第16話:狂信者こわすぎっ……! 好きな子がヤバイ奴だった




「それから私達は、自分達の魂の一部、分体のみを次元間移動装置を通らせて、マイスターの痕跡を追った。そして、あなたのいる世界、地球に辿り着いた。けど、想定外のことがあった。あの地球のある世界は特殊だったの。地球の強い力に私達は引き込まれて、私達はあの地球に囚われ、自力で帰ることができなくなった」



 す、凄いスケールの大きな話だ……そうか、委員長にとって僕は文字通り希望だったから、僕に執着してたんだ。確かに、こういった理由があるなら、僕のことが好きじゃなくても、僕のために行動してもおかしくない。



「そして、私以外の超魔導鬼械は、地球の巨大な集合意識にぶつかった衝撃で、元の世界の記憶を無くし、人間として生まれてしまった。私は記憶を無くさなかったけど、みんなを導き、いつかパープルアイズに帰還するため、私も人間としての生を受けた。ただ、私はみんなと違って、ベースとなる人間の魂を改造する余裕があったから、人間の私に特殊能力を持たせることに成功した」



「特殊能力? え!? 超能力みたいなのを持ってるってこと!?」



「そうよ。私にも、あなたと同じ、アニマ・アンプリファイアーの能力をもたせた。ただし劣化版だけどね。具体的に何ができるかというと、気合で因果律の破壊が可能よ。言葉にすると仰々しいけど、正直大したことはできないわ。せいぜい人一人分に変えられる程度の因果、夕食を嫌いなものから好きなものに変える程度よ。私はよく中学の給食の献立、レーズンパンの因果をソフト麺に書き換えてたわ。だから実はうちの中学校と同じ給食センターの学校は、レーズンパンが献立から消え、ソフト麺が異常に増えていたのよ」



 く、くだらないことに因果律操作を使ってやがる……



「今くだらないことだと思ったでしょう? でもレーズン駄目なのよ。小さい時にとんでもなくまずいレーズンを食べてしまってからトラウマで、見ただけで吐き気がするのよ」



「そ、それなら仕方ないね?」



「まぁでも、実際大したことはできない。人にできる範囲のことしか変えられない。くだらないと思うぐらいのことが一番干渉しやすい、誰も気にしないような、誰も見ていないようなことの方が変えやすいのよ」



 けどようは運命操作ってことだよね? 凄いのは間違いない。 なんだっけ? バタフライエフェクトだっけ? 些細な影響が後々大きな変化として出てくるみたいなこと、あったりしないんだろうか? でも気合か、じゃあ僕のアニマ・アンプリファイアーの力も気合で使えるのかな?



「でも委員長にも嫌いな食べ物があるんだね。意外だなぁ、別におかしなことではないのに、不思議とそう感じるよ」



「嫌いな物がないほうが良かった?」



「いや、今となっては大事なことなんじゃない? 僕らの人間らしさだよ。それにレーズンが嫌いだなんてまだ可愛げのある方だよ。ククリなんてパン全般が嫌いだよ? 小麦を憎んでるとか言ってるのに、グラタンやシチューは食べるんだ、小麦が使われてるのにさ。アレルギーでもないし、味が嫌いなわけでもないみたいだから謎いよね」



「ふふ、変なの。ククリと結婚したら、隠れてパンを食べるしかなさそうね。でも、ヤクモ君、あなたの言う通りかもしれないわ。自分を見失わないためには、掴まるための、思い出のフックが必要だと思う」



 委員長が笑った……珍しい、というか始めてみた気がする……なんか、画になるなぁ。こんな綺麗な女の子がレーズン嫌いなんだ。



「ふっ、あはは! ちょ、ふ、駄目だ」



「ど、どうしたのヤクモ君!? 急に笑いだして……」



「委員長って、凄く綺麗で、クールな感じなのに、レーズン嫌いなんだって思うと、ちょっと面白くて……ご、ごめんね?」



「ヤクモ君!? そ、そんな笑うことないじゃない! もう、失礼しちゃうわ」



「ふふ、委員長がそんな風に怒るのも始めてみたよ。僕は、君のこと全然知らなかったかし、なんだか壁を作られてるような気がしたから、あまり話さなかったけど……もったいなかったなって。こんな戦いが始まる前に、君の人間らしさをもっと知っておきたかった」



「その、あまり関わらないようにしてたのは……避けてたわけじゃ、でもそっか……避けてたよね。私が勝手に……思いこんでただけで……本当は……え? 待って、あれ? ヤクモ君、さっき私のことを凄く綺麗とか言ってた? 幻聴?」



「幻聴だよ」



 危なっ!? 僕、無意識にそんなこと口走ってたの!? これじゃあまるで、委員長のことも口説きにいってるみたいじゃん! ククリだけじゃなく鎌霧さんも好きとか思って、ただでさえだらしがないのに……



まさか、僕は本質的にそういうヤツなのか? 特に仲が良かったわけでもないのに、ただ可愛いってだけで自分のものみたいに思ってしまうタイプのアレなのか?



「だ、だよね。幻聴だよね……あ、危ない所だった」



 危ないって何が危ないんだろう? でも委員長がこういうテンパる感じで焦るのも初めてみたな。こう見ると年相応の女の子に見える。委員長とは同級生なのに、委員長はしっかりしてて、泰然としていたから、実質年上みたいに僕は感じていた。



「鎌霧さんを倒して正気に戻す。一緒に助けよう」



「……ええ、ロミィは”私が”救うわ」




◆◆◆




 鎌霧さんと休戦日に会ってから六日目、今まで沈黙を保っていた鎌霧さんとその陣営は、ついに行動を開始した。僕たちは鎌霧さんがまずはこちらの戦力を削りに来るだろうと予測し、防衛を重視した配置を行っていた。機動力のあるククリや高機動量産機を中央に配置し、戦闘が発生すればすぐに駆けつけられるように。



委員長は配下と共に激戦区となることが予想されたレッドスピード西側の渓谷を守っている。この渓谷は視界が悪く、身を隠して行軍することが可能だった。ここ以外から攻めた場合、視界の良好な、開けた場所から攻めるしかない。もし正面衝突すれば鎌霧さんの軍は遮蔽や拠点もない状態で、数の差を越えて、勝たなければいけない。



だから鎌霧さんはまず、この渓谷から小競り合いを起こし、戦力を削ってくるだろうと予測した。相手は渓谷から奇襲をかけて、すぐに離脱すれば、戦力を減らさずに、こちらの戦力を削り、削った分人造神からの特典を得て、戦力を強化できる。



 しかし、委員長はそこにも対策を施した。委員長は僕らと同盟を結んでいるけれど、僕の配下ってわけじゃない。つまり、委員長の軍を倒し、戦力を削っても、人造神のリターンは貰えない。だからこそ、激戦区に自分たちを配置した。でも……僕らは見当違いをしていた。鎌霧さんは、僕らとは根本から考え方が違ったんだ。





『あ、ああっ! み、見てて! ロミィちゃん! ぼくが死ぬとこ見てて! ほ、褒めて貰えるんだ。あは、あははロミィちゃーーん!』



 血走った眼の男がレッドスピードの中央の町で叫んでいる。自身の姿と声を魔導カメラで撮り、無差別に発信している。「死ぬとこ見てて」男は言葉の通り、死んだ。



自爆した、待機状態の格納庫にある量産機体、そして戦闘が苦手で、後方支援を中央から行っている子ども達や老人のいるここを、破壊した。状況を理解することもできないまま、多くの人が死んだ。自爆攻撃を行った者は一人だけではない、分かっているだけで30人、一つの命で、数百の命と、数十の量産機体をトレードした。



戦闘はなかった、この日戦闘はなかった。一方的な破壊、こちらが攻撃を返す前に、彼らは事を終えていたから、戦闘になりえなかった。



「そ、そんな……どうやって潜り込んだんだ……どうしてあんな、笑って、死んでいくんだ……」



「き、気持ち悪い……あれがロミィの仲間なの?」



「……あれは、ロミィの……元いた世界の、人間だった頃の部下、狂信者よ」



 僕らが混沌とした状況を追っていると、すぐに翌日の朝はやってきて、休戦日となった。僕たちは改めて。鎌霧さん対策のため、レッドスピードの要塞で会議を行うことにした。



「狂信者? 鎌霧さんの? 待って、どういうことなの?」



「ヤクモ君、あなたもロミィが普通じゃないってことは察していたかも知れないけど、彼女は……危険人物、犯罪者集団のボスよ。私達が高校に上がるちょっと前、紫猫町で、複数の行方不明者が出て、半グレ集団の抗争かって、ニュースになったのを憶えてる? あの時、ロミィは組織内抗争で勝利し、組織のトップとなって、組織を乗っ取ったのよ」



「う、嘘でしょ? だって、鎌霧さん……住んでる家だって、普通だし、家だって全然出ないし……そんな奴らと関わる時間なんてないはずだよ」



 鎌霧さんが犯罪集団のボス? そ、そんな馬鹿な……確かに鎌霧さんは賢いけど、16歳の女の子がどうやったら犯罪集団のトップになんかなれるんだ。まるで現実味のない話なのに……どうして僕は妙に納得してしまうんだ。鎌霧さんの顔、僕を見る、どこまでも深い、赤い眼を思い出す。僕と鎌霧さんはお互いを詮索しなかった……あの眼も、詮索しないのも、それだけの理由があったんだ。



「私も詳しいことまでは分からないけれど、彼女は直接組織と関わっていなかった。パソコンやスマホで、ネットを介して指示を送って、組織を運営していたんだと思うわ」



「ヤクモ、ククリ、信じられへん話かもやけど、ナナミが言ってることは事実や。ウチらは元々、人間だった頃も敵対しとった。ヤクモを狙うウチとロミィ、それからヤクモ守るナナミ。一番の脅威は言うまでもなく、組織の力を持つロミィや。ウチもヤクモを狙ってたけど、ロミィとも敵対してたから、実際の所はウチとナナミが共闘して、ロミィを抑えることも多かった。あいつ……ずっと、ククリを殺そうとしとったからな、それを認めるわけにはいかんかった」



「み、ミリア? それホントなの? だって、あたしとロミィ、ミリアで仲良くしてたじゃん? ロミィ……本当はあたしを殺したいぐらい、嫌いだったの?」



「いや、ロミィはウチのことも、ククリのことも……明確に敵対するナナミすらも……あいつは好ましく思っとる。自分と対等だと思ってるし、友達だと思っとるって言っとった。ククリを本気で殺したいと憎む一方で、本心からククリのことを大事に思っとった。あいつがイカれとるのはそこや……ヤクモ以外の全部を、犠牲にしてもいいと思ってる。それが、自分にとって大事な存在でも……パープルアイズに帰ってくる前から、あいつは狂ってた」



 鎌霧さんが、ククリを、殺そうとしていた? それに、委員長が僕を守ってた? な、なんでだ……みんな、人造神にバグを仕込まれておかしくなってたんじゃ……じゃあこれは、元からあったバグなのか? わ、分からない。



「しかし、こうなると……こちらからロミィを、永遠輪転を倒しにいくしかないのでは……? 昨日の自爆テロによって、こちらの戦力は低下し、穴のない防衛配置も構築不可能になりました。さらに言えば、失った分の戦力を、ロミィ陣営は人造神から手に入れているはず。ヤクモ陣営から戦力を削ったなら、自陣営をその分強化できる、というのが人造神の追加ルールですからね。人造神による戦力強化がどのタイミングで行われるかは不明ですが、だからこそ彼女は、休戦日の前日に事を起こしたのかも、休戦日の間に戦力増強が行われることを期待して……」



「僕もフラウの言う通りだと思う。こちらから鎌霧さんを倒しにいかなきゃ、僕たちは徐々に戦力を吸収されていって負ける。委員長もミリアも、僕も……誰も彼女の行動を予測しきれていない。きっと、これからも意識の外から、鎌霧さんは動いてくるはずだ。多分、僕たちが攻勢に転じること自体は、鎌霧さんに読まれると思う。そのうえで、彼女の予測を超えた攻め方を考える必要があるんだ」



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