第六節:暗闇に襲われて
佐藤防衛大臣は、急いで内閣総理大臣の執務室に向かっていた。
ドアの前に着くと二人のspがおり、軽く会釈をし一息つきノックし開けると、執務室は静な緊張感に包まれている。
内閣総理大臣とその職員達それとspが集まっていた。
こちらを見る彼らも、異変に対する不安が顔に表れていた。
内閣総理大臣は佐藤防衛大臣の姿を見ると、急いで立ち上がる。
彼の目にも明らかな緊張と不安が宿っていたが、指導者としての冷静さを保とうと、取り繕っているのが取って見えた。
「佐藤大臣、良く来てくれた。こちらでも現状を調査しているが、通信が機能せずお手上げなのだ、そちらはどうかね?」
内閣総理大臣は、落ち着こうとしてかゆっくり尋ねる。
佐藤大臣は首を軽く横にふり、口を開いた。
「尾神総理ご無事で何よりです」
総理の安否を確認出来た佐藤大臣は続ける。
「今だ詳細な状況は不明です。通信網は断絶し情報の伝達が不可能であり、技術チームは原因の調査に取りかかっていますが、まだ結果は出ていません。同時に、国会議事堂内の通路に不気味な模様が浮き出ていました。外にも異変が広がっている事が予測はされますね」
そう言うと佐藤防衛大臣は、深い溜め息をつく尾神総理と周囲の職員達を見ている。
政府職員は不安な表情を浮かべ、小声でその不安を漏らしていた。
「そうか、せめて周囲の状況だけでもわかれば良いのだが、緊急回線も衛星通信も駄目だとなるとな……」
席に座り直しながらそう言いう尾上総理の表情は、困惑し焦燥感が現れている。
「それについては既に手は打ってます。展望デッキに私の政務官と秘書、防衛省に三人の職員を向かわせました、そこで何らかの情報を持って帰って来るでしょう」
そう言うと近くのソファーに、佐藤大臣は腰を下ろした。
「なら、今は待つしかないな……待っている間に今、議事堂内にいる議員や大臣を全員、此処に集めようと思うが佐藤大臣はどう思うかね?」
佐藤防衛大臣を見ながら尾神総理は聞いてきた。
「そうですね、状況が状況ですから現状の把握と共有はするべきでしょうね。後、退避の算段もつけておくべきでしょう……テロ……では無いでしょうから」
そう答えながらも佐藤防衛大臣は何かを考えている。
佐藤防衛大臣は一瞬テロの可能性も頭に過ったものの、通路に浮かび上がった模様を思いだし単なるテロの可能性を否定したのだった。
「わかった、そうしよう」
そう佐藤大臣に答え、続いて職員達を見渡し指示を出す。
「皆聞いていたな? すまないが各自手分けして呼んできてくれ、くれぐれも注意して当たってくれ、何が起きるかわからんからな」
そう言い終わると尾神総理は一息つき、椅子に深く座る。
職員達は指示を受けすぐさま行動に移し、各自散らばって行く。
室内は総理大臣と佐藤大臣、そして二名のspだけになった。
それを確認した佐藤大臣は、おもむろに立ち上がる。
「総理、一つお聞きしたい」
そう言うと佐藤大臣は総理大臣の机の前にたった。
「なにかね?」
落ち着いた声で答える、しかし表情は曇ったままの総理大臣。
「脱出経路についてです。総理は有事の際に使用出来る、国会議事堂と皇居を繋ぐ地下の連絡通路が何処に在るかご存じですね?」
そう詰め寄る佐藤大臣に尾神総理は座ったまま椅子を回し背を向ける。
「何故、そんな事を聞く? 例え在ったとしても、通常の避難経路で移動すれば良いのではないかね?」
背を向けながら答える総理大臣。
「ただ単なるテロで有れば、有事の際に使う通常の避難経路で良いでしょう。しかし詳細な情報はまだですが、今回のこれはただ事では無い様に思えます。いざという時の為、確認しておきたいのです」
背中を向けたままの総理に、佐藤大臣は声は押さえているものの、ハッキリと強い口調で言い放った。
背を向けたままの総理は、何かを考えているのか両腕を胸の前で組み沈黙を保っている。
数秒の沈黙があり、それを破るように執務室のドアが勢い良く開いた。
「尾神総理大臣、佐藤防衛大臣、展望デッキからの状況報告に上がりました」
そう言って入って来たのは佐藤大臣の政務官だった。
「どうだった、何か見えたか? 街の様子は確認できたか?」
落ち着きを払いながらも、矢継ぎ早に質問する佐藤大臣。
「街の様子は、見たこともない青白い空と霧か霞か判りませんが、それに覆われてしまって、はっきりとは判りませんでした。ただ爆発音と発砲音らしきものが聞こえました、それとその切れ間から見えた巨大な何か……」
そこまで言うと政務官は話すのを止め視線を下げた。
「総理、大臣、早くこの場を離れる方が懸命かもしれません……」
そう政務官が言い終わると同時に議事堂内の電気が一斉に消える。
「何だ、停電か? 総理をお守りしろ」
spの一人がそう言うと暗闇の中、総理が座っていたであろう場所に駆け寄る。
「落ち着いてくれ、国会議事堂には自家発電の予備が有る、すぐに復旧するはずだ」
佐藤大臣が闇の中でそう言った近くで、ゴトンと何かが落ちる音がした。
その直後にドサッっと何かが倒れる音がする。
「何だ、何の音だ?」
暗闇の中、焦りを隠せない佐藤大臣が呟くと同時に、予備の電源が入り部屋に明かりがつく。
部屋の中には首を落とされ、血を流し倒れている政務官、そして赤く光った目と手足の尖った体を持ち深い闇色の異形の姿が在った。
右腕であろう鋭利な刃物の様な所からは血が滴たり、壁や調度品には血渋きがついている。
全員がその異様な光景を目の当たりにして困惑し恐怖した。
同時に国会議事堂内であちこちで悲鳴が上がっている。
執務室と同じ状態が他の場所でも起こっていたのだった。
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