第11話:限界突破




 遠い昔、パープルアイズの命達がまだ、人造神勢力に完全敗北するよりも前。人造神はパープルアイズにかつて存在した危険生物、魔獣を復活させ、パープルアイズの人々と戦わせる遊びをしていた。魔獣は圧倒的な力を持っていたが、10機の超魔導鬼械達だけは互角以上に戦うことができた。しかし、それ故に、超魔導鬼械達は人造神の怒りに触れた。



『はぁ、こっちは魔獣が気持ちよく蹂躙してるのがみたいのに、頑張りすぎだよ。邪魔邪魔、お仕置きしないとだ。やれ、ガルドアイオン!』



 パープルアイズの南半球、そこには始めて人造神がやってきた時にできた巨大クレーターがあった。この巨大クレーターに人造神は災厄の魔獣、ガルドアイオンを復活させ、さらに改造を施した。超魔導鬼械達はこれを打ち倒すため、巨大クレーターに集結した。



『ぐ、あああああああ!?』



 最初にガルドアイオンの熱線攻撃の餌食になったのは勝利先導ヴィクトリーリードだった。勝利先導を焼いたガルドアイオンは、嘲笑っていた。醜悪な管まみれの、山と見紛うこの巨大なトカゲは、超魔導鬼械達を脅威に感じていない。超魔導鬼械達が行った全ての攻撃を弾く、絶対防御障壁があったからだ。



『……そ、そんなっ、広域現実化が……使えない?』



 熱線の威力は超魔導鬼械を殺す程ではなかった。しかし──



『生意気に抗うから悪いんだよ? この魔獣、魔法の根源を破壊できるんだってねぇ? あちしがちょーっと改造して、あちしが気に入らない所だけをしっかり破壊できるようにしたんだぁ。お前らの大事な大事な、造られた意味を、能力を奪ってやるよぉ!』



 熱線を受けた者は魔法能力の根源を破壊される。概念そのものである精霊概念の力を消すことはできなかったが、超魔導鬼械の戦闘力と、その尊厳を奪うには十分だった。



『みんな、熱線を避けてっ! 取り返しが、つかなくなるッ! 逃げるのよ! 勝つために!』



『はは、健気だねぇ? 勝利先導ちゃん? でもほんと、お前が一番ウザかったから最初に壊そうと決めたんだよね。あとは魔弾機織もうざいよねぇ? 結局、広い戦場全てに干渉できるのがうざったいんだ。ばかすか撃ちまくって、あちしが作った魔獣をあっさり全滅させて、つまんない! 死ねよ!』



 魔獣ガルドアイオンの熱線が魔弾機織を襲う。熱線は命中する。



 ──ジュウウウーーッ!



『ナイン!? なんで、なんでウチを庇って……おまえが庇ったところで、防ぎきれるわけないのにっ!? この馬鹿ッ!』



 触否定速が魔弾機織を庇った。しかし熱線は触否定速を貫通して、結局魔弾機織を焼いた。



『勝つため、勝つために必要だから……あいつはあんたのことが嫌い、強いから壊したがってる。守らないと、勝てないって……思った……』



 触否定速がその手に抱えた狙撃銃をガルドアイオンに向けてトリガーを引く。カチカチと、音だけが響く。何も、起こらなかった。



『射撃能力……なくなっちゃった。そっちはどう……なの?』



『馬鹿、馬鹿!! こっちも全然撃てへんわ! こんな、こんな飛ばせん弾出せるだけじゃ……戦えな──』



『──良かった。あんたは全部、なくなったわけじゃないんだ。ちょっと、残ってる。だったら、まだ勝てる。あんた強いし、なんとか……なる』



 魔弾機織は絶望した。自身の射撃能力の殆どを失い、自分を庇った触否定速は射撃能力の全てを失ったから。己の不甲斐なさに、魔弾機織は震えた。



『何言うてんねん! お前も、射撃特化型やんか! それが射撃能力を全部失ったら、役割はもう持てん──』



『はは、あたしは触否定速だよ? 触れ得ざる加速……まだ、まだ強い所はある。スリー、あたしが突破口を開く、だからあんたがあの魔獣を倒して』



『倒すって、どうやって倒せば……こんな状態で』



『それはあんたが考えるのよ。絶対できる。だって、あんた賢いもん! 助けてあげたんだから、あんたはあたしに借りがあるの。貸しはちゃんと、返してもらう』



 触否定速には作戦らしい作戦はなかった。ただ、魔弾機織、スプレンディッド・スリーを信頼していた。近い射程だから、共に戦うことが多かった。だから触否定速は、魔弾機織を誰よりも信頼していた。例え魔弾機織が射撃能力の殆どを失ったとしても、魔弾機織は強いのだと、信じて疑わなかった。



触否定速は加速する。魔獣ガルドアイオンへとまっすぐに。魔獣から熱線と、棘のような生体ミサイルが放たれる。それらは触否定速に無慈悲に直撃していく。人造神が改造を施した魔獣の攻撃は精確で、触否定速にすら回避を許さない。触否定速の全身からパーツがこぼれ落ちていく。



【──警告、警告、戦闘続行不可、離脱と機体修復を提案します。警告、警告、ダメージ甚大、作戦続行不可──】



 触否定速のアニマ計算機構、魂に、機械計算機の警告が響き渡る。このまま触否定速がガルドアイオンへと突撃を続行すれば死ぬ、いや戦闘の続行すら不可能だと警告する。



『──煩い、戦闘は続行可能! 戦闘は続行可能! ここを逃せば勝てないの! だから黙って! 戦闘は──続行可能ッ!!』



 触否定速、その魂であるオーバーリミット・ナインは機械計算機構の警告を無視、自身の意志で、逃走しようと体に奔る機械計算機構の命令を上書きした。全身のパーツが破壊されこぼれ落ちていく──ナインは、その事象に反発した。



自身の根源たる精霊概念、衝撃と反発、その力を使って機体フレームを固定、圧力をかけることで、パーツの分離崩壊を防ぎ、パーツのない場所は、衝撃と反発の力で生み出した圧力によって空間を作り、擬似的なパーツとして補完した。触否定速に機体の修復という選択肢はない、修復にリソースを使えば、機能不全状態となり、加速も中断されるからだ。



元々触否定速の推力の殆どは精霊概念、衝撃と反発の力が源泉、核であるアニマ計算機構さえ無事であるなら、加速は可能。むしろ、加速のみを考えれば、この状態こそが真の最高加速だった。



触否定速を生み出したマイスターですら想定していなかった限界突破──触否定速は、光の速さを越えた。触否定速が魔獣ガルドアイオンと激突する。人造神が改造することで付与した絶対防御障壁、それを触否定速は破壊した。



『う、嘘でしょぉっ!?』



 触否定速の限界突破に驚き、唖然とする人造神アルトゥアス。しかし、異常な光景であるにも関わらず、触否定速の動きに連なる者がいた。魔弾機織もまた、触否定速を誰よりも信用していた。状況が理解できなくとも、魔弾機織は迷わない。魔弾機織はガルドアイオンの絶対防御障壁が剥がれたその腹に激突し、全身に弾丸を纏って起爆した。一見自爆攻撃に見えるそれは、魔弾機織の計算能力によって、敵対者のみにダメージを与える。射程がないからこそ、その分のエネルギーを破壊力に回した究極の弾丸。



 【──王手我弾チェックメイト・オールバレット



 ガルドアイオンは触否定速と魔弾機織の魂の一撃によって、全身を爆破され、完全消滅した。触否定速は仲間たちの希望を守った。自身の存在意義の片割れを犠牲にして、代わりに狂気を手に入れた。己のを動かすシステムさえも狂わせる狂気の衝動。触否定速の魂、オーバーリミット・ナイン、超魔導鬼械で最初に限界を越えた者。



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