第5話:デスゲームの修正パッチ




「とりあえずククリを運ぼうか……ねぇフラウ、ククリをコックピットに入れても良い?」



『え? どうして確認を? もちろん構いません』



 いや、一応自分の中に入れるようなものだから確認とった方がいいかなって……そう考えるとあれだね。家とかにも意志があったら、僕は同じこと聞いてたかも。



 僕はコックピットの前面装甲のリアライズを部分的に解き、装甲が消えできた穴から地面へと飛び降りる。フラウが超魔導鬼械に変身する時に出す竜巻のようなあれを展開し、僕を浮かせて着地の衝撃を和らげた。気絶して地面に横たわるククリを抱き上げ、今度は僕とククリの二人をフラウの竜巻でコックピットまで運んでもらう。コックピット内に僕達が入ると、前面装甲は再びリアライズされて元に戻った。



『これだと快適性が悪いので、空間の拡張を行いますね』



 フラウがそう言うと、なんとコックピット内部が広くなった。そしてソファのような椅子がリアライズされた。ククリをここに寝かせろってことなんだと思うけど。



 ソファが……僕の家にあったソファまんまだったから、巨大ロボットのコックピットなのに、一気に家感がマシマシになった。まぁ、僕の記憶から引用? 参考にしてソファにしたんだろうね。ククリをソファに寝かせて、機体を動かす。元いた場所、ククリの支配地域である【レッド・スピード】に戻らないとだ。



 コックピットの、フラウのシートって全然揺れないんだよな。機体が激しく動いてもほとんど揺れなかった。まぁ、魔法でそういう対策があるんだろうなぁ。なので、ソファで寝ているククリもぐっすりだ。さすがにもう顔の赤みは引いたみたいだね。



今は気絶ってよりは普通に寝てる感じ、というか、爆睡している……ソファによだれを大胆に垂らしている。なんとなく、フラウがイライラしているような気がした。なので、僕の服でククリのよだれを拭いておいた。



『んなっ!? 駄目ですマイマスター! 衣服が汚染されてしまいます! う~~、気が効かず申し訳ありません!』



 なんか魔法陣が展開されて、風が流れてきた。ドライヤーみたいな音だ。明らかに僕がククリのよだれを拭いた学生服の袖口を狙って風が送り込まれている。もしかしてと思って、袖口の匂いを嗅いでみる。



『なんで!?』



 フラウは何か困惑しているようだったけど、やはり僕の予想通り、除菌とか清掃とかそういう効果のある魔法の風っぽい。まったく臭くない。



「なんか凄いね。フラウは色々できるんだね!」



『はい! あまり複雑なものはリソースを使い過ぎるので推奨できませんが。大抵のことは再現することが可能なのです! ただ、こうした機能は超魔導鬼械の時のみ使用可能なので、非戦闘時、対話形態は無力です。対話形態は、人のような姿をしている状態ですね』



「なるほど~! えっと、対話形態って低燃費モードとかそういう感じ? 休んでるみたいな認識でいいのかな?」



『いえ、本来は違います。通常の超魔導鬼械は対話形態でもある程度力を使えますし、戦闘形態でも長時間の活動が可能です。ですが、わたしは燃費が最悪なので、実質的に休息状態となってしまっているだけです。わたしは戦闘形態ですと、能力の使用に関わらず、常時魔力を大量消費してしまうんです』



「そうだったんだ。でも納得だよ。法則歪曲、凄い力だから、それぐらいの欠点はある方が自然だよね」



 僕は機体操作を色々試しながら、フラウに機体性能の説明を受けたりしながら、【レッド・スピード】に移動した。



 【レッド・スピード】の要塞のあった場所まで戻り、フラウの戦闘形態を解除して、地に足をつけると、丁度ククリが目覚めた。



「あれ? ヤクモ? あたし寝ちゃってた? んや~~? ふゃ!? なんで抱っこ!? しかも、お、おひ!? お姫様だ抱っこ!?」



「だって運ばなきゃだし……でも良かった。この感じだといつも通りって感じだね。沸騰したヤカンみたいになって爆発した時は心配だったけど、よかったよかった」



「沸騰したヤカン? なにそれ? ん~~~?」



「え? ほら、結婚の話したらさ、ククリ爆発したじゃん! 憶えてないの!?」



「あたしが爆発? え~? 憶えてないかも……あ! でも、そっか。あたしヤクモと戦ってた気がする。でもおんぶされて寝てたってことはヤクモが勝負に勝ったんだ!」



 勝負に勝った、という気は全くしないけど……ククリ、憶えてないんだ……じゃあ、僕がククリにした告白も……憶えてないってことになる。結構全力で、気合入れて言ったんだけどなぁ~。



 だけど、ククリのあの反応を見るに、ククリは僕に結婚しろしろとうるさい癖に、僕に結婚を受け入れられる覚悟はないのかも……変な話だけど、あれか……攻撃力は高いけど防御力は低いみたいな……



「要塞も元通りになってる……これもリアライズ技術を使って修復したのかな? そうだククリ! 父さんと母さんに会わせてよ! 君の両親にも!」



「あいよ~~」



 あいよ~~じゃないよ! こっちは結構苦労したんだけどなぁ……でも、これではっきりした。今のククリは完全に正気だ。




◆◆◆




「父さん! 母さん! ごめん、すぐに来れなくて。心配かけたよね」



「ヤクモ、気にするな。やるべきことがあったんだろ? ククリちゃんがいつもの感じに戻ったのは、お前のおかげなんだろ? 男として、やるべきことをやったんだな」



「お父さん! 男としてやるべきことをヤクモちゃんが!? ククリちゃんに!? まぁ、それって……もうあれやこれやをしちゃったってコト!?」



「ち、違うよ! 別に何もないよ! 何もないってことになったっていうか……ククリを助けたいと思って動いたのはそうだけど、ホント、特に何もなかったんだ」



「おい、ヤクモ~、しっかりしろォ! 父さんと母さんは別にお前が学生結婚しても、全然許すんだぞ?」



「ななな、うなああああああ!??」



「父さん、母さん! もう! 二人が滅茶苦茶言うから、ククリがヤカンみたいになっちゃったじゃないかぁ!」



 父さんと母さんに再開、初手で言いたい放題される。二人は要塞の地下にいたらしい。



けど、僕の両親の認識は一方通行じゃなくて、僕がククリの両親にも会うと同じようなことを言われた。どっちも公認ということになる。そしてククリは結婚のことを真面目に考え出すとヘタレて逃げ出した。それを見て僕とククリの両親はある程度事情を察したらしい。そして僕に頑張れとだけ言った。



 まぁそれはともかくとして、まずはこのラブデスゲームをどうにかしないことには、結婚どころじゃない。ゲームを壊すと決めたもののどうすればいいんだろうか? 僕はそんなことを考えながらトイレで用を足す。



「うぇーい! ヤクモン!」



「うわあぁっ!?」



 び、びっくりしたぁ~!? いつの間にか男子トイレにアルトゥアスがいた。あ、危ない……ちょっと飛び上がっちゃったから、おしっこをズボンとか靴にひっかけそうになった。か、角度を調整しないと……アルトゥアスに見えてしまう……よし、この角度からなら見えないぞ!



「おんやぁ? なんだか反抗的だねぇ~そんなに隠したいんだ。でも無駄だしぃ、隠されると俄然見たくなるってものだよね! ハッ!!」



「うわああああ!?」



 アルトゥアスがわざわざ転移して僕の、アレを見てきた……な、なんてやつだ……



「まぁそもそも透視もできるからこんなことするまでもないけど、やっぱり反応が合ったほうが面白い!」



 なんだかおっさん的な発想だなぁ……



「な、何のようだ!」



 さり気なくズボンを履き、チャックを閉めて、アルトゥアスに問う。



「いやね? ヤクモンが予想外に活躍してククリンに勝っちゃったもんだからさ、色々とルールを修正というか、追加しないとなんだよ。ヤクモンはゲームを壊す、そう言ってたよね? みんなに殺し合いをさせないため、みんなが生きる道を探すためにさ。だからヤクモンが勝ったらそれを叶えてあげようと思ってね。でもヤクモンには具体的な勝利条件が設定されてないでしょ? だからあちしがそれを決めてあげるんだ」



 僕の勝利条件? 勝利条件をアルトゥアスが考えたってことは、ある意味で僕を認めたってことか? ゲームになるだけの、クリア可能な条件なんだろうか? ……アルトゥアスの目的が楽しむことで、僕のゲーム介入を例外的に認めたことを踏まえると……真っ当な条件な可能性が高いか?



「ゲームの破壊とは、ゲームとして成立しない状態にすることを言うんだ。あちし達はデスゲーム、殺し合いをさせたいわけだから。その殺し合いが減り過ぎたら、殺し合いとしてゲームは成立していない。三人、七人中三人の君主をヤクモンが殺さずに倒したら、ゲームを破壊したと認めてあげる。ラブデスゲームは中断、みんなを元いた世界に返す。どうかな? やる気が出てきたんじゃな~い?」



「僕が倒した君主や、その庇護下にある人達はどうなる?」



「ヤクモンが倒した君主と庇護下の者はヤクモンを新しい君主として設定する。君主がヤクモンに負けても誰も死なない。だからヤクモンの陣営は他の陣営を取り込んで戦力を増やせるってことになる」



「……ありがたいことだけど、僕に有利過ぎるんじゃないのか?」



「わかってないなぁ。そうしないとヤクモンに負けた陣営を完全にゲームから除外することになっちゃうじゃん。だって、ヤクモンの目的はゲームの破壊で、みんなを生かすことでしょ? それを満たしつつ殺し合いをちゃんと発生させるのが一番なんだよ。ヤクモンが負けたら、ヤクモンに負けた、ゲームから隔離されたみんなも死ぬっていうのも考えたけど、やっぱり戦って死んで欲しいの」



 あくまで戦って死ね……かぁ……勝てば大丈夫、そんな希望が見えるだけ全然マシではある。



「ああそれと、ヤクモンの勝利条件はみんなには秘密だよ。わざとヤクモンに負けようとするヤツが出るかもだし、本気で戦わなきゃ殺すと脅しても、どこか頭の中で負けても大丈夫って意識が芽生えちゃうからね。みんなに伝えていいのは、ヤクモンに負けたらヤクモンの仲間になるってことだけ」



 アルトゥアス、こいつは僕が思っていたよりもゲームに対して誠実だ……だからこそ嫌な確信がある。僕だけが仲間を増やせるという有利過ぎる条件……アルトゥアスがゲームに対して誠実であるなら──必ずゲームバランスを取ってくる。どこかで僕が不利になる要素を用意してくるはずだ。



「ヤクモンはククリンをすでに倒してるから、あと二人をヤクモンの手で倒せばゲームクリア。ま、あちしが望むことは面白い戦いだから、頑張ってあちしを楽しませてよね!」



 アルトゥアスはそう言うと転移して男子トイレから消えた。


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