第6話:同盟と委員長の謎




 ヤクモがククリを幻想響剣アラベスク・スラストで打倒した時、その光景を見守る人造神でない者達がいた。戦場から遠く離れた別の荒野で、魔法で強化された双眼鏡を使ってヤクモ達を見ていた。



「まぁこの三人は分かっとるよなぁ。ヤクモが最初に止めに行くのはククリってこと、ヤクモがゲームを止めるために動くってこと」



「ヤクモ君が一番に思っているのはククリなのだから当然よ。それにしても、あの白い超魔導鬼械、有人機でナンバーが0、あれが彼の残した切り札なの?」



「うざ、雷名くんが一番に思ってるのはククリって、そうなるように邪魔したのがあんたじゃん……あんたが邪魔しなければ、ワタシはとっくに雷名くんの一番になってるから」



 針杖ミリア、化影ナナミ、鎌霧ロミィ、三人ともヤクモの行動を予測し、ヤクモの行動を監視していた。



「ほんまナナミはうざいよなぁ。まぁ自分はヤクモにふさわしくないって、手を出さない謙虚さは認めてやらんでもないけど、正直ウチらとは比べもんにならんぐらいディープなストーカーやし、ヤクモが知ったらドン引き絶縁やろうなぁ」



「……チッ……ミリア……仮にバレても、仮に絶縁されても……私の勝利条件は、彼の幸福は達成できる。なんの問題もないわ」



「うざいけど、ワタシはナナミのこと嫌いじゃないよ。方向性が違うだけでワタシと似ているし、話も合う。って、あんたヨダレ垂れてるわよ……」



「へ、へっ!? ズビ、ズビビッ、垂れてない垂れてない……」



「いったい何見てたの……? なるほど、ククリが雷名くんにお姫様だっこされるのを見て、自分がそうされるのを妄想したんだ。ククリはあんたじゃないのに、はぁ~キモ」



 ロミィはナナミに呆れ、双眼鏡を放り投げた。



「じゃあ二人共、さよなら。次会ったら殺し合いだね? 容赦はしないよ。ま、お互い様か」



 ロミィがそう宣言すると、三人はラブデスゲームの準備のためにそれぞれの支配地域に帰った。互いが互いを友と認識していても、戦うことは厭わない。彼女達もまた、戦うために生まれた超魔導鬼械だから。




◆◆◆




『さぁさぁ、ついにラブデスゲームの開始だよぉ! そして、追加ルールを発表するよぉ! 雷名ヤクモが君主達を倒し、従えられるようになりました! 彼が他の君主達をすべて倒してもゲームはクリア! けど、雷名くんだけ戦力が増えるっていうのは、ちょっと不公平だよね? だからさらにルールの追加だよ! ヤクモ陣営の戦力を削ったら、それと同じだけのリターンが運営から配布されます! それは魔導鬼械の追加武装だったり! 魔怪獣を仲間に貰えたり、人間の代わりに戦える泥の魔法人形が貰える! つまりぃ、みんなも雷名くん達を攻撃すれば、戦力を増強できるってわけ! 勝ちに近づくよぉ! さ、追加ルールの説明は終わり、ルールブックにも追加しておくから、今ので憶えられなかった子は確認するようにぃ! ゲームスタート! ラブッ! デスッ! ゲェィーム!』



 アルトゥアスの宣言と共にラブデスゲームは始まった。それにしても、やっぱり僕以外のみんなには僕の本当の勝利条件は教えないつもりなんだな。僕には三人の君主を倒せばゲームの中断できると約束したけど、みんなには全ての君主を倒すのがゲームクリアと伝えた。本気で戦えるように……



 僕の配下になれば生き残れる、その対策、そしてゲームバランスを保つために、人造神達は僕をボーナスキャラにした。確かに僕の仲間になればみんな生き残れる可能性はある。だけど、今の僕の陣営に攻撃を仕掛ければ、その分のリターンが貰える。君主さえ負けなければ、雑に仕掛けて逃げるだけで戦力を増強できる。君主でない一般の参加者からすれば、僕の陣営に入るのはリスクの方が大きいかもしれない。



「マイマスター、メッセージが届いています。化影ナナミから、交渉と提案があると、マイマスターとククリに来てほしいと」



 フラウが委員長からメッセージを受け取った。交渉と提案、委員長は僕と同じくゲームを壊すつもりだと言っていた。それに真面目で、いつも僕に対して誠実に接してくれた委員長だ。きっと罠とかじゃないはず、会いに行こう。




◆◆◆




「よかった。想定通りすぐに呼び出しに応じてくれたわね。あまり時間がないわ、あと3時間もすれば、敵がこっちを攻めてくる。それまでに話を終えましょう。単刀直入に言うわ、ヤクモ君、私の陣営と同盟を結んで欲しい」



 委員長との待ち合わせ場所、レッド・スピードの支配地域の境界である荒野、僕達がたどり着くなりすぐ、委員長は同盟を提案してきた。



「同盟、実は僕もそういう話なんじゃないかって思ってたんだ。もちろん受け──」



「ヤクモ! 条件も聞かないで即決なんてダメよ! ナナミは怪しいのよ!」



 同盟を受けようと即答しようとしたところでククリに止められた。言われてみればそうだ……委員長が怪しいかはともかく、ちゃんと同盟内容は先に確認すべきだ。こんな交渉だとか契約みたいなことってしたことないから、冷静さを欠いていた。



「そうね、私が怪しいかはともかく、私もククリに同感だわ。もっと慎重になるべきよ」



「慎重になるべき? ナナミ、それはあなたの行動とは矛盾する」



「矛盾? どこがどう矛盾するのかしら? あー、あなたがあの白い超魔導鬼械なのね」



「慎重になれと言う割に、あなたは時間がないと言った。敵が3時間もすればやってくると。これは明確にマイマスターの焦りを誘発し、慎重に行動することを阻害している」



「そうね、けれど敵が来るだろうというのは事実よ。事前に知っておくべき情報、伝えない方が同盟をしようという相手に不誠実だと思うのだけど?」



 な、なんか……フラウと委員長がバチバチというか、ギスギスというか……ちょっと怖い雰囲気になってる……ククリも委員長を睨んでるし、どうなってるんだ。



「もちろん、わたしもあなたのその行動は現実的に最適に近いと認識している。しかし、仮にそうであっても、この状況を利用し、マイマスターに真意を隠したまま交渉を行おうとしていることには変わりありません。マイマスター、この超魔導鬼械は危険です。これと同盟をすべきではありません。彼女は嘘を言わずに、マイマスターを騙そうとしている」



 委員長が僕を騙す? フラウの考え過ぎじゃないのか? だって、今まで委員長は……僕の前では常に正しく、誠実に振る舞っていた。まさか……委員長もククリや他の君主達と同じく、バグってるって言うのか? それは確かに僕に否定しきれることじゃないけど……



「騙すだなんて、証拠もないのに心外だわ。私はヤクモ君が最も効率よく生き残り、幸福を手にする、その手助けがしたいだけよ」



 僕のため……? 待って? なんで、委員長が僕の幸福のために? ど、どういうことなんだ? 委員長は僕のこと別に好きじゃないはずじゃ? 今までそう関わりもなかったし、仲もそれほど良くなかった。なんか、変だ……どうして委員長が僕の幸福のために動くの? そんな理由なんてないはずなのに……



「……今ナナミが言ったのは嘘じゃない。こいつがヤクモの幸福のためにって言った時、ナナミから強い衝動を感じた。嘘っぽい、表面上の言葉じゃなかった。同盟の内容ぐらいは聞いてもいいかもね」



 ククリは衝撃と反発の概念の力を持ってる。だから、委員長の心の動き、衝動が分かったのか? それにしても、ククリがものすごい真面目な顔をしている。キリッとしていて、いつもとは違った可愛さがある──はっ!? い、今はそんなことを考えている場合じゃないぞ僕!?



「そうね、具体的な同盟の内容を話すわ。互いの陣営での不戦、そして他陣営との戦いが起きれば、可能なら共闘すること。例外はあるかもだけど、基本的にはヤクモ君が君主を倒すように私達がサポートする。私達の陣営はヤクモ君達を攻撃できないから、戦力を増やせない。だから勝ちを目指すならヤクモ君が敵君主を倒して、その戦力を取り込む必要がある。同盟の破棄についてだけど、こちらからの破棄は不可、ヤクモ君からの同盟破棄のみを認めるわ。同意の必要はなし、これは私達が裏切るタイミングを選べると、あなた達にとってリスクが高すぎるからよ。こちらがもし裏切るなら、そのタイミングで攻撃を仕掛ければ、それだけで大きなリターンが得られる可能性が高いから」



「流石にこちらに譲歩し過ぎではありませんか? あなたはともかく、あなたの陣営の方々はその同盟内容に納得するでしょうか? それと、なぜこのタイミングで同盟を? 提案だけならばもっと早くに出来たはずです」



 た、確かに……多分この感じだと委員長はもっと早くに同盟のことを考えていたはず、どうしてこのタイミングなんだ? 流石に僕がククリを倒して仲間にしたことは、すぐに情報が入ったはずだ。僕がククリを仲間にしたのは三日前……その間、同盟内容を考えてたとか? けど、委員長はアクティブに動いてて、迷いだってあるように見えないんだよな。



「配下は概ね私の判断を認めるはずよ。私の配下の殆どは、かつて私と共に人造神と戦った者や、その子孫。私の指揮官としての能力、正しさを認めている。同盟の提案が急になったのは、人造神がルールの追加をするだろうと思ったからよ。ヤクモ君がククリに勝って、ククリをその配下とした瞬間に、私はルールの追加や変更があると確信した。どう考えてもそのままだとバランスが取れない。仮にルールの変更が来る前に同盟を結び、同盟締結後にルールが変更されたら? それで同盟内容が変更後ルールと噛み合わなかった……なんて、最悪でしょう? 結局、人造神はゲーム開始後にルールを変更した。おそらく私のように同盟を考える者がいることを考えてでしょうね」



「マイマスター、やはりわたしはこれと同盟を結ぶことは非推奨です。一見すると論理的ですが、その思考の根本が不可解です。あまりに自陣営の利益を考えなさ過ぎです。マイマスターと同じくゲームの破壊を目的としても、異常です。裏があるはずです」



「ふ、フラウ……そうだね。じゃあ委員長、聞かせてよ。君は、本当にこのゲームを破壊して、僕たちの日常を取り戻すつもりなんだよね? 仮に僕に隠したい真意があるとしても……それは本当のことなんだよね?」



「ええ、誓うわ。私の勝利条件は、ヤクモ君、あなたと同じよ」



 ククリの方を見る。ククリは頷いている。委員長は嘘は言ってない……僕とククリのそんなやり取りを見て、フラウは落ち込んでいた。僕がどんな判断をするのかが、分かってしまったからだと思う。ごめんフラウ……



「委員長、僕は君達と同盟を結ぶよ。みんなで生き残って、ゲームを壊す。僕たちの日常を取り戻すんだ!」



「マイマスター……仕方ありませんね。ナナミ、わたしはあなたを信用しません。もしもマイマスターの意に背く行いをすれば、わたしはあなたを許しません」



「許さない? あなた、一人で私と戦えるの? 有人機で自律もできない。それがヤクモ君を守る騎士のつもり? 笑えないわね。力の足りない者が吠えても虚しいだけよ?」



 う、うわ!? す、凄い険悪だ……委員長って、こんな険しい顔で怒ったりする人だったんだ……フラウ、委員長に威圧されて、ちょっと怯えてる……そりゃそうだよな、フラウは生まれてからずっと封印されてたらしいし、しっかりしてるように見えても、まだ幼い、子供みたいなものなんだ。それにしても、委員長は昔、人造神と戦ってたって……じゃあやっぱり、他の君主、他の超魔導鬼械も人造神と戦ってたってこと? そして……負けたんだ……



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