第9話:プライドと計算
オレンジと群青色の竜巻が僕、英雄幻想と触否定速を吹き飛ばした。竜巻は、オレンジ色の魔導鬼械、ミリア陣営の量産機の残骸から広がった。量産機の残骸? そ、それじゃあ……
『どうやらロミィに一杯食わされたようね。ここは戦場だった場所よ。戦場は移動していた……静かに、素早く、私達に違和感を抱かせないように、ミリアは兵隊を移動させて戦場をずらし、ここを罠のない場所であると誤認させた。そして、私達はロミィに釣られ、罠のある危険地帯に引き込まれた。ごめんなさい、ヤクモ君……攻撃を命中させることに集中し過ぎて、気づくのに遅れてしまった。私のミスよ……』
『あんな凌ぐことだって至難の業な戦いの中で……自分の不利を演出して、僕らを誘導しきったっていうのか?』
──ボガァ!
『う、あああーっ!??』
爆発音、触否定速は空中で加速しながら、この誘導されたエリアに入ってしまっていた。だから当然、ミリアの、魔弾機織の罠は発動する。触否定速は空中に仕掛けられた不可視の爆弾の爆発で地面に叩き落され──
──ドガドガドガァ!
触否定速は地面に叩き落されさたその先で、また爆破される。爆風で吹き飛ばされ、その先でまた爆破される。高度に計算されたそれは、ドミノのようにキレイに連鎖した。爆発の音が鳴り止んだ頃、触否定速は半壊状態だった。最早まともに動ける状態じゃない……触否定速はダメージを修復するためにリソースを使い、機能不全状態となってしまった。
爆破が止まったことにより、爆風によって巻き上げられた土埃は晴れて、視界が開けていく。この爆破を仕掛けた存在の全貌、そのシルエットが明らかになる。オレンジと群青色の大型の機体、今までみた超魔導鬼械は全て25mくらいだったけど、この機体、
でも、肩と腕は装備された砲身で重そうだ。機動力はあまりなさそうだし、近接武器も見当たらない。単純な殴り合いはあまり強そうじゃないな。近距離戦を想定していなくて、砲撃戦に特化しているんだ。ただ、触否定速と違って圧倒的なスピードがないのだとしたら、近接戦闘に戦法を寄せて、シフトさせるなんてことは無理そうだ。
『はぁ、全く、この爆破をする度にイライラするわ。こんなブサイクな戦いしかできんようなってしまって……スプレンディッド・スリー、素晴らしき三、皮肉でしかない。ほんま死ねや人造神……ヤクモ、ナナミ、負けを認めてくれへん? ナナミは降参しても死ぬことになるけど、ウチは苦しませて、殺したいわけじゃないんよ。勝敗は決した、ヤクモはもう一歩でも動けん、動けば罠に絡め取られて終い。このままずっと動かんでも、あるんやろ? 時間制限。どう見てもエネルギー計算合わへんからな。時間制限付きの高性能機体、そんなとこやろ。時間切れになったらウチらはプチっと潰すだけで終わる。ナナミだけ安全な場所におっても、単体じゃウチとロミィの二人を相手取るのは不可能』
『諦める? ふふ、私はそれができるようには作られていないのよ。どんな状態からでも勝利のために思考し、実践する、私は勝利先導──最後には必ず勝利する』
『……チッ……せっかく、人が慈悲を与えてやろうって……ほんまにムカつくわ……』
『ムカつく? 恐怖を感じているの間違いじゃなくて? ミリア、あなた指先が震えているわよ? どうして追い詰めている側のあなたが、恐怖を感じているのかしら? 私達を倒してしまったその先を考えてしまったから? あなたの同盟相手、あまり手段を選ぶようには見えないし、あなたの思考の外側で動けるみたいだけど、私達を倒して、同盟が終わったら──あなた、永遠輪転に勝てるの? 人造神に射撃能力を奪われて無様に小手先の児戯に頼るしかない、頭でっかちなゲーマー風情が、永遠輪転に勝てるの?』
『おまえ、お前ェ!! 人がどんな気持ちで、今まで、戦ってきたと思ってんねん! いや、分かっとるよなぁ? ナナミ、お前だって、人造神に一番大事な力を奪われたんや……なのに、どうしてそんなこと言えるん? お前最悪や、死ねや!』
う、や、ヤバイ……委員長煽りキツすぎでしょ……鬼なのか? でもこれも多分委員長の作戦なんだ。ミリアに精神的な揺さぶりをかけてるんだ。委員長がそれで何を狙っているのかは分からないけど……
ミリアが戦闘形態になる時、ミリアは魔導自由砲戦型と言っていた。砲戦型……射撃型、中距離から遠距離の射撃を行う機体だったってことだ。でもミリアはこの戦いで砲撃を一度も行っていない、そして人造神に射撃能力を奪われたって……自分の最も得意とする、プライドみたいな戦い方が、できなくされてしまったんだ。ミリア、きっと苦しかっただろうな。
『ブサイクな戦い方なんかじゃなかった。凄いよ。自分の一番得意な事を奪われても、ミリアは諦めずに、自分なりに戦う手段を生み出して、戦ってきたんだろ? 凄いことだよ。カッコイイことだよ。そしてそれが、僕らをここまで追い詰めた。委員長も言い過ぎだよ。委員長だって、ミリアと同じ思いをしてきたんでしょ? だったらあんなこと言っちゃ駄目だ、きっとミリアだけじゃなく、君の心だって傷つけたはずだ。だからもう一度言うよ。君達は凄い、だって僕は、カッコイイと思ったから』
『や、ヤクモ……』
『ヤクモ君……』
『僕もそんな君達に負けたくないから、僕は諦めない。この英雄幻想は、無限の可能性を持っているから、君達が悲しい思いをしないで済む未来だって、切り開けるはずなんだ!』
『ヤクモ君、ミリアは私と同じで、ほとんどバグがない。深刻なバグを抱えていたら、私やヤクモ君を思いやって降伏を促すなんて真似はしない。だから、おそらくだけど……半壊程度のダメージでも正気に戻る可能性があるわ。つまり、正気に戻すだけなら、ヤクモ君でなくても大丈夫ってことよ』
委員長が僕とククリにだけ伝わるように念話をしてきた。ミリアと委員長にはほとんどバグがない? 能力を人造神に奪われたけど、精神面? のバグはあまり発現しなかったってこと? じゃあ、自然発生的なバグじゃなくて、人造神にバグを仕込まれて、そのせいで殺し合いをしてるってことも考えられるんじゃ? いや、多分そうだよな……元々抱えたバグもあるけど、さらに人造神によって汚染されてるんだ。まぁ今は、この状況をどうにか切り抜けないとなんだけど……
『ミリア、鎌霧さん。本当に殺し合いをするべきだと思ってるの? 違和感を感じたりしてるんじゃないの?』
永遠輪転と魔弾機織の反応を見る。二人共少し反応があった、魔弾機織は顔を僕から背け、永遠輪転は飛行しながら少し跳ねた。二人共自分の中の、人造神に仕組まれたバクに、ちゃんと違和感を感じてるんだ!
『あー、そうだね。そういことかぁ、認識阻害まで使われてるんだ。でも雷名くん、ミリアはともかく、ワタシは殺し合いをするべきだと思ってるよ。正気のワタシも、狂気のワタシも、全部が、雷名くんのことだけを見てるから。全部殺して、あなたが手に入るなら、それで構わない。友情なんて、些細な止まり木のようモノ、帰る場所があるならいらないの』
『……もう、もう遅い……ヤクモ、もう殺したんよ。ウチはもう、始めてしまったから、後戻りなんてできない。もう、勝つしか、道はないねん……だ、だから……』
ミリアは震えている。その一方で鎌霧さんはまるで動じていない、それどころか、覚悟をさらに固めたように見える。ミリアはどうにか説得できるかもだけど、鎌霧さんは無理そうだ。僕は、鎌霧さんを止められるだけの説得力を持っていない気がする。
なんていうか、鎌霧さんからは凄みを感じる。僕がどんなに戦いを止めたいと思っていても、彼女はそれ以上の強さで、立ち止まらないことを、望んでいるように感じた……つまり、付け入るだけの隙があるのはミリアだけってこと。ごめんミリア、僕は君の弱さを見逃す余裕なんてない……僕はこの場で、圧倒的な弱者だ、勝つために、突ける隙は突いていく。考えろ、考えるんだ。ミリアの、魔弾機織の爆弾罠を攻略する方法を!
『──ずっと、魔弾機織の力、計算と流動のことを考えていた。計算は分かる、でも……流動って、どういう力なんだろうって、よく分からなかった。それも──今分かった。流動は、液体、形態を変化させる根本、流れそのもののことだ。流れを予測すること、それが計算であり、計算は流れを作るモノでもあるんだ。ミリア、君の爆破は、魔力を流体化させ、エネルギーをその内部で運動させた後、魔力の流体化を解除、急激な変化によるエネルギーの衝突によって、不可視の爆破を引き起こした! 爆弾の罠が見えないのは、それが魔力によるモノだからだッ!』
『……ッ!?』
魔弾機織の上体が微かに揺れた。ミリアは動揺している。冷静であったなら、僕の予測が合っていたとしても、反応することもなく、僕に答えを教えることもなかっただろう。でも、今のミリアは冷静じゃない、技の法則を、僕に曝け出した。仕組みが確定したなら、僕達に、英雄幻想に砕けぬ不可能はない!
『解き明かせ! 魔力の鼓動──
これは現実化が行われる前の段階で、魔力と物理エネルギーの融合を止めた状態だから、実体化せず、目に見えることがないんだ。僕は、フラウから魔法装甲の仕組みを聞いていたから、これに気づいた。
魔法装甲は普段目に見えないけれど、衝撃を受ける瞬間に実体化し、攻撃を跳ね返そうとする。攻撃によって与えられる物理エネルギーを、魔法装甲内にある魔力と融合させ、攻撃の威力を低下させると共に、実体化、弾いて防御する。そして魔法装甲が実体化する瞬間、それは光を放つ。
だから魔法装甲と繋がる、実体化した装甲の接続部は、機体重量を支えるために受けるエネルギーと反応し、常に発光している。魔弾機織の爆弾、その爆発に似た光を放つ! 破壊を伴わない強い物理エネルギー、魔力干渉のできる特殊光線の照射、それが幻想現実化。光はただ通り抜けるだけ、しかし、通り抜けた魔力の一部を現実化させる。
『──オレンジの光! この光る場所が! 魔弾機織の罠のある場所だ! 魔導レーダーすらも欺く、巧妙な偽装も、強い光は貫通して、内側から魔力を実体化させるッ』
戦場を幻想現実化の光が通り抜け、その通り道にはオレンジの光が輝いていた。
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