第7話:駆け引きとかよくわかんないよ~……




「さ、これにサインして、同盟の締結証明証よ。魔力で魂を呪うから同盟を反故にすれば、反動で魂が削られて再起不能になる。もし私と敵対したくなっても、必ず同盟の破棄を宣言してからにしてね」



「う、うん……」



 お、恐ろしい~……なんだかまるで悪魔との契約みたいだ。でも魔法のある世界だったら、こうした強い拘束力を持った約束ができるんだ。とりあえず僕らの拠点であるレッド・スピードの要塞で正式な同盟を結んだわけだけど……委員長の話が本当なら、あと30分もすれば……あれ? あと10分しかない!? 敵が来るまでそれだけの時間しかないの? ああ……そうか、同盟の内容を書面でもしっかり確認してたら、思ったより時間がかかっちゃったのか……



「──どうやら、私の予測よりも早く彼女が来たみたいね。過小評価していたわけではないけど……修正が必要ね。ヤクモ君、ククリ! ミリアが攻めて来たわ、超魔導鬼械は超魔導鬼械でしかまともに戦えない、被害が広がる前に私達で迎撃しましょう」



「ミリアが……僕たちを?」



 ミリアはゲームに乗り気だったけど、こんなに早く戦うことになるなんて……ど、どうしよう……僕もククリも、ミリアにゲームや駆け引きで勝ったことなんてない……か、勝てるのか? そ、そうか……だから委員長は僕達と強引にでも同盟を……僕達だけじゃミリアに対して勝ち目が薄いから……けど、委員長、委員長でもミリアに対抗できるんだろうか? 僕は不安を抱えつつも、戦場へと移動した。




◆◆◆




 レッド・スピードの荒野を北へ抜けた先、大河と凍った地面の広がるその場所に、魔導鬼械オーガマトン達がひしめく戦場があった。



「青いのは委員長の、赤いのはククリの陣営の魔導鬼械でしょ? じゃあ、あのオレンジ色のはミリアのってことか……青は連携とれてるけど赤いのはあんまり動きがよくない?」



「私の陣営は元々軍で戦ってた者も多いし、指揮系統も整理されているから。逆にククリの所はあまり戦闘の経験者は少ないし、指揮系統もバラバラ、ククリの不得意な領域だから致し方ないことだけど、後でちゃんと修正しないとね」



「うっ……ちょっとナナミ? 確かにあたしは上に立ってあれこれ言うのは苦手だけど、あたしの仲間をそんな雑魚みたいに言わないでよね!」



「けれどククリの元に戦闘経験のない弱い兵が集まったのは事実よ。さらに言えば、あなたの強さを見て、守ってもらいたいと思って来てるから心も弱い。そして戦略面の欠けたククリと共に戦ってこのゲームを勝てると思っているのだから、頭も弱いわ」



 言い方! でも、やばいじゃんそれ……ククリの配下はすべてにおいて弱いってことじゃないか……



「まぁでも、そんな弱い兵が集まることを知った上で、守るために来た戦闘経験者もいる。彼らは強い。ほら、いくつかのポイントで赤側で勝ってる所があるでしょう? まともに連携が取れていない中で戦果をあげている。これが強い戦闘経験者のいるポイントよ。私ならこうした部分を確実に叩き潰すわ。おそらくミリアも同じことを考えるでしょう。けど……ミリアはまだ戦場に姿を現していない」



「ど、どうすれば……あ、でも僕らは超魔導鬼械が3機あるんだ。そういう数の面では僕たちの方が上だから、3人のうちの誰か一人が戦場出て被害を抑えに行く分には問題ないのかな?」



「マイマスター、わたしはまだその段階ではないと考えています。ミリア、スプレンティッド・スリーは計算と流動という精霊概念を持っています。ミリアは戦場に現れていませんが、必ず動いているはずです。高い計算能力を用いて、罠を戦場に仕掛けているかと。超魔導鬼械は対話形態でも能力の使用が可能です。目立たぬように隠密行動して、罠を仕掛ける程度造作もないはず」



 計算と流動? その力があったからミリアはゲームで滅茶苦茶強かったってことか……でも計算はともかく流動ってなんだろう? ドロドロの液体にしちゃうのかな? それともこう、流れを読むとか、流れを作るとかそういう感じ? どのみちヤバそうだ、ヤバくない超魔導鬼械なんていないのかもだけど。



「ミリアの計算能力は私でも対応できるからそこまで気にする必要はないわ。おそらく彼女はフラウの考える通り、戦場に身を隠しながら罠を張り巡らさせ、情報収集を行っているはず。こちらの居場所を特定し、罠で私達の行動を制限、直接戦闘をせずに私達をしとめる……それが最終的な彼女の目標。しかし、目標が私達であるなら対策も立てやすい」



「た、対策? それってどんな──」



「──不完全現実化ハーフマテリア・ミラージュ



 委員長が詠唱をした瞬間、戦場の各地に、フラウとククリの戦闘形態、そして委員長の戦闘形態であろう青い超魔導鬼械が出現した。だけど、フラウもククリも委員長も、僕の目の前にいたままだ……



「もしかして……幻影、幻を展開したの? 委員長の精霊概念が幻影とか幻惑ってこと?」



「いいえ、私の精霊概念は鼓舞と集中よ。これは機体側の機能……というか、その名残よ。昔は超大規模現実化が可能だったのだけど、人造神にその機能の殆どを破壊されてしまったの。だから、少しダメージを受けただけで崩壊してしまう、不完全な現実化を広範囲にばら撒くことしかできない」



 ──チュダーン! ボガガァ!



「え!? 爆発音?」



 戦場を見ると色んな所が爆発していた。全て委員長が僕たちの偽物を展開したところだ。



「やはり、私達にだけ反応する罠も用意されてるわね。私の不完全現実化で生み出したモノは実体を持っている。不安定ですぐ壊れてしまうけど、壊れるまでは本物か偽物か、見極めるのは難しい。そしてこの力は攻撃力は皆無だけど、燃費はいいのよ。だからこうして連続使用もできる──不完全現実化ハーフマテリア・ミラージュ!」



 今度は僕たちでなく、僕ら陣営の量産機の偽物が、敵陣側に展開された。すると、また爆発音が鳴り響いた。そ、そんな……敵陣で大爆発が起こったはずなのに、敵機は無傷だ……明らかに爆発の範囲内だったのに……



「なるほど、ミリアはわたし達だけでなく、その配下を攻略することも狙っているのですね。量産機が敵陣に切り込めば、味方識別機能のある爆破罠が起動し、それをきっかけにカウンター、反転する。これは……ミリアからすればナナミの力は相性最悪ですね。まさか……ミリアが本当に狙っていたのはナナミ? 確かにナナミはミリアの力を完全に無効化できますが、そうすると無効化に手一杯でミリアを直接叩くことが難しい……だから、ミリアを叩く駒としてわたし達と同盟を……なるほど、なぜあれだけわたし達に譲歩した同盟を結んだのかやっと理解ができました」



「ま、そういうことよ。ミリア視点からすれば、私が最大の障害であり、私さえ排除すれば一気に勝ちに近づく。そして、私がヤクモ君達と手を組むことも、ミリアは分かっていたはずよ。ヤクモ君が他の君主を倒した場合、ヤクモ君は戦力を増やして、ヤクモ君と組んだ私を倒す確立も低下する」



 僕の知らないところでそんな駆け引きが……ついていけない……



「もちろんヤクモ君陣営の戦力が低下する可能性もあるけれど、実際にどうなるかは不確定。となれば、ゲーム開始直後、ヤクモ君が戦力を増やす前に私を狙うのが、最も堅実で、最も勝つ可能性が高い択になる。私はミリアを効率よく倒すためにヤクモ君達を利用したけれど、ミリアを倒して配下とすればリターンは大きいし、ヤクモ君達としても、本来は厄介な敵であるミリアを簡単に倒せる。悪い話じゃなかったでしょう?」



 ……確かに委員長の言う通りだ。さっき、委員長の展開した偽物が”空中”で爆発した。これはつまり、ミリアは不可視のトラップを空中にも設置できるってことだ。ククリは高い戦闘能力を持つけど、高機動を活かす前提の強さだ。だけど空中にあんな罠を仕掛けられたら、仮に爆破でやられないにしても、まともに加速できなかったかも……フラウにしたって燃費が悪いから長期戦ができないしな。



逆にミリアはこれだけ広範囲に罠を大量に仕掛けられるんだから、長期戦の適正は言うまでもない。フラウの戦闘形態を保てる時間は三時間だ。ククリとの戦いの後、色々フラウと性能やできることについて話して分かったことだ。もし僕とフラウだけでミリアと戦ったら、一度戦闘形態になれば三時間以内にミリアを見つけて倒さなきゃいけなかった。3時間以内に倒せなければ自動的に敗北が確定する。



「分が悪いとしても、それが最善だとミリアを誘導した。委員長は戦わずして、ミリアを追い込んだんだ……す、凄い……」



「いえ、ヤクモ君。それはミリアを舐めすぎよ。彼女が計算の概念を持っている超魔導鬼械であるなら……分が悪い戦いになんて挑まない。必ず私達の想定外の一手、隠し札を持っているはずよ」



 ──パチパチパチ。



 手を叩く音が僕らの背後から響いた。背筋が凍る……敵なんだ……きっと、後ろにいるのは……ッ!



「流石ナナミ、単純な計算だけじゃなく、人読みも上手い。だから当然、ミリアの意識外を攻める」



「──鎌霧さんッ!? そんな、まさか……」



 ミリアを警戒していた僕たちの前に現れたのは、鎌霧さんだった。



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