第12話:流石ククリ! やっぱ友情なんだよなぁ~




『──戦闘続行!』



『ククリ、ナイン、それ……ああ、ウチに……馬鹿が、あんなん、忘れられるわけないやろ……?』



 【超光一閃アンタッチャブル・ストライク!!】



 ──え? 触否定速が、ククリが消えた? 早すぎて見えないなんて次元じゃない……気づけば赤い光が魔弾機織を貫いていた。触否定速も魔弾機織も、ボロボロで体は真っ二つだ。ククリが、僕を見ている気がした。触否定速の頭部は垂れ下がっていて、地面しか見ることができないはずなのに、僕はそう感じた。



 【──リリースコード! ──幻想響剣アラベスク・スラスト



 僕はククリを倒したあの時の一撃を、魔弾機織に放った。でも、ミリアは僕がこの技を使うまでもなく、すでに正気だった。ミリアの元へと向かう僕を、ミリアは止めなかった。ククリによって進路上の罠爆弾はすべて破壊されていたけれど、それでも少し逸れた場所には爆弾はあったし、それを起爆すれば妨害くらいできた。でもミリアはそうしなかった。敗北を受け入れていた。



『ごめん、ククリ、ヤクモ……ウチが間違っとった。大事なこと、忘れてたわ』



 これでミリアは、僕に倒された。僕たちの陣営の仲間だ。幻想響剣によって、魔弾機織はアニマ計算機構以外の全てを破壊された。現実化が解除された、魔力の残滓が粉雪のように舞った。



『あらら、みんなボロボロ……でもフリーになった雑魚共がワタシを狙うってなると、回復までの時間稼ぎぐらいはされちゃうか……残念、じゃあまたねみんな、雷名くん』



 永遠輪転、鎌霧さんは僕たちの前から去っていった。



『逃げに徹せられるとどうしようもないわね。永遠輪転に追いつけるのは触否定速だけ、でも今は追えそうにないしね。これで一先ず戦闘は区切りね……ヤクモ君、二人を回収して拠点に戻りましょう?』



 僕達はミリアを新たな仲間として、レッド・スピードにある要塞へと帰還した。




◆◆◆




「はぁ、負けた負けた。肝心要はククリに勝てんなぁ……それにしたって無茶し過ぎや……戦っとるこっちが心配になるわぁ」



 レッド・スピードの要塞、ククリの部屋で僕とフラウ、ククリとミリア、委員長で今後について話すことになった。ミリアもククリも損傷が激しく、完全に機能不全状態を脱しているわけじゃないけど、対話形態なら特に問題はないようだった。



「ヤクモが罠の場所を見えるようにしてくれたから。ガルドアイオンを倒した時の技を使う条件が整ってるんだって、すぐに分かったのよ。あの技はダメージを受けないと使えないし」



「そ、そうなの? パーツをパージするとかじゃ駄目なの?」



 確か、超光一閃アンタッチャブル・ストライクだっけ? 見た感じ機体パーツを重さ0で、それ自体が推進力を持つ、衝撃と反発の力で作った疑似パーツに置き換えることで、殆ど概念だけの存在となり、物理法則を超えた加速を可能にする技だと思ったんだけど……



僕が考えた通りなら、別に触否定速がダメージを受ける必要はないはずだ。でも不思議だな、光速を超えたらしいけど、その割には破壊範囲はそれほどだ。それこそ宇宙ごと破壊したっておかしくないのに……もしかして殆ど概念となったから、物理的な干渉力はあまりないってことかな?



まさか……概念、魔法……それ自体に干渉して、そちら側から物理世界に干渉した? じゃあ、ククリはあの技で人造神のバグを破壊したのか? ありえる、というか、それが可能なはずだ。



「え!? ……それ行けるのかな? 試したことないから分かんない……で、でもそれができたらあたしが馬鹿みたいじゃん!!」



「おそらくヤクモ君の言う通り、理論上はダメージを受ける必要はないはずよ。けど、実際には厳しいでしょうね。精霊概念の力をあそこまで強く引き出すには、それだけの意思の強さと覚悟……ようは気合が必要になるわ。ククリは友達を助けるために、覚悟を決めて、全力全開で加速した。だからこそ、あれが発動できたのだと、私は分析している。パージした状態からでも、そういう逸脱した気合を乗せられるなら可能でしょうけど、ダメージを受け、追い詰められた状況から自然にあの技を使う方がまだ安定するでしょう。技を使おうと思って全身バラバラにパージしたはいいけど、使えませんでした……なんて悲惨よ?」



「「確かに……」」



 僕とククリの言葉がかぶる。まぁ、そんな現実甘くないよね……けど、あれだね。委員長から気合って言葉が出ると、なんだか不思議な気分になるね。いつもクールで冷静に見えるし、戦闘形態だって青くて、安定って感じの見た目だったから。ちょっと意外に感じた。



「しかしなぁ、ナナミさえ倒せればなぁ……ウチにもワンチャンあったと思うんやけど……まぁ、無理か。結局、ロミィはウチが思っとったよりも強かったし、頭も切れた。ナナミを倒して、ククリとヤクモを倒しても、ロミィにやられていた。そんな気がするわ」



「ねぇミリア、あんたどうしてロミィと手を組んでたの? 他のやつと組んでもよかった

んじゃないの?」



 ククリの言う通りだ。ミリアは他の君主と手を組む選択肢だってあったはずだし、予想よりも鎌霧さんが強かったと言っても、ある程度は脅威に感じていたはずだ。



「ロミィもナナミを一番危険視しとったんよ。ウチもロミィも、ナナミさえ倒せば後は楽になると思っとった。他の奴らはそもそもナナミを危険視してなかったから、交渉にもならんかったわ。ロミィはめちゃつよやけど、あいつレンジが極端に短いからなぁ。ナナミを倒すとなると、ナナミに接近する必要がある。けど、ナナミは不完全現実化でダミーを大量発生させられるし、軍隊指揮も得意……レンジが短いってことは、それだけナナミのダミーに振り回されるっちゅーことや。そんで無駄に偽物を攻撃すれば、その隙をナナミの鼓舞で強化された兵の銃撃がボーンや、くっそめんどいやろ?」



 想像してみた。僕が永遠輪転だとして、体力が無限だったとして、永遠に勝利先導のダミーを破壊し続けて、大量の兵にチクチクと一斉射撃をされる様を……う、ウザすぎる……長期戦自体は永遠輪転も得意らしいけど、これはちょっとなぁ……待てよ? そう言えば委員長、あの戦いで途中から不完全現実化を使わなくなったよな?



僕とククリが、ミリアの爆弾罠の仕掛けられた領域に入ってしまった時からだ。遠くの方ではダミーを出してたけど、近くでは使わなかった。近くで使用して……爆弾罠を起爆させてしまったら、僕とククリがダメージを受けるからか!



「そっか、ミリアは委員長と僕らが組むの分かってたから、僕達を使って委員長がダミーで爆弾処理するのを制限させたのか……じゃあ、ククリが強引に突破しなかったら本当に危なかったんだなぁ」



「いや、ウチにはそう思えへんかったな」



「そ、そうなの?」



「ククリとヤクモはともかく、ナナミとロミィは本気を出しとるようには見えんかった。なんでロミィは、ウチが倒されたタイミングであっさり引いたのかが分からん。回復が間に合って人数差を作られたらどうこう言ってたけど……それでもナナミを殺る絶好のチャンスやったはず……ナナミも、ロミィが逃げるのを止めへんかったし、納得いかん」



「……ミリア、あなたとロミィの同盟は今でも続いているんじゃないの? 確かあなた達が直接対決する段階になるか、どちらかが先に脱落した場合にのみ同盟は解消されるのよね? これをそのまま解釈すると、同盟はまだ続いているんじゃないの? 直接対決、つまりゲーム最後の二人にはなっていないし、脱落もしていない。陣営は変わったけれど、ゲームから除外されたわけじゃない、ゲームを続行している」



「えっ!? ちょっと確認するわ……」



 ミリアが両手を前に出すと、そこから光の球が現れた。なんだろうこれ?



「ほ、ほんとや……同盟は、ウチの魂に刻まれたままや。ウチは……ロミィと戦うことも、邪魔をすることもできん……でもそれならあいつだって、ウチの兵がおったら攻撃できん……あ、そうか……ウチはヤクモに倒されたからウチの配下は、ヤクモの配下扱いってことになるんや……ロミィがウチの配下だったもんを攻撃する分には問題ないんや……そう言えば同盟の指定もウチじゃなくて、ウチとロミィの陣営そのものに掛かっとるんや、ウチの陣営はそもそも消滅しとるから……ロミィが、ヤクモ陣営を倒した結果、ウチが死んでも、条約違反にはならない……クソっ……まさか最初からそれが狙いだたんか? あいつ」



「流石に、最初からここまでロミィの計算通りというのは無理があるのではないですか……? そもそも彼女にとっても、ミリアが同盟の条件の穴をついて裏切ることは予想外だったみたいですし、状況を見て急遽修正したと考えるのが妥当だと思います。わたし達を使ってミリアを排除するというのは考えていたかもしれませんが」



「私もフラウと同意見よ。ロミィも頭は切れるけど、万能ではない。けど、彼女から見て、ミリアが厄介だ、というのは間違いないでしょうね。ククリがミリアの爆弾罠で追い詰められたことが、ロミィでも起こるはずよ。今のククリとロミィは殆ど同系統の戦い方、高速機動と高火力近接戦闘に偏った性能をしてるから、再現性はあるはずよ。ロミィにとって邪魔な一位、二位を争わせ、排除する。それがロミィの狙いだったのよ。ただ、ククリとヤクモ君が状況を覆した結果、同盟の拘束力を利用してのミリアの排除までしかできなかった。けど結局、ロミィは損をしていない、自分の兵隊の損失0で、ミリアを排除したんだから」



 ……そうだ、確かに僕達はミリアに勝ったと言えるけど、実際にはそれは、鎌霧さんの勝利でもあったんだ。まるで、鎌霧さんを中心にして、僕ら全員が踊らされていたみたいだ……鎌霧さんは機体性能も圧倒的だったけど、真に警戒すべきは、その頭脳と、精神性なんだ……



アクシデントが起こっても、自分が得をするように、中心になるように、修正して、周りを動かしていく。戦いでも受け流すのが上手かったけど、戦略面、立ち回りにも同じことが言える。これも鎌霧さんの精霊概念、回転と吸収が関係しているんだろうか? いや、まさかね……けど、実際そんな感じに見えてしまう……



「ミリアが鎌霧さんとの戦いで役に立たないっていうのは確定したけど、そうなると……鎌霧さんが狙うのは委員長だ。次、鎌霧さんが仕掛けてきたなら、それは……委員長を全力で殺しに来るってことだ。対策を考えないとね」




◆◆◆




「おぉ……あれ、ガルドアイオンを倒した時の技じゃん……」



「忌々しいわぁ……アルトゥちゃんも嫌な気持ちになっちゃったよねぇ?」



 魔弾機織が触否定速と英雄幻想に倒されるその時を、人造神達は聖王宮で見ていた。かつてガルドアイオンを倒した触否定速の技に、エルトゥエラは不快感を隠さない。



「熱いねぇ……」



「え? アルトゥちゃん!?」



 アルトゥアスの呟いた予想外の一言に、エルトゥエラは口を開け、唖然としている。



「別に不快じゃないよ。あの時、あいつらがガルドアイオンを倒した時も、実は熱い展開だったんだよ」



「え!? アルトゥアスちゃん1? あのあのあの?」



「いやねぇ? ヤクモンがめっちゃキレイな技使ったでしょ? あれから気になって、ヤクモンを調べたんだよねぇ~だって、どういう体験をして、どう育ったら、あんなキレイな技を思いつくのか気になった。だから、ヤクモンがハマってるらしい、機動王シグルスってアニメを見た」



「えぇ? アニメって人間共が見てる、娯楽作品でしょう? 嘘しか言ってない、滅茶苦茶な癖に、わたし達が現実にできる程度のことしか見せないアレのこと?」



「そうそう、それのこと。でも、ヤクモンがあれだけのことをした秘密があると思ったら、真面目に見ることができたの。そうしたら……最悪だった」



「え? 最悪だったの?」



「うん……あちしが応援しようと思ったキャラ、好きになったキャラがみんな死ぬから。でも、あちしはそれをどうすることもできない、だってアニメだし、その世界は、その世界で完結してるから……でも、面白かった。主人公のこと全然好きじゃなかったけど、死んでいったあちしの好きなキャラ達の思いを乗せて戦うのを見て……あちし、なんか……変な感じになっちゃった。あちしから見ればどうしようもない雑魚共なのに、多分あちしは一緒の気持ちになってた。その変な感じが、熱いって言うらしいよ? あちし達は圧倒的な強者だし、他を蹂躙する側の視点しか持たなかった。だから分からなかった、やつらの言う理不尽だと、恨み言を言って死んでいくあの様、そこにどんな感情と意味があるのか」



「まさか、アルトゥちゃん……人間どもに共感して、同調してるの?」



「まぁそうかも。とにかくあちしは熱いっていうのが分かった。視点を変えれば、ガルドアイオンを倒された時も、ククリンがミリアンを助けたのも、熱い展開だったんだ。あちし達が思う以上の沢山の強い力と感情がその場所にはあった。理不尽の持つ意味が深く理解できた、好きキャラが死ぬとしても、自分ではどうしようもできない、その感情は、大きな苦痛を齎すんだ。大きなことだった、あちし達が思うよりも。だからこそ……それを──全力でぶっ壊せば、最大限に蹂躙を楽しめるんだよ!」



「ですよねぇ~アルトゥちゃん! わたしにも見せてよ。わたしもちゃんと真面目に見て、理解を深めて、全力で楽しみたいから!」



 人造神は弱者の感情に理解を示し始めた。しかし、その理解は弱者への歩み寄りに使われることはない、ただ楽しむためだけに使われる。



「じゃあ、明日は戦闘禁止にしよっか! 明日機動王シグルスが放送されるし、リアルタイムで見たいから。それまでにエルトゥエラに視聴追いつかせないと!」



 が、因果は奇妙な結びつきを生み、君主達に休息の時を与えた。戦いのない、かつての日常に近い、面影のような時だった。その日、唐突に、週に一度の休戦日が生まれた。人造神以外はその理由を知る由もない。



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