある感じだ。機体の動作自体は素早いけど、飛ぶのはあまり得意じゃないみたいだ。ブースターを吹かして跳躍を繰り返す感じ、着地する時に大きく地面を蹴っていて、ダン! と結構大きい音が響く。



触否定速と勝利先導の進路が分岐を始めた、するとすぐに勝利先導は見えなくなって、代わりに敵量産機が視界に入るようになった。触否定速が肩に付いたミサイルを、僕達が乗っていない左手を使って取り外し、敵機の上空を通り過ぎる、すれ違いざまにミサイルを下に投げた。



「えぇ!? ミサイルってより、これじゃ爆弾だ……あ、でもすご……滅茶苦茶な動きだけど、威力結構ある。なんか回って暴れるタイプの花火みたいだ」



『射撃能力が消えても、落とすだけならできるし、概念付与をすれば、攻撃力だって強化できるのよ! 名付けて! 暴れ独楽!』



 ククリのミサイル? を使った技、暴れ独楽が炸裂する。敵と衝突する度にダメージを与えながら跳ね返り、ランダム機動でそのエリアを危険地帯にしてしまった。



「す、凄いけど、これは味方を巻き込んじゃうね……」



「ですから勝利先導は私達と別ルートで進んだのでは? 単独の方が広範囲攻撃ができて、殲滅速度も早い、味方機が接敵する前のエリアを爆撃するなら味方を巻き込まない。ミサイルが効力を失う頃には、味方が撃ち漏らしを倒しに来る……しかも合流タイミングを調整して……無駄のない作戦ですね」



 その後も触否定速は敵とすれ違いざまにミサイルをポイポイ投げまくり、敵をしっちゃかめっちゃかにした。それにしても、ミサイルも現実化で生成したものだから、実質的に弾数は無限なのか……これって多分、他の超魔導鬼械も同じだよな。弾数はエネルギーリソースの続く限り生成可能、弾数制ってよりは、エネルギーを消費して使う感じで、機能不全状態になったら、弾は生成できなくなるはず……すでに生成していた弾は使えるかもしれないけど……



『ヤクモ! フラウ! 出番よ! 早く降りる!』



「うん! いくよフラウ!」



 僕とフラウは手を繋いで触否定速の右手から空へと飛び降りた。触否定速の概念の支配空間から出た僕たちを風があおる。



「はい! マイマスター!



──始まりの憧憬、彷徨のその先、黄昏にて重ねよう──時を超えし、夢想の水晶が、不壊の闇を砕くだろう──現実化リアライズ!!



──全領域人機決闘型、超魔導鬼械オルゼミア、原初の零──



──英雄幻想ヒロイック・ファンタジー=フラウレス・ゼロ──!!」



 フラウが銀と水色の竜巻に包まれ、竜巻は僕を空中で拾う。竜巻の中で、僕を包み守るように、フラウの鬼械の体、戦闘形態が構築されていく。魔法が現実化リアライズによって実体を持っていく。不可視のそれが硝子のようになって、集まっていく、硝子は透明から半透明に、そして最後に金属となって、透けなくなった。いつ見ても美しい、幸せだ。きっと、僕はこの先もずっと、この光景を見る度に感動し、幸福を感じることだろう。



『──ショウダウン! フラウレス・ゼロ! 来たよ、鎌霧さん、君を止めるために!』



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